【全文公開】自己肯定感が高まる「四感トレーニング」(倉橋竜哉・著)
はじめに── 瞑想よりカンタンなのに、効果テキメンのメソッド
なぜ「視覚」に偏ると、脳や心身が疲れやすくなるのか?
私たち現代人は、昔の人に比べて脳や心身が疲れやすくなっているといわれています。
さまざまな原因がいわれていますが、その原因の1つに私たちの五感の使い方に大きく関係があります。
私たち人間として備わっている五感のうち、「視覚」に頼りすぎているというものです。言い換えれば、五感のうち、視覚を酷使しているともいえます。
ご存じの人も多いと思いますが、通常、赤ちゃんは、まだ視覚が弱い状態で生まれてきます。弱いというより、あえて目からの情報を抑えています。
視覚は、五感の中でも多くの情報を取り入れます。目から入ってくる大量の情報を、生まれたばかりの赤ちゃんが取り入れてしまうと、脳が混乱をきたしてしまうからです。
つまり、視覚からの情報量は多い上に、刺激が強いものなのです。
その影響力は、赤ちゃんだけでなく、大人も同じです。
私たち現代人は、昔の人たち以上に、視覚を酷使している環境にあります。視覚に偏った世界に生きています。
技術の進歩に伴い、テレビにはじまり、パソコン、スマホ、YouTube をはじめとする動画、近年ではVR(バーチャルリアリティ)など、視覚を中心とした日常を過ごしています。この流れは、さらに加速していくでしょう。
本来、人間には視覚以外にも、聴覚、嗅覚、味覚、触覚が備わっているにもかかわらず、これら四感をあまり使わず、視覚に頼っているわけです。
視覚は、脳や心身にダイレクトに影響を与えるものです。情報を取り入れるのに視覚に偏りすぎていれば、当然ながら私たちの脳や心身は疲れてしまうのです。
昔の人に比べて、視覚偏重の時代に生きている私たち現代人が疲れやすいのは当然なのです。
現代人は、感性も鈍ってきている!?
視覚に偏りすぎると、疲れるというデメリットだけではありません。
人間として本来持っている視覚以外の四感をあまり使っていないがゆえに、四感が持っている従来のすばらしい力が鈍ってきている可能性があるのです。
そもそも、なぜ五感があるのでしょうか?
私たち現代人が頼りがちの視覚以外の四感にも、人間として必要な役割があるからです。
その1つに、「感性を育てる」「感性を活性化させる」といったものがあります。
そう、いわゆる「感じる力」です。
AI時代を生き抜く上で、人間がAIに負けない能力としても注目をされている、とても大切な能力です。
感性(感じる力)が鈍ってくると、自分が本当に感じていることがわからなくなり、自分に自信がなくなります。つまり、自分を信じられなくなります。
自信がないから、まわりの人に振り回されやすくなります。
すると、次第に自己嫌悪に陥り、自分が嫌いになってきます。
それが、結果的に自己肯定感を低くすることにつながるのです。
では、自己肯定感を高めるためにはどうすればいいのか?
