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ニシンから考えるこれからの水産

こんにちは! バイヤーのnayutaです。 私はここ1年くらい、個人的なミッションとして、ニシンの販路を広げることにチャレンジしています。 「ニシン」と聞いて「ニシンってどんな魚だっけ?」とぱっと姿が思い浮かばない方が多いでしょう。

幻の魚と呼ばれたニシンが大衆魚へ

ニシンは、かつては北海道の水産業の中心として明治・大正には漁獲の最盛期を迎え、戦後の日本の食料・肥料の供給も支えた魚です。 しかし、昭和中期以降漁獲量は減少の一途を辿り、近年では枯渇に近い状態とされ、数の子や子持ち昆布、身欠きにしんなどニシンを原料とする製品の原料もほぼ輸入に頼ってきました。

ですがここ数年、ニシンの資源量は回復傾向にあり、かつて北海道の春の風物詩として見られた「群来(くき)」と呼ばれる海面が卵で黄色く染まる現
象も約50年ぶりに観測されました。

とても喜ばしいニュースですが、幻の魚とまで言われたニシンは、漁獲量の増加と反比例して魚価が下がり、イワシよりも安い値段で取引されることもザラになっています。

ニシンという魚は、青魚としては身に歯ごたえがあり、脂に特有の香りと甘みがあるため、時期と状態によってはイワシやサンマなど他の青魚にも勝る魚だと思っています。実際、鮮度の良いニシンを食べると、その旨さに感動します。

最高のニシン届けたい。しかし決して簡単ではないハードルが

鮮魚としてのニシンには同時にいくつかの課題があり、消費者さんや飲食店さんがこの感動モノのニシンにたどり着ける可能性は決して高いとは言えません。 主なハードルとしては、以下の3点だと考えています。

  1. 他の青魚と比べてもやや小骨が多く、刺身の際は、タタキにしたり、骨に隠し包丁を入れるなどの工夫が必要。

  2. 卵が好まれる魚で、接岸するのも産卵時のため、どうしても産卵直前に漁獲されることが多く、そのタイミングだと身は痩せている。

  3. 鮮魚としての価値が高くないため、産地や流通段階での扱いが雑になる場合があり、鮮度や状態が悪いものも流通してしまっている(=美味しい感動の前にがっかり体験をしてしまう)。

これを少しでも改善していくのは、我々流通に携わる人間の仕事だと思っています。

  • 商品の情報(鮮度の良し悪し、時期や脂乗りなど)をより詳しく顧客に伝える。

  • 飲食店さんや消費者の方々に食べ方を提案する。

  • しっかり魚を見て、仕立ててくれる産地の方と取り組む。 商材としての裾野はここまでやってやっと広がっていきます。

また、魚に詳しい方なら「なぜ今ニシン?」「ニシンって春の魚じゃないの?」と考えるかなと思います。ニシンが鮮魚として一番旨いと思われる時期は、産卵で卵や白子に栄養が移り始める直前の11~1月頃と、産卵後に荒食い(体力回復のために餌を貪り食べること)で身に脂が入る5~7月頃だと思っています(海域や系群で多少差はあり)。
また、産卵を経ていない若いニシン(いわばニシンのトキシラズ)も、この夏前の時期に一瞬だけ来遊してきます。 このニシンを消費者に届けることができれば、ニシンのイメージも変わっていき、鮮魚としてもっと適切に利用される魚になっていけると私は考えます。

今獲れているものを美味しく食べて、水産資源を守りたい

僕はニシンがこれからの日本の水産資源利用のモデルケースになると確信しています。
ご存知の通り、今日本の水産業は大きな転換点にいます。

  • 人口増加や新興国の台頭により、世界の水産物への需要は高まり続けている。

  • 一方、日本は人口が減少傾向になり、経済の成長速度は鈍化、少なくとも向こう数十年は世界の中で相対的経済優位性(買付力)は落ちていく可能性が高い。

  • 気候変動などにより、水揚げされる魚種が変化し、水揚げ量・魚種ともに不安定になっている。

これらのことから、日本は栄養価の高い豊かな海洋に囲まれた国として、水産物を輸出産品の一つとして外貨獲得や観光の柱にしつつ、一方で「美味しい魚が食べたい!」という魚食文化に根ざした国内の需要にも応えていく必要があります。

ホタテや牡蠣など、世界的に需要が見込まれ、しかも日本がその生育に適している品目などについては、輸出の動きは今後も加速していくと思いますし、そうあるべきとも考えています。
一方で、世界から水産物を買い集める力は落ちていくでしょうし、こういった輸出に回る品目も庶民の手にはなかなか届きにくいものになっていくと考えられます。

そのため、これからの日本で変わらずに美味しい海の恵を享受し続けるためには「今獲れているものを、柔軟で弾力的に利用していく」が重要になっていきます。 アジ、サンマ、イワシ、マグロ、イカが変わらず毎日ある売り場、ではなく、そのときどきに獲れていておいしい物を食卓や厨房にお届けしていく。究極にプロダクトアウトな水産物というものを、即時に需要とのすり合わせをし、情報を付与して、マーケットに適合させる。これがこれからの水産の命題であり、個人としてもフーディソンとしても、そこに最前線で貢献していけるようにありたいと考えています。

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