本日の本請け(2025.1月)
読んだ本とそのときのお供。
『MIDNIGHT PIZZA CLUB 1st BLAZE LANGTANG VALLEY』仲野太賀、上出遼平、阿部裕介(講談社)
Audibleで何か聴くものないかなーと探していたときに、本当にたまたま、仲野太賀さんのポッドキャストに出会いました。お手紙に答えたり、旅の話をされていたり。あまり気負っていなくて聴きやすくて。そうしたら今度旅の本を出します!ということだったので買ってみました。
テレビのプロデューサー兼、旅をしたり文筆家だったりする上出さん、カメラマンの阿部さん、そして俳優の仲野さん。3人が友達になり、阿部さんオススメの旅の目的地、ネパールのランタン谷を目指すことに。旅の様子が上出さんの文章と、写真たちで語られていく一冊。
本を買った後にAudibleで発売されているのを見てえっ、じゃあAudibleだけで聴けばよかったかな〜、まあ写真入ってるしいっかと思っていたら、文章は後から回想してふざけたり真剣になったりして上出さんが書いているのだけど、Audibleはその朗読じゃなくて、旅の様子の録音や、3人が振り返ってしゃべる様子を録音したものなんです。
音声では現地の人たちの言葉も聴けたり、雰囲気もわかる。だからか、文章では思いっきり脚色して書いているところなんかもあって読みごたえも面白みもある!一粒で二度おいしい。
歪んでるものごと旅をする、その姿勢がすっきりとして見えてしまった。
阿部さんが破天荒っぷりを発揮して笑っちゃったけど、きっととても真剣なんだよな、なんて。あと、男の子っていいなあって気持ちを思い出してしまった。同じことを自分がやろうとしてもハードルが高すぎるし。一緒に旅をしている気持ちにはなれたけど、ちょっと寂しくもなってしまったが、それは自分の勝手な感傷かな。
アップルモモ、食べてみたいなあ。
『酒をやめられない文学研究者とタバコがやめられない精神科医の往復書簡』松本俊彦、横道誠(太田出版)
この本、本屋かSNSで見かけて気になっていたのですが、こちらの動画を見て購入を決意。年末に読みました。
とても共感してしまいました。
比べるべくもないかもしれないですが、学習支援をしていて、「オタクがやめられない」みたいなことを子どもとお話したことがあって、いろいろ話しているうちに「こんな世の中何かに縋ってないと生きてらんねえよな!」という結論になってわあわあ一緒になって言ってたときがあるのです。
自分がこうやって、本を読んで毎月感想を一定数あげているのだって、「偉いな」って思ってくれる人と「ヤバいな」って思う人と、半々な気もするんですよね……それは受け取り方の違いでしかなくて。まあ、執着するものの中では読書は健全なものの方だとは思っているんですけれど。
『ウイルス学者さん、うちの国ヤバいので来てください。』古瀬祐気(中央公論新社)
これも積読チャンネルの動画で見て購入。年末に読みたい!というタイミングが来ると紙でなく電子書籍で購入してしまう。
著者は感染症の専門家。
エボラウイルスの対策にアフリカに行ったときの話、著者のキャリアの話、日本でのコロナウイルス対策の話、というのが主な内容。どれも面白かった!
お医者さんではあるのだけど、人と働くにあたってどの仕事を誰に頼むか、ちょっとデータを見せてほしいなというときにどう交渉するのか、何を「正しい」と判断するのか、などは普段のビジネスの現場でもあまり変わらない気がして読みごたえがありました。
それでいてグイグイ読める文章力。一気に読んでしまいました。
『酒をやめられない〜』でも読んでいて思ったのですが、この本でも何度も「あの人にはあの人のこういう考えがあったのだろう」とか、「今思うと自分もこういうところがよくなかった」とか、何度も反省や他者の立場を慮る場面があって、もちろん反省すればそれでいいのか!?という反論もあるのかもしれないのだけど、やっぱり人間だからそのときの感情もあるし……と思って、内省大事だし、セルフチェックは欠かせないなと思いました。
『女王国の城』有栖川有栖(東京創元社)
先月に続き、江神シリーズ復習の再読。
507ページと分厚く、かつ二段組!年末年始はどっぷり浸りました。
アリスとマリアの「淋しさ」についての問答、昔はどう読んでいたんだろうな、とかつての自分に聞きたくなりました。
読んでいるうちにかなり思い出した部分もありつつ、事件に直接は関わりのないところを読んでいて「う〜む」と思ってしまった。というのも、宗教に関する話で、『酒をやめられない〜』でも宗教の話が出てきていたし、また「これから陰謀論はますます流行るだろう」という記述があって「今」がその通り過ぎるなと。
ここの他にも「騙されてる、操られてる、と考えることは甘美やからな。わが身の至らなさも『世界がアンフェアだからだ』と自己弁護できる人任せの社会は、責任も人に投げ返す」いう言及もあって、ものすごく心当たりがあって。この本は新刊で買ったのですが、初版を確認してしまいました。2007年……17、8年前?