ここまでお読みいただいておわかりだと思いますが、視覚以外の四感を研ぎ澄ます必要があります。
私たちが生まれ持っている視覚以外の四感の力を取り戻せばいいのです。
そこで、私が開発したのが「四感トレーニング」です
感じる力を磨く「四感トレーニング」
申し遅れましたが、ここで私の簡単な紹介をさせてください。
初めまして、日本マイブレス協会の代表理事を務めている倉橋竜哉(くらはしたつや)と申します。
日本マイブレス協会では、誰でも行なっている「呼吸」を通じて心身を整え、どんな外的状況にも心がブレないセルフコントロールの技術「マイブレス式呼吸法」の指導を行なっています。おかげさまで日本国内はもちろん、海外でもこの技術を指導する講師が育ってまいりました。
このマイブレス式呼吸法を国内外の多くの人たちにお伝えしていく中で生まれたのが、本書でお伝えする「四感トレーニング」です。
「四感トレーニング」というと、なにかスパルタ的、小難しいものと思われるかもしれません。
でも、安心してください。やり方はとても簡単です。
あえて視覚を閉ざす。つまり、目を閉じるだけ。
視覚を閉ざすことで、情報や状況を手に入れるために、視覚以外の四感が働きだすのです。
それが結果的に四感を研ぎ澄ますことになり、上手に使いこなすことで、本来自分が持っていた感性を取り戻すことができます。
感性を取り戻せば、感じる力が磨かられ、おのずと自分を信じられるようになります。つまり、自信がつくようになります。結果、自己肯定感が高まっていくのです。
四感トレーニングを効果的にやるためには、いくつか重要なポイントやコツがありますので、本文で詳しく解説してきます。
四感トレーニングには、主に次の3つの魅力があります。
◎誰でもできる
スタートは、「目を閉じるだけ」ですので、年齢や性別、体力を問わず、子どもから高齢の方まで誰でも始めることができます。おじいちゃん、おばあちゃんからお孫さんまで、親子三代で取り組んでいる方もいます。
◎いつでも、どこでもできる
「目を閉じるだけ」というと、「誰もいない静かな環境でひっそりと取り組む」といった瞑想的なイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
自宅で取り組めるのはもちろん、通勤途中に歩きながら、あるいは電車の中で、信号待ちの車の中でもできます。会社で仕事中に気分転換にも使えます。
そして、1日の終わりに、お風呂の中や布団の中で自分の体をいたわる方法もあります。
時間も場所も選びません。どこにいても、ちょっとしたスキマ時間に取り組むことができるのも魅力です。
◎お金をかけずに、簡単にできる
四感トレーニングは、動きやすい服装に着替えたり、ダンベルなどの特別な道具やマットなど、そういったものは一切必要ありません。仕事中の場合は、スーツ姿のままでも取り組むことができます。
基本的に目を閉じるだけですから。
何か始めるときにはまず新しい道具を揃えたい人にとっては、ちょっと物足りないかもしれませんが、お金をかけずに手ぶらでスタートすることができます。
瞑想よりカンタンで、効果テキメンのメソッド
「四感トレーニング」を行なうとどんなメリットがあるのか、とても気になるところでしょう。
詳しい体験者のエピソードを交えた効果は、序章で詳しくお伝えしますが、主にこんなメリットがあります。
◎自分が信じられるようになる。
◎他人や情報に振り回されなくなる。
◎満員電車でもイライラしなくなる。
◎人前でもビビらなくなる。
◎自己肯定感が高まる。
◎自分が好きになる。
◎脳が休まるので、アイデアが湧き出る。
◎快眠になる。
◎心身が整うので、パフォーマンスが上がる。
◎ネガティブな感情が和らぐ。
ここで挙げたメリットはほんの一部です。
「四感トレーニング」は、脳、心、体を整えるものなので、あらゆる効果が期待できます。
まったく未経験の方、初心者の方でもわかりやすいように少しずつお伝えしますので、どうぞ焦らず一歩一歩ページを読み進めてみてください。読みながら実際にできるように書いてありますので、ぜひこの本を片手に実践してみてください。
本書が、あなたの人生を楽しく、充実させるのにお役に立てたなら、著者としてこれほどうれしいことはありません。
序章 続出! 目を閉じるだけで、自分らしさを取り戻した人たち
本当に目を閉じるだけでいい?
