見出し画像

『可能性にアクセスする パフォーマンス医学』刊行記念イベント・レポート

1.はじめに

こんにちは、直塚大成と申します。

先日、スポーツドクター・二重作拓也さんの最新著書『可能性にアクセスするパフォーマンス医学』(星海社新書)の刊行記念トークイベントに行って参りました。

二重作拓也さんは、福岡県北九州市出身の、スポーツ医学の専門家です。お医者さまとしての臨床経験から強さの根拠を追求した「格闘技医学」を提唱されています。格闘技のリングドクターや、チームドクター、さらには音楽家のツアードクターの経験をお持ちです。

二重作拓也さんのX(@takuyafutaesaku)より拝借

僕が、そんな二重作さんをはじめて拝見したのは、糸井重里さんが主宰する『ほぼ日刊イトイ新聞』の、糸井さんと二重作さんの対談連載でした。

ほんとうに面白い連載でした。この連載が2019年10月1日に始まり、約2年後の2022年12月2日に、二重作さんは同タイトルの『強さの磨き方』(アチーブメント出版)を発売されます。

二重作さんの他のご著書には、格闘技の運動学から選手生命の守り方までを詳らかに解説した『Dr.Fの格闘技医学 第二版』(秀和システム)や、『ジュニア格闘技・武道「安心安全」教科書』(東邦出版)。そして、二重作さんの敬愛するミュージシャン『プリンス』が亡くなった2016年に、彼の言葉をまとめた『プリンスの言葉 Word of Prince』(秀和システム)がございます。

そんな二重作さんが、本年10月14日、満を持して世に送りだしたご著書が『可能性にアクセスする パフォーマンス医学』(星海社新書)です。

『可能性にアクセスする パフォーマンス医学』は、著書の二重作さんと、星海社の編集担当・築地教介さんのタッグで制作されました。築地さんがこれまで編集を手がけれらた本には、偉大なプロ野球選手・野村克也さんが人生を回顧し、自身の弱さについて語る名著『弱い男』


さらに『ほぼ日』の編集者・奥野武範さんの『インタビューというより、おしゃべり。』『編集とは何か』などの名著が勢揃いしています。

かの『プリンス』にまつわる書籍を制作された経験も、築地さんが二重作さんに執筆をご依頼した理由だったのかもしれません。

2.「パフォーマンス医学」ってなんだろう

さて、本書のコアとなる言葉は、
タイトルにもある

『パフォーマンス医学』

でしょう。しかし、「パフォーマンス」×「医学」という言葉はなかなか結びつきません。そもそも「パフォーマンス」とは、なんなのでしょうか? 

混乱してきたので、辞書を引いてみました。

パフォーマンス

〘名〙 (performance)
① 演劇・音楽・舞踊などを、上演すること。特に、身体を用いて表現を行なう芸術形態をいう。また、一般に、身体を用いた表現。
② 現代美術で、作者の制作行為の過程。また、行為そのものを作品とするもの。
③ 生成文法で、話し手の言語能力のさまざまな表われをいう。言語運用。
④ 人目を引くためにとる行動。目立つようにことさらにする行為。
⑤ 仕事、事業、また競技などでの、実績。成果。
⑥ 能力。性能。また、効率。

出典 精選版 日本国語大辞典

ふむふむ、めちゃくちゃある……。「パフォーマンス」という言葉を掴むことは本当に難しいです。スポーツパフォーマンス、ダンスパフォーマンス、マイクパフォーマンス、政治パフォーマンス……思いつくだけで、たくさんあります。

しかし、心配ご無用。二重作さんは、本書の「はじめに」で、言葉の定義をハッキリさせておられます。さらに、なんと、それが書かれた「はじめに」は二重作さんのnoteで無料公開されております。まだの方は、ぜひご覧になってみてください。

「パフォーマンス」とは、演技、演奏、プレーなどの身体を使った表現、大勢の中で人目を引くための目立つ行為、性能や機能、業績や成果など、多様な意味で使われる言葉でありながら、どれも「実行に関わる」という共通性をもった言葉だといえるでしょう。

【誰もがパフォーマンスを向上させられる】

 これが本書の核となるメッセージです。とはいえ、「これをやれば上手くなる」「必ずできるようになる」という性格の書ではありません。なぜなら私たちの身体はそれぞれがオリジナルであり、脳も誰ひとり同じではないからです。

引用:パフォーマンス医学 はじめに

わからなかったことは、この「はじめに」の中で全てフォローしてくださっています。このまま本の説明を続けて行くのもいいのですが、時間がいくらあっても足りません。それでは早速、イベントレポートに入ってまいりましょう!

