【連載】#3 外国語が苦手で人見知りでも、世界中で御縁を広げる方法|唯一無二の「出張料理人」が説く「競わない生き方」
私が今までに訪れて料理させていただいた国の数は、100カ国近くになります。「小暮シェフは、いったい、何カ国語しゃべれるのですか?」とよく質問されますが、実は、英語とフランス語が少し話せる程度です。
私が初めて訪れた海外は、1年間料理修行させていただいたフランス・リヨンです。フランスに行くきっかけになったのが、私が中学生のときに始まった料理番組「料理天国」(TBS系)でした。白くて高いコック帽を被り、眩しいくらいにかっこいいコック服姿で、見たこともないようなすばらしいフランス料理を次々とエレガントにつくっていたのが、大阪あべの辻調理師専門学校(辻調)の先生方と知り、すぐに辻調に手紙を書きました。
すると、すぐに辻静雄校長先生のメッセージ入りのパンフレットが届きました。そのメッセージの中のひとつに
とありました。
私は、すぐにでも辻調に行きたかったのですが、その気持ちを抑えて、遠回りでも経営を学ぶために大学に進学し、同時にお茶の水のアテネフランセにも通って、フランス語を少し勉強しました。そのおかげもあり、フランス滞在中は最低限の会話はできましたが、帰国後はほとんど使っていないこともあり、かなり忘れてしまいました。
英語も決して得意ではなく、ほとんど「通じればいい程度」の文法も無視したような会話ですが、英語が母国語でない国では、むしろそのほうが通じやすかったりします。英語は「世界の共通語」と言われます。ただ、世界中をまわるとわかりますが、英語もフランス語も通じない国はたくさんあります。
以前、タイの首都バンコクに行ったときのことです。仕入れ先の市場からタクシーでホテルに戻ろうと、英語で明記されていたホテルの名刺をドライバーさんに見せたものの、読める人がおらず、仕事に遅れそうになりすごく焦ったことがあります。首都バンコクでそんな感じですから、もっと地方に行ったら全く英語は通じないと思っていたほうがいいでしょう。
その経験をきっかけに、その後は必ずノートとペンを持ち歩き、言葉が通じないときには、目印をイラストで描いたりしながら、気合いで説明するようにしています。
100カ国近くの国を回っていると、いろいろなスキルが身につくものです。短期間の滞在で、その国の人々とすぐに仲良くなる方法も、その1つです。
スキルといっても、とてもシンプルで、誰でもできることです。
現地に到着したら、まず衣装屋さんに直行します。そこで現地の民族衣装を買って、それを着て歩く。たったそれだけです。
私が初めてその体験をしたのは、インドのデリーでした。現地ガイドさんに言われるがままに、頭から足先までマハラジャの王様のようなピンク色の格好をさせられました。かなりの違和を感じながら街を歩いていると、そんな異様な格好をしている人は他にいないからか、行く先々で指を指されて笑われました。
最初はとても恥ずかしかったですが、慣れてくるにつれて、笑われることがだんだん快感になってくるから不思議なものです。例えば、市場に行くと、野菜や果物、スパイス等を売っている人たちに手招きされて、「これを食べてみて。アレを食べてみて」とものすごく歓迎されます。そして何より、笑顔は世界の共通語。あっと言う間に友達になれ、インド人の国民性も垣間見ることができました。普段は人見知りで、あまり社交的ではない私ですが、民族衣装を着ることで、なんだか別の人間になったように社交的になれるのです。ぜひ皆さんにもおすすめしたい方法です。
そんなスキル(?)を身につけたがゆえに、現在、うちのクローゼットは特大サイズの世界の民族衣装であふれ、展覧会ができるぐらいのレベルになっています。
海外に行きたいと思っている人にお伝えしたいことは、「言葉ファーストではない」ということです。何よりも「外国に行きたい」と強く思う気持ちが一番大切です。言葉は、現地に行ってからでも何とかなります。少しの勇気を出して、単語だけでもいいから、通じなくてもいいから、とにかく口に出して言ってみる度胸があれば十分です。
例えばあなたが、日本語がわからない外国からのお客様をお迎えしたときに、お客様がカタコトでも、間違っていても、日本語を使ってくれたら、すごくうれしいですよね。要は、気持ちが通じ合えば、それが立派なコミュニケーションなのです。
私のような民族衣装作戦でもいいですし、あなた流のコミュニケーション方法を見つけに行く旅なんて、とても素敵じゃないですか。あなたも、言葉がわからないからと尻込みせずにどんどん海外に出て、国際感覚を身につけ、心豊かに人生を楽しんでください。
▼本連載「唯一無二の『出張料理人』が説く『競わない生き方』」は、下記のサイトで過去回から最新話まですべて読めます。