「転職したい思っていたけれど、どうしても踏ん切りがつかない」
「離婚しようかどうか、10年以上も迷っている」
「他人のブログやSNSを見ると、嫉妬(しっと)したりイライラする」
「最近、何をやってもおもしろいと感じなくなった」
「セックスがマンネリ化して〝作業〞になっている」
「……なんで生きているのかわからなくなることがある」
そんな悩みを抱えていた人たちが「目を閉じる」ということを実践することで「思い切って転職をしたら、年収が30%上がり、年休も増えた」
「円満に離婚して、新しい恋人もできた」
「他人のSNSを覗(のぞ)く時間が減り、趣味に費やす時間が増えた」
「10代の頃のように、映画や本がおもしろいと感じられるようになった」
「夜の営みが充実してパートナーが艶っぽくなった」
「生きていることが、心から〝楽しい〞と実感できる!」
このように変身しています。
どの変化にも共通しているのが「自信がついた」ということです。
皆さん、自信を持って決断し、自信を持って楽しみ、自信を持って生きることができるようになりました。
ただ「目を閉じる」だけで。「目を閉じる」というと、瞑想(めいそう)とか座禅を連想される人も多いと思います。
しかし、本書でお伝えするのはちょっと違います。
瞑想や座禅は、わざわざそのための時間をとって「ただひたすら座る」ものですが、本書でお伝えするメソッドは、日常生活で当たり前にやっていることを「目を閉じて」行ないます。
瞑想や座禅に限らず、たとえば1日10分のストレッチ体操でも健康に良いとわかっていても「なかなか続かない」「習慣化できない」という人は多いでしょう。
健康法や運動の本、勉強術の本、お掃除などの習慣の本……、いろんな本を読んで「これいいな!」と思って実践しようとしたけれど、続かなかった経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
たった10分、いや3分間のことでも、毎日の中で新たに時間を確保して続けるというのは案外難しいものです。
本書でお伝えするのは、今まで当たり前にやってきたことを「目を閉じて」するだけなので、生活に取り入れて、継続することがとても簡単にできます。
1人でできることもあれば、家族や友だち、みんなでできること、恋人や夫婦2人で行なうものなど、いろいろあります。
もちろん「目を閉じる」だけなので、特別な道具はいりませんし、タダでできます。
「あ、これおもしろそう!」と思ったものから、日常生活に取り入れてみてください。
「いい人」でいることに疲れた人が、自分が出せるようになった――体験談①
「目を閉じる」と人生がどのように変わるのか
ここで、ある男性の体験談を紹介します。ちょっと長いですが、ぜひお読みになってください。
「空気ばかり読んでいたら、空気のような人間になっていました」
そう言ったのは、商社に勤めていた中山さん(仮名、30代男性)でした。
中山さんの同期にはトラブルメーカーの同僚がいて、彼は新入社員時代からいつも何かを「やらかして」怒られてばかりいました。やり方に納得がいかないと上司にズケズケと文句を言ったり、時には勝手に自分のやり方を通したりしていたのです。
「まわりの空気を読んで、言われたことをおとなしくやっておけばいいのに……。このままだと出世もロクにできないぞ」
怒られる彼を見るたびに、中山さんはそう思っていました。
「あれ?」と思ったのは、入社5年目のことでした。
トラブルメーカーの彼が主任に昇進したのです。
同期の中でもトップで、異例のスピード昇進でした。
本人は「文句があるならおまえが主任をやれと、無理やり昇進させられた」と愚 痴(ぐち)っぽく言っていましたが、もちろん、妬みや嫌がらせで部下を昇進させるようなことはありません。
主任になった彼は、まわりを巻き込んで、時には「そんなやり方は前例がない」という人とケンカになったり、失敗をして土下座して謝ったりしながらも、今までうちの会社ではなかった方法で新しいお客さんを開拓し、売上を伸ばしていきました。
彼のためにわざわざ新しい課がつくられて、あっという間に課長に昇進。彼の課は会社の売上の3割を担うようになりました。
一方、中山さんはというと「事なかれ主義」で上司の言ったことは間違っていると思っていても文句を言わずに服従、特に波風が立つこともなく平穏ですが、おもしろくもない日々を過ごしていました。
夜は居酒屋に行って、上司や会社の悪口をつまみに飲んでストレスを発散していました。同期の彼が課長になった頃、中山さんは「もうすぐ主任になれるかどうか」というポジションでした。
