「商売」を実際に行うことを体験すべき若手料理人。練習のための練習にならないために。
今回は若手料理人の「商売」に対しての取り組み方の重要性を書いてみたいと思う。
私をはじめ、大なり小なり企業で務める料理人は本当に多いと思う。(レストランなどの個人店も含める)
若手の料理人は「賄い」というシステムを通して古典料理の基礎から現代のトップシェフが作り出す美しい料理等の構造や解釈、そのメッセージなどを学ぶことが多い。
私もその一人だったが、触れたことのない食材ややったことのない火入れなどは本当に勉強になるし自分を構成してきた重要なプロセスだたと思う。
それを行わせてくれた先輩や上司の方々には本当に恵まれていたし、感謝している。
ただ、料理業界が稼働して店舗が運営されるには全く別のシステムが実際には動いているし、そこに対する別の意識も働いているということを私たち若手料理人は理解しておかなければいけない。
大事なのはいつも「お金」である。
多くの若手料理人は食材の原価率が30%以内ということは知っていると思うが、それがどこまでの原価率でなにを表しているのかを知る人は多くないと思う。
私もその一人であったわけだが、実際にECサイト等で自分の商品を販売し始めて初めて分かったことも多い。
以下にその例を挙げてみたいと思う。
① 梱包費や発送費の計算
② 賞味期限の計算や保存方法
③ 商品の公告方法やイメージ写真の重要性
④ ①を反映しての値決めの難しさ
である。多くの料理人が賄いを通してやっている練習は次のような特徴がある。
自分もしくは同僚が必ず食べてくれる。賄いが福利厚生にはいているので実際に食べる人間はお金を払わない。すぐ食べる。送らない。
といったところだろうか。
僕の初めてのECサイト出店時はまだ料理に対してのマインドが上記の通りで、料理がよければいいという考えだった。
だがしかし、料理をお客さんの口に届けるという行為は自分が思っていたよりも広く、自分は大きな流れやシステムの一部しか知らずに育ってきたのだということをよく知った。
実際に自分の商品の値段を決めること。
その値段の中には単純な「食材費÷原価率」という計算だけではなく、梱包費や送料、店の営業スタイルによっては家賃や人件費などが含まれている計算なのか。
またそこではじき出された金額は実際に購入するお客様が適正価格と思ってくれているのかどうか。
扱いたい食材はレストランや会社であればFAX一つ流して翌日納品されるだろうが、自分で店を出した時にはどうやって手に入れるのか。どこで浮ているのか。売ってもらえるのか。
普段から若手料理人が触ってる食材は冷蔵庫を開けたらすぐにあるものばかりだと思うが、実際に自店舗を出したらそうもいかない。
何気なく使うアンチョビやにんにくでも実際に買うと結構高かったりとかは当たり前だ。
新型コロナウイルスの影響でネットショップやテイクアウト、宅配が進んでいて多くの人が利用し恩恵を受け始めている今、自分の勉強してきたものをどうアウトプットするのかが本当に試されていると思う。
私は実際にこれらのことを経験して、自分が今までどれだけ練習しかしていなかったかが身に染みた。
何が「練習」で何が「本番」か
料理人にとって賄いを一生懸命作ったり、本や先人から料理を学び作り上達するという行為はきっと生きるための練習でしかなく、
それを「商品」という形にして世の中に送り出さすという行為がきっと「本番」なんだと思う。
どちらが良くてどちらが劣っているということはないが、
事実、お金を稼がないと練習もできないし、生きてもいけない。
これからはこうやって「商売の難しさ」を肌で感じた私たちが率先して後輩たちに「商売」をさせてみるほうが成長につながるのではないかと思う。
料理にのめりこむのも面白いのだが、現実的にお金に関しての教育はどの分野でも足りていないだろうし、
「自分の店を構える」というわかりやすい独立目標がある料理人だからこそ、早くから「自分の技量の向上」と「数字としての売り上げ」という整合性を図っていかなければならないと思う。
それが可能なのはシェフやオーナーたち経験者だと思うし、若手料理人が料理というものを「付加価値による適正価格」や「市場へのアプローチ」を含めて学んでいったほうが店全体のクオリティーも格段に上がっていくと思う。
お金お金というと意地汚いと思われる日本特有の文化がはびこる中で、国民に10万円の現金給付が切望される現状を顧みても
お金に対する本音と建て前は全く別で、
今からでもお金に対する考え方を料理人が料理を通して学んでいったら、料理の世界はもっと面白くなるし、幅が広がると思う。
現状不謹慎ではあるとは思うが、新型コロナウイルスで多くの人が大変な思いをしているが、きっとお金や値決め ファイナンシャルリテラシーを高めていく人にはきっと最高の条件がそろっていると思う。
考え方を新しくするヒントが今の日本には多く転がっていると思うので、新しいスタイルの料理人がどんどん生まれていくことを心待ちにしている。
2020/5/10