本日の本請け(2023.7月)
本とそれに合う飲み物・食べ物を用意して写真を撮り、徒然なるままに感想を書いております。今月はなんだか饒舌。
『1Q84―BOOK2〈7月-9月〉後編』村上春樹(新潮文庫)
6月の中旬頃から聴いていたのですが、続きの巻がAudibleに追加されるのが7月になってからなのに、このペースで聴いていたら更新までじりじりしちゃう!と思って、聴くペースを調整しました(笑)。
余談ですが先月、小川洋子の『猫を抱いて象と泳ぐ』を聴いたのは、その調整の一環くらいの軽い気持ちだったのですが、すごーく良くて、いい出会いでした。
聴いていて最後「あっ、終わりだ……」と思ったのですが、あれ、いや、BOOK3ある、よね!?となって混乱しました。それくらい、え、ここで終わりなのでは?という気持ちが強く。
Wikipedia見たら、発売時期がBOOK1、2と3で離れているんですね。
当時読者、どんな気持ちだったんだろう……と思ってしまいました。
お菓子はスノーチーズ。とてもおいしいのですが、並んでいてなかなか買えない。これはもらいものです。
『卒業生には向かない真実』ホリー・ジャクソン(東京創元社)
プルーフ先読みキャンペーンに当選したので、ひと足早く読むことができました!発売日いつかなと検索していたらこういうキャンペーンあるんだ!と知りました。
表紙が実際のものとは違います。実際のものの表紙、すごくいい。3冊並べると朝、昼、夜になります。
いやー、面白かった(と、興奮のままにいっていいのか)。
とんでもない厚さなので躊躇してしまうかもしれないのですが、ぜひ、できたら3部作3冊一気読みしていただきたい!ネタバレをしてしまうので、詳しくは書けない!
イギリスでドラマ化も進行中のようです。楽しみ。
『マンガ学からの言語研究』出原健一(ひつじ書房)
「Youtubeでよく何見てる?」という話を友人としたときに、教えてもらったゆる言語学ラジオ。
書店でフェアが行われる、ということで行ってみました。せっかくだからどれか買おうと考えてこちらをチョイス。
大学でマンガを勉強していたので、興味があったのです。とはいえ、少女マンガというくくりで触っただけ、しかも論文的な文章を読む頭がかなり遠ざかっていたので、少しずつ少しずつ、ページを行きつ戻りつして読み終わりました。
言語学的な授業を取った覚えがなく、おそらく初めて知ることばかりでとても面白かったです。
英語は客観的で日本語は主観的、というのが目から鱗で。
というのも中学生の頃からずっと「suprised」の「驚かされる」が疑問だったのです。「驚く」って単語があればいいのに何これ〜?って。ちょっと納得しました。
ざっくりとしたまとめですが、マンガのコマで「その人から見た視界をそのまま」よりも「ちょっとその視点人物の姿が入っている」という方が没入感ある、というのはほお〜となりました。なんとなく、マンガだとキャラの位置関係をはっきりさせておかないと、その前後の視点の誘導にも支障をきたすからな気もする……?