そしてさらに数年後、中山さんが主任になった同じ年のこと、トラブルメーカーだった同期の彼は外資系の会社にヘッドハンティングをされて転職し、日本支社の役員に就任しました。社内で聞いた噂では年俸が2000万円以上になったとのこと。
「なんでアイツが……。俺は上司の言うことに文句も言わず従ってきたのに、ましてやトラブルの1つも起こさなかったのに、なんで自分の好きなことばかりやってきたトラブルメーカーのアイツが評価されて、俺は評価されないんだ」
やり切れない嫉妬心で頭がいっぱいになりながらも、その一方でこんなことを思っているもう1人の自分もいました。
「アイツにはあった勇気が、俺にはなかっただけだろ?」
半信半疑で「目を閉じて」みたら……
自分の好き勝手にやっているアイツが本当はずっと羨(うらや)ましかった。
でも、「空気を読むことが大事」「迷惑をかけないことが大切」と踏み出す勇気のない自分を慰めて正当化していた。
まわりの空気ばかり読んでいたら、いつの間にかどうでもいい空気みたいな人間になっていたんじゃないだろうか。
でもどうすれば、一歩踏み出す勇気や自信がつくのだろう……。
そう語ってくれた中山さんが実践したのが、本書でお伝えする「目を閉じる」ことでした。
半信半疑だったそうですが、「やるのはタダだし、時間も手間もかからないし、失敗しても損することは何もない」と思ってチャレンジしてみたところ、半年間で次のような変化がありました。
◎今までだったら飲み込んでいた「言いたいこと」が会議で言えるようになった。
◎あきらめていた転職活動を開始することができた。
◎転職がうまくいき、収入が30%アップし、年休も増えた。
◎ずっと友だち関係だった女性に告白して、結婚を前提に交際するようになった。
それまでは、居酒屋に飲みに行ったときに、みんながビールを頼むと、自分は他のものが頼みたくても「じゃあ、ボクもとりあえずビールで」と言っていたぐらい周囲に気をつかっていたのに、いつの間にか言いたいことをハッキリ言えるようになりました。
「なんであんなにまわりに気をつかって自分を押し殺していたのだろう……。誰が褒めてくれるわけでもないのに」と当時の自分が不思議に思えると言います。
好き勝手にやってヘッドハンティングされていったトラブルメーカーの同期にはまだまだ及ばないものの、以前は嫉妬の対象だったのが、今では彼がロールモデル(模範対象)になっているのだそうです。
以前の中山さんのように「出る釘は打たれる」と言わんばかりに一歩踏み出す勇気がない人も多いと思います。
人一倍気をつかって、我慢して、まわりには優しく接して、空気を読むこと、自分を押し殺すこと、大人になること……。
そうやって「いい人」を演じてまわりを優先することで、いつの間にか「どうでもいい人」になっていませんか?
あるいは、自分の好きなことをやっているマイペースな人に対して妬みや悪口ばかり言っている人生になっていませんか?
スマホ依存の毎日から脱却――体験談②
もう1人、ある女性の体験談をご紹介します。
「いいねをやめたら、毎日が楽しくなりました」
そう言ったのは、共働きで食品メーカーに勤めていた佐々木さん(仮名40代女性)でした。
結婚して20年が過ぎ、高校生になる一人娘がいました。
共働きなのに、家事も育児もすべて佐々木さん1人に任され、夫は休みの日も家のことはほったらかしで「仕事だから」とゴルフに行っていました。
「もうこんな生活はイヤだ……。離婚したい」
そう思い始めて10年以上になります。でも、娘のことや世間体のことを考えると、なかなか離婚には踏み切れませんでした。
家事と仕事で忙しい毎日の中、空いている時間が少しでもあるとやっていたのがSNSです。
手料理をアップしたり、お昼休みに食べに行ったお店のランチをアップしたり……。
そして、SNSでつながっている友だちのページを見て、いいねやコメントをつけたりもこまめにしていました。最初は、自分のページにいいねやコメントがもらえるのがうれしくて続けていたのですが、だんだんとしんどくなってきたそうです。
「彼と南国のプライベートビーチに来ています」
「友だちと高級ホテルでディナー中です」
「あの芸能人と遊びに行ってきます」
というような贅沢(ぜいたく)自慢のような投稿がまわりに増えて、自分には関係ないと言い聞かせながらも、それに嫉妬したり、もっと私もいい投稿をしないとなんて焦ったり、なんで自分はこんなつまらない生活をしているんだろうと落ち込んだり、SNSに心を振り回されることが増えてきました。
しかし、「見ればまたしんどくなる」「もうやめようかな」と思っているくせに、ふと気がつくと、お風呂やトイレでもスマホをいじってSNSを見ていて、まるで中毒のようになっている自分に気づいたそうです。