3.古賀史健×田中泰延×二重作拓也「『言葉の身体性』とは何か?」

撮影:廣瀬翼さん

それでは、イベントレポートに入らせていただきます。

12月16日のトークイベントは、そんな『パフォーマンス医学』の著者・二重作拓也さんと、プロのライターである古賀史健さんと田中泰延さんを交えた鼎談のかたちで行われました。

会場は日本有数の大書店・ジュンク堂書店池袋本店

ジュンク堂書店池袋本店のX(@junkudo_ike)より拝借

売場面積2001坪の大型書店です。僕ははじめて訪れたのですが、あまりの大きさに笑いが出ました。4Fのカフェスペースに、素晴らしい書き手である御三方が集まります。二重作さんは、ご登壇者である古賀さん、田中さんのことを、大切な友人であり、書くことにおける師匠だと仰っていました。

2019年6月に発売された田中泰延さんの初のご著書、
『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)

古賀史健さんのご著書
『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』(ダイヤモンド社)

そして、今年7月に発売以降、重版を続ける
『さみしい夜にはペンを持て』(ポプラ社)

この3冊を、書く際の指針にして取り組んでこられたそうです。お互いがお互いの仕事へ敬意と感謝を忘れない。素晴らしい関係性だと感じました。

そして、今回のトークテーマは

「言葉の身体性とは何か?」

でした。

非常に難解なテーマです。難解というより「わかった気になっている」と言った方が正しいかもしれません。僕も、小説やエッセイのあとがきや書評で「身体性」という言葉を見たことがあります。その時はなんとなく読み流してしまうのですが、「どういう意味なんだろう……」と日々思っていました。これは、プロの書き手の方も抱えるお悩みのようで、講談社の『現代ビジネス』でも「身体性」を取り上げた記事がありました。

さらに、今月12月6日の『ダイヤモンドオンライン』では、なんと、古賀史健さんと田中泰延さんが、このテーマでお話をなさっています。

人の心を動かす「身体性のある文章」はどうすれば書けるのか?

ベストセラー作家であり、膨大な数の本を読んできた古賀さんと田中さんでも、ハッキリと定義を定められない大テーマ。今回はそこに、身体の感覚を言葉にするプロである二重作さんも合流します。しかし、もしかすると、ここまでの言葉のプロが集まっても答えは出ないかもしれません。それでも「わからないかもしれないですが、一緒に考えてみましょう」というお話って、一番面白いコンテンツでは無いでしょうか。楽しみだ~!

4.イベント開演前

撮影:廣瀬翼さん

僕は、開始20分前にイベント会場に到着しました。

会場内の席を見ると、ひろのぶと株式会社の加納穂乃香さん、廣瀬翼さん、ダイヤモンド社・編集者の今野良介さん、「夜景おじさん」こと写真家のオケタニ教授さん、劇団「カクシンハン」主宰者・演出家の木村龍之介さんなど、たくさんの方々がいらっしゃっていました。日頃、二重作先生を応援される方々もお見えになり、開演前の空気はとってもあたたかかったです。

さらに、中南米のコスタリカ共和国から、極真カラテのマウリシオ師範がいらっしゃっていました。後程お話を伺いますと、マウリシオ師範は二重作さんのご友人で、ある日、師範から先生のもとに「格闘技医学を学びたい」という連絡があったことで交流が始まったそうです。この日は、彼がコスタリカから日本にいらっしゃっていましたが、二重作さんがコスタリカに出向いて格闘技医学のレクチャーをすることもあったそうです。すごい繋がりだ。そしてコスタリカ、調べてみるとこちらにありました。

出典:そらべあ ecoジャーニー

遠……。

いったいどうやって行けばいいのでしょう。簡単に調べてみると、コスタリカから日本の直行便は運行されておりませんでした。そのため、アメリカやメキシコなどを経由して来日するしかないようです。大変な長旅です。マウリシオ師範の他にも、二重作先生の幼馴染の方や、競走馬・イクイノックスの引退式のために東京を訪れた方までおられました。三者三様。十人十色。演台と同じくらい、観客席も魅力的でした。

5.ついに開演!熱闘トークライヴ!

写真:廣瀬翼さん

19時30分。

ついにトークイベントが始まりました!