後半の話、小説を読んでいるときに、地の文には神の視点と、その人の考えていることや思考が、はっきりかぎかっこや「ーー」(ダッシュ)がついていなくても混ざっているときがあって、ふとしたときに「これ、読み分けられてるのって実はすごいよなあ」って思っていたので、なるほど!となりました。日本語って主語がないことが多いけれど、英語だと主語のおかげでわかることが多いのも面白かった。
「英語に比べ、マンガでは時制は表現できない」となっていたけれど、ふと思ったのは日本の小説って、目次や章タイトル以外だとだいたい、フォントが1種類だけれど、マンガだとフォントが入り乱れていること。英語だとそれこそ思考やセリフなどのときにローマン体になっている例がたくさん示されていたけれど、日本のマンガも過去だとふきだしがふわふわしていたり、フォントが変わっていたりするよねえ。
それはまた、ふきだしやフォントの別の研究なのかなあ。
『「その他の外国文学」の翻訳者』白水社編集部(白水社)
『マンガ学からの言語研究』を購入したときに、普段行かないような棚へ行くことになりました。
自分は物語が好きです。なので、書店ではどうしても小説の棚中心に回ります。
なので目新しい棚に度肝を抜かれ、「えー、こんな本あるんだ!どれも面白そう、もう一冊くらい買っちゃう?」とスイッチが入っちゃって、ついつい予定外に購入。
先月『猫を抱いて象と泳ぐ』を読んでから、「声の小さい人たち」という言葉が頭の中に残っていました。ざっくり言うと、マイノリティについて、ということになるのかな。
だからこの書名に惹かれたのかもしれません。
読み始めてすぐ「これは……当たりだ!」となってもう嬉しくて。
というのも最近「物語の話ができることが少ない」と思っていて。
周りの人と本の話をしていて、実用的なものが好き、という人も多くて。それはそれで面白いし興味深いんですが、私はやっぱり物語が好きなんだ〜!という気持ちになることもあるのです。
勉強を教えている子どもたちには「本なんてみんな読まないよ〜」と言われることも多くて、やはり本好きとしては「そ、そうかあ〜」と思ってしまうことも。でも本に限定されずゲームのストーリーだってドラマや映画だって「物語」だから、そういう話も好きなんですけど、なかなか「物語」について話をするのって難しくなってきているなと感じていて。
そんな中でこれは、「文学の翻訳家」のみなさんへインタビューして書かれているので、その言語を研究をしたり、学んだりしているうちにどうして「文学」を扱うことになったのか、というところが語られていてもう、うわ、やった!そういう話が聞きたいんだ!というところにあてはまってとてもとても嬉しくなりました。
本当〜に拙いし及ぶべくもないけれど、英語の本を原文読もうとしている身として(数年ほったらかしになっていますが、半分くらいまでは行ったのです……!もう文庫が出てしまう!)同時進行でオーディオブックを聴いていて「へえ〜こう訳しているんだ!」と思うところもあったので、読んでいてなるほどってなるところもありました。
この部分が特に印象的でした。「よくわからない」でもいい。励まされるし、だからこそ読書感想文などを、ちょっとどうなんだろうなって思ってしまうんですよね。言葉にしたことによってその言葉が表せない感覚の部分は削ぎ落とされてしまうような気がするし、宿題や朝読書など課されたものであるがゆえ嫌になって、「よくわからない」けれど読めた印象や、感覚を獲得する機会すら奪われてしまうんじゃないかな、みたいな。
・翻訳の参考になる本
・その言葉のおすすめ文学
・その国や言葉を知るためには
という3点の観点からおすすめの本も紹介してくれています。
どうしよう、読みたい本がまた増えてしまった!