このときにこの言葉たちをちゃんと受け止めたんだろうか、自分は、と思ってしまって。何もかもに自分に都合の良い理屈をつけていないかな?
ミステリは論理的な思考をすることで答えまで辿り着くことができてそこが面白いし好きです。
「陰謀論が流行る」っていうここで記述されている未来が実現してしまっているのはこの2007年の時間軸での現実を受け止めて分析して検討してこうなるだろうと思考されてここに書かれたのが、結果として正しい予測となってしまった……のだと思うのです。
陰謀論の流行が成立したのは決して陰謀ではなく、私たち自身が一歩一歩、楽な方に歩いてきてしまった結果なんじゃないのかなあって。
そんなことを考えて、やっぱりことさら作り物めいているからこそ、ミステリが好きだし内省できるのだと、思いもしました。
『砂男』有栖川有栖(文春文庫)
予習した上で、有栖川有栖の短編集にいどみました。
江神シリーズが2編と、推理小説家と弟子の話が1編、時節を逃したという火村シリーズが2編と、小さな謎を解く探偵の話が1編。
「推理研VSパズル研」で出てきた緑色の目と青い目の村人の数学クイズの話、有名なものらしいのですが今井むつみさんの『ことばと思考』読んでいたので、村の外から来た人の母語には「緑」と「青」の区別がなくて、「同じ色」扱いだったのでは!?とか考えてしまって前提からして崩れていて解けませんでした(笑)。けれど、いい着眼点だと思うので、短編に出てきた推理小説家の師匠に判定してほしい。
「海より深い川」はなるほど、前書きにあった通りこれはこういう発表の仕方しかなかっただろうなとも思ったし、誠実だなと感じました。
『死んだ山田と教室』金子玲介(講談社)
書店で見かけ続けていてずっと気になっていたんだけど、年始になんとなく冒頭だけパラパラっと見て面白そうだった購入。
男子高校生の「バカだな〜」ってノリ、深夜ラジオ好きにはたまらない流れ、ケラケラ笑いながら読んでたのですが、前半と後半であまりにも空気が違って読み終わったときに感情の置きどころがわからなくて唸ってしまいました。
著者紹介で「メフィスト賞」だと知りなんとなく納得はしました。なるほど。
最後の展開については好み分かれそう……。自分は前半の方が好きかな。後半も嫌いではないし、こういうもやもやしたものも含めて物語を愛しているけれど、うーん、物語って本当に終わらせるのが大変だ、などと思ってしまった……。
『地雷グリコ』青崎有吾(KADOKAWA)
オーディオブックで読了。これで2024年のこのミステリーがすごいの第3位までを制覇した!
最初は学校祭の出し物の場所をかけての勝負。そこから大金を賭けた勝負に巻き込まれていくちゃらんぽらんだけどゲームが強い主人公の友人、真兎(まと)。ジャンケン、グリコ、だるまさんがころんだなど、誰しもがやったことのある遊びに一工夫凝らしたゲームで、真兎がどのように勝つか、というライトノベルっぽい話です。
ボドゲが好きな人は絶対好きだと思う。
ちなみに、ここに出てくる自由律ジャンケンを本当にやってる動画があった。たぶん、小説を先に読んでからの方が面白いかもです。
ボドゲとかもそうなんだけど、ゲームって「ルールを聞いた通りに解釈してその解釈通りのルールで遊ぶ」ことを暗黙の了解としてると思うんです。
でも、真兎ってその、ルールの内側にある「暗黙の了解」のところをぶち壊してルールスレスレで戦ってて、ちょっとずるくない!?でもルール内か~!みたいな感じがあって。それが爽快でもあるんだけど、でも、ゲームってコミュニケーションのためにやることでもあるから、何かを賭けてではなく普通のゲームでこれやられるとなんだこいつ、で終わるなと思ってしまって。野暮なことを言ってる自覚はあります。
あと、パンツとか赤い下着のくだり、心底いらねえ〜ってなりました。駆け引きに集中できない。コンプラうるせえなと思われるかもしれないんだけど、キャラづけのためにそういうことを強調する風潮はもう本当にいらないしダサい。カーディガンの着方がだらしない、とか椚先輩に対するナメた口のきき方やからかいだけで伝わるのにな。
『ことばと思考』今井むつみ(岩波新書)
今井先生の本がもっと読みたいなと思っていたらKindle Unlimitedにあるのを見つけて読みました。以前読んだ『言語の本質』がこの本の後に出ているので詳しいのですが、それよりももう少し絞ってお話してくれているのでわかりやすい気がしました。先にこっちを読んでいたらよかったかも?
