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【連載】#23 普通の飲食店でよりおいしい食事をいただく方法|唯一無二の「出張料理人」が説く「競わない生き方」

職業「店を持たない、出張料理人」、料理は出張先の素材を最大限に生かしたオンリーワンのレシピを考案して提供する――。本連載は、そんな唯一無二の出張料理人・小暮剛さんが、今までの人生で培ってきた経験や知恵から導き出した「競わない生き方」の思考法&実践法を提示。人生を歩むなかで、比べず、競わず、自由かつ創造的に生きていくためのヒントが得られる内容になっています。

※本連載は、毎週日曜日更新となります。
※当面の間、無料公開ですが、予告なしで有料記事になる場合がありますのでご了承ください。

「プロの料理人さんは、普段はどんな食事をしていますか?」
という質問をよくいただきます。

自分の食事も丁寧に自分でつくるとなると、ずっと仕事をしていることになります。私はウチではまとめて炊いて冷凍しておいた玄米御飯を解凍し、サッと味噌汁をつくって、カンタンな野菜のおかずや納豆、卵焼きなどで食べることが多いです。最近は、ダイエットも兼ねて、EXVオリーブオイルと醤油をかけただけのレタスサラダを最初に食べるようにしています。朝はりんごだけとか、豆乳ヨーグルトにEXVオリーブオイルをかけて食べたりもします。

食事の時間は、息抜きのリラックスタイムでもあります。なのでやっぱり、他人がつくった料理のほうが舌にも新鮮でうれしいものです。プロの料理人さんで毎日自炊している方は、あまりいないと思います。

では、どんなお店に行くか?

私は地元・船橋にいるときには、普通のチェーン店に行くことが多いかもしれません。例えば、ウチの近所にある「ゆで太郎」「富士そば」「サイゼリヤ」「やよい軒」「餃子の王将」「回転寿司もりいち」をローテーションで回っている感じです(笑)。時々、個人でやっている居酒屋さんにも行きますが、一人ですし、コロナのステイホームの時期が長かったので、あまり飲みに行かなくなりました。若い頃には、勉強のために、高級フレンチやイタリアン、高級和食、高級中華の有名店などを片っ端から食べ歩きましたが、ある程度、最高のものを知った今は、ぶらっと、一人で行ける気軽なお店がいいですね。

チェーン店も、最近はレベルが高くなりました。ウチでは玄米を食べているので、おいしい白米を食べたくなると「やよい軒」に行きます。最近、「やよい軒」船橋店は、全国に先駆けてセルフ方式になりました。またオペレーションが変わったのか、メニューによってはセルフになる前よりレベルが落ちたメニューもあって、やよい軒本社のサイトから、何度か、感想と改善点を書いてメールしたことがあります。やっぱり、自分が行くお店はおいしいほうがいいですからね。例えば、魚の焼き加減が弱いとか、野菜炒めが炒めすぎているとか、卵焼きが崩れているとか、どうすれば良くなるかアドバイスまで書いて、気が付くたびに送っていました。するとある日、「御礼に」とクーポン券が届き、お店に行ったらすべて改善されていて感動しました。やっぱり、人気店は行動力があります。

「ゆで太郎」は、船橋駅を挟んで北口と南口にありますが、どちらも店内で製麺しています。何よりすばらしいのは、どんなに混んでいても、オーダーが入ってから天ぷらを揚げてくれるところです。最高です。帰り際に、必ず店員さんに「おいしかったです。ありがとうございます」と言うようにしています。そんな丁寧に御礼を言うお客さんはいないので、店員さんはみんな私のことを覚えてくれて、次に行くと、薬味のネギを大盛りになっていたり、気のせいかわかりませんが、大好きな野菜かき揚げも、私のときは少し大きい感じがします(笑)。

「富士そば」も、蕎麦自体がおいしくなりましたし、遅くまで営業しているので、仕事で遅くなったときにはありがたいです。

「サイゼリヤ」は、以前から思っていることですが、本当に企業努力がすばらしいと感じています。何でも安くておいしいですし、いつも人気です。外食で野菜をたくさん食べたいときに利用させて頂いています。