開始早々、田中さんが軽快なトークで会場を温めてゆきます。鉄板ネタの「ご来場の皆さんは、どこからいらっしゃったんですか?」に始まり、二重作先生の敬愛する『プリンス』の音楽アルバム『LOVESEXY』のお話をはじめたり、鮮やかに脱線していきます(笑)。いつ拝見しても、田中さんのがお客さんをどんどん巻き込み「笑っていいよ!」という空気に仕上げる手腕には感動します。二重作さんも古賀さんも、いきなりフルスロットルの田中さん(田中さん的には30%くらいだったのかもしれませんが)にすこし困惑のご様子。さっそく、リアルイベントの面白さが爆発していました。

田中さん:えー、二重作さんはお医者様でいらっしゃって、『格闘技ドクター』ということで、格闘家の方のケアなどをなさっていると思いますが……

開始8分、なぜかいつのまに司会進行が田中さんになっていました。田中さんは先月、東京の神田で行われた路上実験イベント「なんだかんだ」のなかで、二重作先生に指導をいただいたそうです。

そして、その流れで古賀さんへお話のバトンを渡します。田中さんからバトンを受けた古賀さんは

古賀さん:二重作さんの執筆動機をお聞きしたいです。

という質問で、ギュッと本題に迫っていきます……

——と思いきや、

田中さん :えー……あれは4年前……
古賀さん :アンタじゃない!

二重作さん:ああ、この三人で良かったなあ……!

会場:爆笑

田中さんが割って入り、古賀さんがツッコミを入れ、二重作さんが安堵する。仕込みを疑うレベルのコンビネーション技が炸裂し、話が進みません(笑)。おそらく本当に仕込みなしだったと思いますが、お互いのお話を信用して進んでいる感じがして、とても気持ちが良かったです。

二重作さんが、古賀さんのご質問に答えます。

二重作さん:この本の執筆動機の一番コアにあるのは「知らない方がもったいない」ということがたくさんあることですね。

古賀さん:はい。

二重作さん:ドクターをやっていると、体を壊した方が受診にこられることが多いです。でも、もしその怪我の前に、練習している時や試合をしている段階で「こういうことを知っていれば、こんなけがをすることも無かったのにな」という原点のような知識があるんです。

古賀さん:はい。

二重作さん:たとえば脱臼の知識を知っていれば、脱臼しそうな時に策を考えて身を守ることが出来ます。しかし、最初の基本となる知識が大勢の方に知れ渡っていないことで、脱臼の症例が減っていかない。

古賀さん:うん、うん。

二重作さん:それならば、その原理原則をみんなと共有していくと、可能性がもっと広がっていくのでないかと思ったのがはじまりです。

格闘技における体の構造や怪我の仕組みは、これまでのご著書で伝えてきたと語られた二重作さん。しかし「格闘技医学」の名前を大きく掲げてしまうことで「いや、格闘技なんてちょっと……」という方々へ思いが伝わないという葛藤も同時に抱えられておられました。スポーツ医学や人体への理解は、あらゆる人の可能性を開いてくれるもの。そこで、かつて格闘技学の本で伝えたメッセージや知識を、より多くの人に届けることが、新刊『パフォーマンス医学』の執筆で己に課した制約だった、とお話してくださいました。

田中さん:以前の本では「危険な事例」というのをたくさん挙げておられましたが、今回は、前向きに「こう考えれば、こういうことができますよ」という可能性に力を注いでいらっしゃる。以前の本では、たとえば打撃系の格闘技において、子供は本当に危ないとか、日常にひそむ危険性を学ばせていただき、参考にさせていただきました。

古賀さん:うんうん。

二重作さん:ああ、ありがとうございます。

田中さんがここで仰ったのは、二重作さんが常日頃、警鐘を鳴らしている「心臓振盪(しんぞうしんとう)」の話ではないかな、と聞きながら考えておりました。

しかし、田中さんもさすがはプロ。さっきまでふざけているように見えたのに、一気にお話が引き締まりました。二重作さんの熱い執筆動機。そして、それを引き出した古賀さんのご質問のお力。

さあ、ここからどうなるのか———。

田中さん:僕もやっぱり、「格闘家」としての……フフッw
古賀さん:フフッ(笑)
二重作さん:フフッ(笑)

田中さん:言いながら笑うてもうたw

……お話は、想像だにしなかった方向に転じました。そこでボケるんですか! 一体、どれだけ話がドライブしていくんだろう……。ここで、田中さんがボケにボケを重ねた場面に、古賀さんが鋭い質問を投げかけて——。

撮影:廣瀬翼さん

と、書き続けていくつもりでしたが、

まだ、トークライヴが始まって10分しか経過していません。本編は残り80分。ここまで5000字ほど書いたので、残り80分を書こうとすると3万字くらいになるでしょうか。……いえ、それでも構わないのですが、ここで別の問題がございます。

本イベントのアーカイブの購入終了日は
12月23日(金)です。

丸善ジュンク堂HPより

あと3日後。時間がありません……。そして、残り三日で書き切れるのかわからない……。それに公開した瞬間に期限が来てしまうのは本末転倒です。しかし、ここから先も、とっても面白いお話が次々に繰り広げられていきます。