まわりにどう見られているか、気にならなくなった
「少しでもSNSから離れられるようになりたい」ということで、本書で紹介している「目を閉じること」をやってみたところ、半年間で次のような変化がありました。
◎お風呂やトイレではスマホをいじらないようになり、食事中もスマホをカバンから出さなくなった。
◎SNSをやる時間が少なくなって、本を読むようになったり、娘との会話の時間が増えた。
◎物を食べたとき、心の底から「おいしい」と感じるようになった。
◎夫に離婚を申し出たところ、思いのほかあっさりと承諾されて独身になった。
◎独身になってから2カ月後に告白されて、彼氏ができた。
他にもいろんな変化があったそうですが、ひと言で言えば「まわりにどう見られるのかが、それほど気にならなくなった」と言います。
「SNSに投稿しても、いいねがつかなかったら恥ずかしい」
「いいねやコメントをつけてくれる人には、お返しをしなければ失礼な人だと思われる」
「離婚したら、親からも会社の人からも何と言われるかわからない」
「離婚早々に彼氏ができたら、不倫していたと疑われるんじゃないか」
以前だったら、そんなふうにまわりの目を気にしていたのが、まったく気にならなくなったそうです。
もしかしたら私の知らないところで、SNSでいいね返しやコメント返しをしないこと、離婚したことや彼氏ができたことを悪く言う人がいるかもしれない。
でも面と向かってそれを言う人はいないし、言われたところで何も変わらないし、何の実害も不利益もない。
今まで私はいったい何に怯(おび)えていたんだろうと思うそうです。
これをお読みのあなたも、もしかしたら「よくわからない義理や世間体」に縛られて、自分のやりたいこともできず、誰に強制されるわけでもないのに、やりたくないことを続けていたりしませんか?
他人の目から見れば、「そんなにしんどいのなら、すぐに止めればいいのに」と言われるのだけれど、本人からすれば「そうは言っても簡単にやめられないのよ」なんてこともあるかもしれませんね。
ここでは、2人の事例をご紹介しましたが、「目を閉じる」メソッドで、自分らしい生き方、自分に自信を持てるようになった人はたくさんいます。
どうすれば自分らしい生き方を取り戻すことができるのか――。
そう「目を閉じる」だけで簡単に手に入れることができるのです。
第1章 視覚にばかり頼っているから、ツラくなる
匂いで判断するという本能
「クンクン……。うーん、あと1日は着られるぞ」
と言っていたのは私の学生時代の友人です。
いわゆる「宅飲み」というやつですが、学生時代に一人暮らしをしている友だちの家に安酒とつまみを持ち寄って飲み会を開いて、そのまま雑魚寝をして帰るみたいなことが何度かありました。
そんなある日のこと。朝、目が覚めてボーッとしていたとき、部屋主の友人が目の前で着替えをしていました。男同士なので、目の前で着替えられても普段ならなんとも思わないわけですが、そのときのことを今でもよく覚えているのは、彼が洗濯カゴのようなところからシャツを取り出して、匂いをクンクン嗅(か)いで
「うーん、あと1日は着られるぞ」
と言って、そのシャツを着ていたからでした。
自分が着たシャツを、まだ洗わなくて大丈夫かどうか自らの鼻でチェックしていたわけです。
そのときは、「コイツ、けったいなことをしているな」と思いました。全自動の洗濯機に放り込むだけなんだから、毎日洗えばいいじゃん、と。
でも、よくよく考えてみれば、「着ているものを汚れているかどうか判断せずに毎日洗う」というのが当たり前になったのは、家庭に電気洗濯機が普及してからではないでしょうか。
それまでは、洗濯板でゴシゴシと洗っていたお母さんが彼のように鼻を利かせていたことでしょう。たいして汚れていないものを手で洗うのは労力も増えますし、布地を傷めますから。
着るものを鼻でチェックすることはしませんでしたが、私も一人暮らしのときに似たようなことをしていました。それが、食品の「まだ食べられるかどうかチェック」でした。
買ってきたものを冷蔵庫に入れたまま数日が経って、パックに書いてある「賞味期限」「消費期限」が過ぎてしまうことが時々あったのですが、一人暮らしの貧乏生活でそのまま捨ててしまうのは、あまりに惜しいわけです。
そこで見た目はもちろんのこと、匂いを嗅いでアウトかセーフかを判断していました。決しておすすめはできませんが、たいてい「火を通せば大丈夫だろう」ということでセーフにしていました。
現代人は、嗅覚を使わなくなっている
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