『手紙には綴れない』 #シロクマ文芸部【一週間前のお題です🙇編】
「手紙にはそう書いていたけど、本当にそうかな?」
「ええ、そうですよ」
「うーん、僕にはそうとは見えないんだけど」
「でも本当にそうなんですよ。実際、家族には相当迷惑かけていますし……」
「そうかい」
「はい、そうです」
「そうとなれば今後どう進めていこうか?」
「そうですね……先生としては、どうすると良いと思われますか?」
「僕はそう無理に治そうとするほどのことではないと思うよ。治さなきゃいけないという強迫観念に陥っても困るし、そう簡単に治るものでもないからね」
「そうですか……」
「そういう性格傾向だというくらいでいいんじゃないかい。少なくとも君は自分がそうであることを理解している」
「それはそうですけど……でもやっぱり家族に……」
「迷惑をかけるのが心配かい?」
「……はい」
「そうか……それじゃあ今回は僕の力不足で申し訳ないけど、荒療治ですまさせてもらうよ」
そういうと医師は看護師に目配せしてガラス瓶を持ってこさせると、その中の白い粒を目の前の女性に振りかけた。
しばらくすると女性はスーッとその場に溶け込むように姿を消した。
医師は見慣れているのか、フゥと息をつきながら見守り、看護師はヒッと息を呑む。
「……本当に多いんですね、ああいった患者さん」
「あぁ。今回はわざわざ手紙を書いてまで心霊内科に来るくらいだから、まだましな方だよ。躁の自覚はあるが、その影響で生き霊となって現れていることに自覚はない軽度の患者だ。ここには予約もなくふいに訪れる患者の方が多いくらいだから。あ、君の後ろにまた患者が……」
先週のお題になります🙇お間違えのないようよろしくお願いいたします。
「そう」という単語のやりとりから、どう膨らませようか悩んだ結果、私自身が通院して言われた言葉を基にしています。
自覚もあるし、家族に迷惑をかけたくないから自分でコントロールできるようになりたい……けれどそう簡単には治らない……双極性障害の治療の難しさは、医師でありながら当事者の北杜夫さんの本も読み、本人も周りも本当に大変であることを私なりに調べたり、学んだりしてきました。そして、その度に周りの人に対する申し訳なさに押し潰されそうになります。
(タイトルのユーモアがまたいいんですよね)
なので、単に病気を面白おかしくネタにしたというよりも、小説にすることでこういった困り事を抱えている人もいることに、ほんの少しでも関心を持って頂けたらありがたいなと思っています。(重くなりすぎないように、オチはつけていますが🙇)
一口に双極性障害といっても波の激しさは人それぞれで、私は緩やかながらその傾向があるといった感じですが、もっと激しい方もいらっしゃいます。実際に病気と分かる前の幼い頃から付き合いのある人もそうなのですが、表で明るく振る舞い、裏でズーンと落ち込むタイプもいるため、実際に打ち明けられる人は極一部、身内にすら理解を求めるのが難しいくらいです。散財など目に見えて分かる人もいるけれど、だからといって手を差しのべて助けられるかというと本当に難儀です。
だから無理に「理解しよう!」と意気込まなくてもいいんです。本人ですらどうしたらいいのかわかっていない部分もあるし、知られたくない一面というのは、病気云々関係なくきっと誰にでもあるので。ただ、そういう人に出会っても色眼鏡で見ないでほしいな、とは思っています。
でも、どんなことにも自己防衛も必要なので、自分の手には負えないなと思ったら相手を傷つけないようにそっと身を引くのも大事だと思っています。
長々と失礼しました🙇寒暖差で体調を崩しやすい時期ですが、どうかみなさん、心穏やかにお過ごし下さい。