いったん、話題と時間だけさらっていきましょう。

・二重作さんの本は、身体の「説明書」(0:21:40)
・力の作用点。イメージを延ばしていく(0:23:30)
・「文章の身体性」って難しすぎて無理だよね(0:24:00)
・「体の文法」を理解する(0:24:30)
・新庄監督の渡米について(0:25:30)
・古賀さんが加納治五郎さんを調べた時に感じたこと(26:25)
・「拳を石のように握ってください」(0:30:50)
・ボクシングの井上尚弥選手のパンチはなぜ痛いのか?(0:31:50)
・羽生結弦選手のジャンプ力の秘密(0:34:00)
・掛布さんのスランプに対する長嶋茂雄さんのアンサー(0:35:10)
・糸井重里さん、逆上がり成功(0:36:00)
・『読みたいことを、書けばいい。』の創作秘話(0:38:00)
・二重作さんが身体の感覚的なイメージを伝えるために(0:40:37)
・古賀さんの眼鏡販売店時代のエピソード(0:42:30)
・二重作先生の医師としての矜持(0:45:00)
・ミニスカポリス(0:46:55)

……みてください。この間、25分!

出動!ミニスカポリス全国版より

信じられません。

いまアーカイブで聴き直し、シークバーで数字をしっかり確認したにもかかわらず信じられません。この部分だけで1万字くらい余裕で書ける気がします。それくらい、中身の濃い、濃すぎるお話がどんどん続いて行きました。この項目だけを見ると全く繋がりがわからないかもしれませんが、壇上にいらっしゃる御三方の中ではおそらく一本の糸で繋がっていたのだと思います。そして、そのことが聞き手である僕たちにも伝わってくるからこそ、聞きごたえのある大満足の回になったのではないでしょうか。

ここから、さらに田中さんの秘蔵の多宝塔の話が炸裂し、古賀さんがその日一番強い声で「売れないんで、自分で買ってました!」と仰ったり(何が売れなかったのかは聞いてからのお楽しみです)、二重作先生がその場で『パフォーマンス医学』を実演してくださったりと、日本人の僕らですら真剣勝負と笑いの大竜巻に、振り回されることしかできませんでした。僕の隣に座られていたマウリシオ師範は、時折ポカーンとする場面もございましたが、御三方が楽しそうにされているのを体で感じ取ったのか、うなづいたりニコニコ笑っていらっしゃいました。

その後のお話も、ざっとさらっていきます。

・多宝塔(0:47:55)
・ある国のある要職の、ある衆とつく議員(0:48:10)
・今回、素人の方々にご協力いただいた理由(0:50:00)
・哺乳類の頸椎は7つ(0:54:00)
・カツカレーのトンカツが切れない時(0:56:25)
・マイルス・デイヴィスのトランペットパフォーマンス(0:57:30)
・書く時は、最初に核心を書くよりも……(0:59:30)

名残惜しいですが……

7000字を突破したので潮時かもしれません。読んでいただくよりも、ぜひ見ていただきたいです。現在の時刻は12月20日23時49分。もうすぐ12月21日になります。イベントアーカイブの購入期限は2日と12時間になりました。もう公開するしかないようです。このあと、残り一時間分の録音がありますが、タイムスタンプは田中さんに倣って

・大変すばらしいお話(1:00:00~1:50:00)

とさせてくださいませ。このあとは『パフォーマンス医学』のために実際の方々に協力してもらったお話や、視聴者からの質問コーナーが始まります。ああ、このことも書きたかったのですが……。最後まで書けず本当に申し訳ありません。

6. おわりに

写真:廣瀬翼さん

今回、僕が言いたかったのは、なにひとつ書き飛ばしたくないと思うほど、とっても楽しいイベントだった!ということです。

笑って、笑って、笑いっぱなしの90分でした。終幕後、オケタニ教授が仰っていたことが、まさしくそうだなあ……と感じています。

閉幕後、二重作さんとお話する機会をいただき、

「若者の一番の武器は『行動力』と思いがちなんだけど、実は『礼節』なんだ。大変だと思うけど、頑張ってね!」

という、真剣で、
あたたかい言葉をいただきました。

最後になりましたが、このイベントを企画してくださった二重作拓也さん、星海社の築地さん、ゲストスピーカーの古賀史健さん、田中泰延さん、会場を盛り上げてくださった視聴者の皆様、本当に、本当に楽しいイベントでした。

アーカイブ発売期限は
12/23(土)12:00まで!

視聴期限は
12/30(土)23:59まで!

年末の移動時間などにもよろしいかと。
ぜひご覧ください!

慌ただしく締めてしまい、申し訳ございません。

皆様、ここまで読んでいただき、
本当にありがとうございました!

ヘッダー撮影:廣瀬翼さん

この記事が参加している募集