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3分小説 『ストレート缶詰め』 #爪毛の挑戦状(1)【A面】
ぼくは産まれた時から天然パーマだ。
パパも、ママも、お姉ちゃんもサラサラヘアだというのに……
シャンプーだって、リンスだって、みんなと同じものを使っているのに……
一度だけ
「なんでぼくだけくるくる頭なの?」
とママに聞いたことがある。
すると、ぼくの頭にそっと手を置き
「それはママのおじいちゃんが天然パーマだったからよ」
と、優しく撫でながら教えてくれたけれど、ちっともうれしくなかった。
だって、そのおじいちゃんをぼくは写真でしか見たことがなかったから。確かにぼくとそっくりのくるくる頭だったけど……
ある夏の夜、トイレに行こうとしたらリビングから灯りがもれていた。
だれかの消し忘れかな?
そっとドアを開けると、パパとママとお姉ちゃんが食卓に座っていた。
「何してるの?」
恐る恐る訊ねると、驚いたようにみんながふり返る。それぞれフルーツの缶詰めのようなものに手を添えて。
「ぼくに内緒で何食べてるの?」
ずるいよ……ぼくだけ仲間外れにして!
「これはその……」
と言葉をにごすパパ。それを見てママが諦めたように呟いた。
「そろそろ颯真にも話すべきよね」
「仕方ないよ、颯真も気にする年頃だもん」
とお姉ちゃんも賛同し、ママが口を開いた。
「これはね、ママのおじいちゃんが作ったヘアストレート缶詰めなの」
「ヘアストレート缶詰め?」
「こうやって蓋を開けると」
そう説明しながらプルタブを開けると、浦島太郎で見たことあるような白い煙が立ち上り、ぼくの髪をふわふわと巻き上げた。
「頭を触ってごらん」
言われるまでもなく、ぼくは自分の体の変化に気づいた。
くるくる頭がみんなと同じサラサラヘアに変わっていることに。
「どういうこと?」
なんで今までぼくにだけ内緒にしてたの?
その疑問に応えたのはパパだった。
「ママのおじいちゃんが遺してくれた缶詰めはもう残り少ないんだ」
だからってヒミツにしなくてもいいのに……
「颯真には長い間、我慢させてごめんね、これからはママの分をゆずるわ」
それから、ぼくのくるくる頭はサラサラヘアになり、代わりにママがくるくる頭になった。なんだか不思議な感覚だった。前まではぼくがくるくるだったのに。
効果はだいたい三ヶ月程度らしい。季節が変わる度にみんなは缶詰めでストレートヘアを保っていたのだ。
でもいざくるくる頭じゃなくなると、なんとなく寂しい気持ちもある。だからぼくは、次の季節に缶詰めを開けようか、まだ決められずにいる。
私はどちらかというと、お題がないとストーリーが思い付かないタイプ(逆に言えばお題さえ与えてくれれば、わりとすんなり書ける方)なので、これからちょこちょこと爪毛さんのお題にも挑戦させていただこうと思っています。(爪毛さん、ユニークなお題をたくさんありがとうございます!)
今回は、ほぼ1000字にまとめてあります。字数を決めないと、だらだらと長くなるので、その辺もお題に合わせて意識して練習していこうかな、と。(とはいえ読みやすさも忘れずに!)
そして、このお話のB面はこちらになります。よかったら、どうぞ~
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