『1Q84―BOOK3〈10月-12月〉前編』村上春樹(新潮文庫)
オーディオブックで5冊目。
耳で聞いているので、登場人物の名前や引用など、原文ママでないところがあるのはお許しください。
牛河は「河」だったことを、BOOK3で彼の名前が章に出てきてようやく知った。語り手に昇格してびっくり。
ずっと、もやもやしながら読み続けていたのですが、ここにきてようやく、何がもやもやなのかわかった気がするので記しておきます。
私は、さきがけのリーダーには物語の中でもっと無慈悲に命を奪われてほしかったんだな、と。周辺の理由や事情、彼がやったことに何かの意味づけがされずに、ただ青豆に使命をまっとうしてほしかった。
それは麻生の老婦人が彼の命を奪うことを青豆にお願いした直接の理由、リーダーがしてきたことが、世間的にもそうですが私にとっても最悪の部類の罪だったからです。
それが、なんだかごちゃごちゃと話し出したと思ったら、物語の根幹に彼が来てしまった。
役を彼に振るのだったら、大悪党であってほしかったし、そういう罪を物語の装置のひとつにすることに非常に嫌悪感を抱いてしまったのです。
どうしてこういう描き方をしないといけなかったのかともんもんと考えたのですが、以前、読んだ本について思い出して、一見、犯罪者、大悪党に見えてもいろいろな面があるということをインパクト強く伝えたかったのだろうか、と考えてもみたのですが……ここの部分にはやはり個人的に、しんどさを感じざるを得なかったのでした。
なんとなく、オーディオブックはデフォルトの速度で聴くのを自分の矜持にしていたのですが、上記の理由でちょっとしんどさが増していたので2倍速で聴きました。
一度BOOK2で終わりかな?と思った影響も大きく、牛河が青豆や天吾との関係について探っていくというストーリーの性質上、既に語ったことを繰り返している部分も多くて2倍速でも行けてしまいました。
『古本屋は奇談蒐集家』ユン・ソングン 清水博之 訳(河出書房新社)
上の『「その他の文学」の翻訳者』を買う前に購入していた本なのですが、海外の本が読みたい!という欲が高まっていたときに本屋さんで目に止まって購入。
すると、『「その他の文学」の翻訳者』の序文が韓国文学の翻訳者の方で、なんとなく自分の中でつながりを感じられて勝手にほくほくしておりました。
小説が好きな自分ですが、なんとなく今日は小説って気分でもないな、と思っていたら古本屋さんが本を探す代わりにその本にまつわる話を教えてもらう、という実話を集めたエッセイ的なものでいいぞ、これだ〜!と見つけたことを嬉しくなりました。
29の本当にあったお話と、その話にまつわる本が紹介されています。
帰宅してふたつ。寝る前にちょっとひとつ。そんな感じで読むことを繰り返しました。楽しかった!
不思議系の話は特に、「ちょっと盛って書いてませんか!?」と思うところもあったけれど(笑)、それも本、古本の成せるパワーなのかな。
筆者の古本屋の店主さん、ちょっと気の強いところもあって面白い。飲み会であまり話さない人を「まだ読んでいない本を思わせる」って表現が素敵だった。
「完全のための不完全」がよかった。
コーヒーゼリーはこちら。淹れたときには完全にコーヒーで、ちょっと飲んでみたくなってしまったのですが(笑)、おいしかった。
『ノウイットオール あなただけが知っている』森バジル(文藝春秋)
ネットで見かけて、帯にコメントを寄せている人たちみんな好き!買おう!と決めて本屋さんへ行きました。
5編のジャンルの異なる小説が展開されますが、つながっています。
読者だけが、世界がジャンルごちゃまぜであることを知れる、極上エンターテイメント!という感じ。
読んでいくうちになるほどそういうことか!があって、この並びだと確かに、推理小説が一番最初でないと、推理にいくらでもケチがつけられちゃうから必然だったんだな、と思いました。ぐいぐい読ませるパワーがある!!
青春小説がとても良かった。
5編それぞれ監督を変えて実写映画化とか、いっそ青春小説は演劇で科学小説はCGアニメで幻想小説は手描きっぽいアニメで、とか考えてわくわく!
『スローターハウス5』カート・ヴォネガット(ハヤカワ文庫)
『タイタンの妖女』を読んだ、と言ったら友人がではこれもぜひ、と勧めてくれたもの。
ビリー・ピルグリムは、自分の人生のあちこちを行ったり来たりする時間旅行者。娘に叱責され、新婚の時を過ごし、異世界人に誘拐されてトラルファマドール星の動物園に収容され、第二次世界大戦でドイツ軍の捕虜となって連合軍によるドレスデンの爆撃を受け……。著者の戦争体験も交えています。
印象に残ったのはローズウォーターの言葉。例によって、オーディオブックで聴いているので、引用は漢字など原文ママではありません。
そうそう、自分がSFを好きなのはこういうところだなと思ったのです。素敵な新しい嘘をこしらえてくれているから。
ドレスデン爆撃のことは何も知らなかったな、と。正直、翻訳ものであまり筆者の後書きも翻訳者の後書きも読み飛ばしてしまっていたのですが、オーディオブックだと聴く体力が続く。上の『卒業生には向かない真実』でもかなり後書きで印象が違ったので、補足説明などありありがたいなと思いました。
『可燃物』米澤穂信(文藝春秋)
新刊を楽しみにしていました!