「回転寿司もりいち」は、私の中では、回転寿司でナンバーワンだと思っています。まず、赤酢のシャリがおいしいですね。ネタもいいですし、ほとんど注文で握ってくれます。店員さんは、みなさん私の「情熱大陸」を観てくださっていて、身内のようなお店です。私の両親もこちらのお寿司が大好きですが、高齢で外出が難しいので、いつも「お土産」で頼みます。すると、いつも新鮮でおいしい部位を選んで握ってくれており、本当に感謝しています。

「餃子の王将」には深い愛着があります。大阪あべの辻調理師専門学校に通っていた40年近く前から大ファンです。当時は関西にしかありませんでしたが、最近はウチの近所にもできてとてもうれしいです。ウチの近所の王将は、客席に行く途中に厨房があるので、まず、鍋を振っているスタッフさんたちに軽く会釈して席に着きます。注文するのは、いつも同じ「餃子よく焼き」と「パンチを効かせた麻婆豆腐」です。「パンチを効かせた」と言うお客さんは私しかいませんし、スタッフさんたちは、みなさん私が「情熱大陸」や「クレイジージャーニー」に出たことを知っているので、いつも気合いを入れて、おいしくつくってくれます。

つくづく「料理っておもしろい」と思うのが、同じ食材、調味料を使っても、鍋を振る人によって、それぞれの人の個性や考え方が、麻婆豆腐ひとつにも反映されるということです。例えば、店長さんは、にんにく、生姜を効かせることで、パンチを出し、副店長さんは、挽肉と豆板醤を香ばしく炒めることでパンチを出す。そして、最近、実力をつけてきている3番手くんは、仕上げの山椒を絶妙に効かせてパンチを出す、みたいに、それぞれ麻婆豆腐のパンチの出し方が違います。私は、本当に「餃子の王将」が大好きなので、全国の王将に行っていますし、どこのお店でも「パンチを効かせた麻婆豆腐」を注文します。全く普通にマニュアルどおりの作り方で出てくるお店が多い中で、ウチの近所のお店は、毎回限られた制約の中で、全力でつくっていただけるのがうれしい点です。

そして毎回、必ずやっていることがあります。それは、必ずホールスタッフさんに「この麻婆豆腐、最高ですと厨房に伝えてね」とすぐに言うことなんです。帰り際に厨房前を通るときに、「今日も最高でした! ありがとうございます」と厨房スタッフさん全員に向かって、御礼を必ず言います。というか、ありがたくて、言わずにはいられないのです。このような繰り返しが、いつもおいしくつくっていただけるようになったのではないかと思います。

私も料理人ですから、わかります。

結局、人の心を動かすのは、人でしかありません。あなたも、お気に入りのお店で「おいしかったです、ありがとう」とぜひ言ってみてください。たったそのひと言が、お店の人にとってはすごく励みになります。そして必ず覚えてくれて、次はさらにおいしくつくってくれるでしょう。私がそのキッチンにいたなら、必ずそうしますから。

【著者プロフィール】
小暮 剛(こぐれ・つよし)
出張料理人。料理研究家。オリーブオイルソムリエ。1961年、千葉県船橋市生まれ。明治学院大学経済学部卒業後、辻調理師専門学校を首席で卒業。渡仏し、リヨンの有名店「メール・ブラジエ」で修業。帰国後、「南部亭」「KIHACHI」「SELAN」にて研鑽を積み、1991年よりフリーの料理人として活動開始。以後、日本全国、海外95カ国以上で腕をふるう「出張料理人」として注目される。その土地の食材を豊富に使い、和洋テイストを融合させて、シンプルに素材の持ち味を生かす「小暮流料理マジック」に、国内のみならず世界中から注目が集めている。近年は、出張料理人として活躍しながら、地域食材を最大限に生かしたレシピ開発を通じた地方再生や、子どもたちの食育講座などを積極的に行なっている。また、日本におけるオリーブオイルの第一人者としても知られ、2005年には、オリーブオイルの本場・イタリア・シシリアで日本人初の「オリーブオイルソムリエ」の称号を授与している。その唯一無二の活躍ぶりは各メディアでも多く取り上げられており、TBS系「情熱大陸」「クレイジージャーニー」への出演歴も持つ。最終的な夢は、「食を通して世界平和を!」。

▼本連載「唯一無二の『出張料理人』が説く『競わない生き方』」は、下記のサイトで過去回から最新話まですべて読めます。


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