他の著作でも出てくるこの部分に、何度でも関心してしまう。学習をするときにもかなり関わってくる気がしていて。
ヒトと動物との違いは何なのか、という『言語の本質』でも語られていた部分を再度認識できました。
最後のまとめに出てきたこの部分。母語以外の言語を学ぶときに、まずはここを知っているとずいぶん違うのではないかなと思いました。「他者の世界の見方」が言語を学ぶことで見えてくるし、「さまざまな切り分け方があるんだな」と実感を持って知ることができる。
それにしても、出てくるさまざまな実験がすばらしい。
その結果も本当に面白いのだけど、実験が考え抜かれていて、「どういう実験を行うか」を考えられることってすごいことなんだなって思います。
『四字熟語で始める漢文入門』円満字二郎(ちくまプリマー新書)
ちくまプリマー新書って読みやすくわかりやすくていいよね……となり、書店で気になった本を購入しました。
余裕綽綽など、聞き馴染みのある四字熟語で説明される中国故事が面白い!
暴虎馮河の説明で出てきた、『論語』の元ヤン年上弟子おじさん子路と孔子の関係の考察がものすごく面白かった!この著者の人は、孔子にとっても子路という弟子はキツめに絡んでもいい存在だったのかも……という読み方がとても好きで。
現代風の解釈というより、この著者の方のものの見方がすごく好きで楽しかった!
社会を重視すべきときには儒教、個人を大切にしたいときには老荘思想に頼りながら生きてきたのだろう、というのも興味深かった。うーん、『論語』や『老子』も読んでみたい。正直、これまで興味がなかったのだけど、読みたいと思う日が来ると思ってなかったので自分に自分で驚きました。
朝三暮四を取り上げているところで猿を飼っている人の話が出てきて、この四字熟語ってそういう話から来てるの!?とびっくりしたし、それに、最後に書いてあった、これは私の勝手な解釈だけど元の原文を読むからこそ解釈が可能になって面白い!」とあってその通りだなとなりました。
そして思い出したのが、大学のときに漢文を原文で読む授業で先生がやたらと「これ、どう思います?こっちにもとれるけどこうとも読めるよね?ね?」とやたら聞いてきたことです。
私はこの授業のときにずっと困惑していて、「いや、それを教わるために授業に出ているんだが……この先生全部聞いてくる……わからんて……」と思っていたんです。
あー、もったいないことしていたなー、と今さらながらに後悔しています(笑)。
『ジェリコの製本職人』著・ピップ・ウィリアムズ、訳・最所篤子(小学館)
同じ著者の前作『小さなことばたちの辞書』が大好きで大切な本になったので、その姉妹本というこの本の発売を知ったときには飛び上がって喜んでしまいました!
前作と同年代、第一次世界大戦中のイギリスが舞台。
製本所で双子の妹とともに働くペギーが主人公。母譲りで本を読むのが好きだけれど、労働階級の彼女にとって学問をするということは夢のまた夢。目が離せない障害のある妹もいて、そんなことはあきらめている。戦争は日に日に激しくなり、街にベルギー難民がやってきて、疫病が流行。激動の時代の中、ペギーはベルギー負傷兵と恋に落ち、その一方で周囲の協力もあり大学を目指すことにする。
今作も本当によかった。
章にはそれぞれ本のタイトルがついているのだけど、その章の中で本がじゅうような役割を持っていて本当にすごかった。
前作とのつながりもあって、とても好きでした。
個人的に刺さったのがここ。
ペギーが大学進学についてうまくいかなくなったとき、彼女をその気にさせたグウェンに対して激しい感情を持ってこのように語られるのだけど、学習支援のボランティアをしている身としてはぐさっときてしまいました。それに対して司書の人が言い放つのがこれ。
ここを読んだとき、宙を見上げてしまった。残酷だよーとなってしまって、気を取り直して読み続けるのに少しかかってしまいました。
妹への気持ち、ベルギーからロッタがもたらした変化、バスティアンとの恋……ラストまでとてもとてもよかったです。
『東京サラダボウルー国際捜査事件簿ー』黒丸(講談社)
以前に見かけて、読んでみたいなと思っていたのですが、ドラマが始まる前に!と思って年末年始一気読み。
絵が軽やかで、スタイリッシュだけどやわらかさもあって素敵でした。