葛という、部下からそんなに慕われず、上司からも扱いに少し困られている、しかし検挙率は高い警部が探偵役の警察ミステリ。
5編の短編が入っているのですが、どれも推理できそうで当てられない、「うわー、そういうことか!」となるミステリで読み応えがあります。
これまで読んできたミステリで最も、真相がわかって「ここまでする!?」とショックを受けたのが貴志祐介の『狐火の家』の「黒の牙」でした。「ありえないだろう」と思うとむしろ冷めてしまうだろうと思うのですが、そうではなく、「確かに驚くべきアイディアではあるが、普通実行しないだろう」というものを、動機の面でも納得できるように仕上げているのが見事だったからこそショックを受けられた、というか。
今作の「崖の下」がかなりそのときのショックの気持ちと近くて、ものすごくカタルシスでした。「ねむけ」と「本物か」も特に良かった。うーん、ドラマでも見てみたい。
『ハンチバック』市川沙央(文藝春秋)
芥川賞でニュースになっていて、特に読書のバリアフリーというのが話題になっていました。
自分は新しいものが好きなので、電子書籍やオーディオブックに手を出しています。好きな字の大きさにできる電子書籍はかなり重宝しているし、具合が悪いときにも聴けるオーディオブックはとても好きです。ここのところ月に10冊は読めていますが、それはオーディオブックなしには無理。でも紙の本を所有するのはやっぱり好きだし、装丁が凝っているとテンション上がる。
傲慢な面もあるんだろうなと思いつつ、やっぱり紙も電子もオーディオブックも盛んになるといいな……。
ただ電子書籍やオーディオブックはまだまだお金がかかるんですよね……ラインナップも限られているし……本文の中にあった卒論の参考文献になるような書籍はどうにもならない、というのが特にごもっとも、となりました。
あと、子どもたちが本を読まなくなったと嘆くなら、オーディオブックも選択肢に入るといいな。読書へのハードルが下がる気がします。
せっかくタブレットを配っているんだし、アプリが最初から入っていて、ひと月にふたつとかみっつ、いくつか好きなタイトルを無料で選べるとかあったらいいんじゃないかな、と思う。
オーディオブックになる速度が速くていい。込められたメッセージが受け取られた結果なのかな。
「帰ってきたら続きをしましょう」というセリフについてエヴァのミサトさんをあげるところ、ネットではそれこそいくらでもある言い回しだろうけど、「文学」では普遍性がないので思いついても書かない気がする……けど書いちゃう、そこがわかりやすくて伝わりやすかった。
最初のマークアップ言語(という言い方で合ってる?)にインパクトがあって、また、ラストも謎めいていて面白かった。
以下、ネタバレですが、ラストについて思ったこと。
壊れたテレビが何の比喩か考えたときに、となると、田中との取り引きは成果が得られないだろうからもう意味をなさないわけで、じゃあラストで判明する田中がやった(と思われる)ことも意味がないのでは、交渉してある程度の金だけもらえば?と思ったけれど、田中は事情など知る由もないだろうし、ふたりにそんなにコミュニケーションが成立してはいないだろうし、田中の側の事情は一才わからないけれど、そもそも取り引きを持ちかけたこと自体そうさせるほど田中の尊厳を踏み躙ったのかもしれないと思って、つまり主人公が辿った結末は因果応報でもあると言いたいのかと思ったけれど、というか結末自体がもしかして、このあけすけな物語の、現実世界での「炎上対策」かも、なんて、思った。
そういう意味でも、境界線が曖昧なところが面白いしすごい、と個人的には思う。