青年と本に出会い、秋色の花が咲く(心にエッセイ)
ある秋の澄みきった空の下。
おぼつかない英語を、ものともせず……
花屋のレジで仕事をしていた。
~イギリスのロンドン市内
あるデパートの素敵な花屋さん~
花の学校を卒業後、
日本帰国まであと1カ月半という頃。
街を散歩中、たまたま立ち寄った
花屋さんのスタッフと雑談へ。
花を勉強しにイギリスに来たことを伝えたら、
「ここで働いたらどう?」と、さらっと誘われて、
すぐに、店長との面談の約束をセットしてもらった。
そんな、思いがけない出会いから始まった仕事。
店長は、スキンヘッドで背が高く、
モデルと名乗ってもおかしくない風貌の人。
整った顔立ちで強面だけど、夜道を気遣ってくれたり、
手土産を配ったりと、心優しい。
そして、恋人(man)が、たまに、お店に立ち寄る。
その日も、「ハ~イ!」と、挨拶しながら、
軽い足どりで、お店の中に入って来た。
しばらくして、店長が花の配達から戻ってくると、
二人は駆けよって、頬をよせ、熱いハグ。
早々と仕事を切り上げ、デートへ出かけていった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~
~あのときは、心に自由を感じていた~
すべてとは言いきれないけれど、
特にハグの習慣。
(今現在は、パンデミックで状況は異なると思いますが。)
それは、挨拶のように、
恋人だけでなく、男女問わず、友人、家族、同僚と……。
挨拶以外でも、
出会いと別れ、喜びと悲しみのシーンで、
それは交わされる。
それが、心温まるだけでなく、
心を自由に羽ばたかせる感じがして、好きだった。
日本はどう?
日本も、(ハグの習慣はなくても)
礼儀正しくて、相手に迷惑をかけまいとする配慮があって、
安心して話せることが多い。
でも、ときに、
霧が立ちこめて視界が悪くなることがある。
本音と建前のエクストリーム(極端気象)
のようなものに巻き込まれる。
もっと心を羽ばたかせたい!
気兼ねなく話したい!と思っても……。
初対面ならこのラインまでとか、
暗黙の基準を探ってみたり。
肩書の違いから、
建前をわきまえなくてはと、遠慮してみたり。
手探りの中、まるでジャンケンのように、
口火を切るのはどっちが先とか後とか気にしだして、
あっという間に、
暗雲立ちこめる空気に飲まれてしまう。
そんなとき、心と身体と頭がバラバラになる。
かといって、KY(空気を読まない)をつらぬく
そんな勇気があるかといえば、ない。
でも、ハグ(とか握手)は、
その「口火」の代わりになるように思える。
不思議と、心も身体も軽く自然体になれるから
余計なことを考えなくてすむ。
一瞬で、心がリセットされて、
相手に変な気持ちを抱かせず、
お互いが対等になる感じがしてホッとする。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~
~その日は、天気が良くて心地よかった~
鼻歌でも歌いたい気分♪
そろそろ紅茶休憩でもしたくなる午後の時間……。
ある青年が目の前に現れた。
たぶん、20代半ばくらい、
ブロンドヘアで、ボーダーのシャツにジーンズという
カジュアルな服装で。
そして突然、カウンターの前に、
1冊の本(ブック)を差しだした。
青年「ここに1輪、花を飾ってくれない?」
……。(息が止まる)
青年「彼女にプレゼントするんだ。いいいだろ?」
と、爽やかな笑顔。
【本に花……】
キュン。ときた。
(天の声)
「顔とか、恰好が?」
(心の声)
「う~ん……。それだけじゃ、ない気がする」
「さりげなく、自然体……。
なんか、心が透き通ってる感じ?
そこに 愛 のようなものを感じて……」
青年「このピンクの花なんて、どうかな?」
【ピンク……】
とりあえず、満面の笑みを浮かべて
OK!と言ってみたものの
胸のあたりで時を刻む音が、狂いだした。
(心)
「初恋みたいなこれって、なんですか?」
「喜びのときの高揚感にも似た、これって……」
緊張でふるえそうな手で、
1本のバラをカウンターに置き、茎をカットする。
その時、頭の中から声がした。
(天)
「自分よ。落ち着いて!」
「まさか、恋じゃないでしょ?、まさか。」
(心)
「えっ……。分からないんです!
ただ、ただ、胸のあたりがざわざわして……」
(天)
「きっと……本に花を飾るなんていうロマン
初めて経験するからでしょ。」
「きっと、新鮮に見えたのね~。」
(心)
「気のせい……ってことですかね。そうか。ふぅ~。」
そして、緊張で硬くなった指先を
無理やり動かしながら、
花の茎にワイヤーをかけていく。
やっと、一人芝居に終止符を打って、
冷静さを装う……。
そして、水を含ませたペーパーで花の茎を覆い、
その上からテープを巻いていく。
なのに、
トク、トク、トク……。トトン、トトン………。
心臓の時の刻み方が激しくなってる。
お酒を飲んでもいないのに、
頬までピンクに……、そんな感覚が。
その時だった……。
誰かの声が、頭の中を通り過ぎた。
~「本に花、たった一輪?」~「それでいいの?」~
だ、だれですか!あなた……
胸の時計のリズムが、
急にゆっくりと速度をおとしていく。
でも、今度は、
頭の方の波長が狂いだしてきた。
なんか、ムズムズする。
(天)
「あなた、何に動揺してるの?」
~「だって、あたりまえでしょ!ハハッ……笑」~
(天)
「一輪なんて、さらっとし過ぎてるでしょ」
そう言われて、急に反発したくなる。
(心)
「あなたは、そう思うんですね。
でも一輪でも、すてきじゃないですか!」
そう跳ね返してみるものの
その声が放つ「あたりまえでしょ」
が、頭の中で、リフレインしてる……。
そうこうするうちに、手元が狂って、
花の茎に巻いたテープがほどけて……
やむなく、もう一回巻き直し。
ブルン。と、頭を軽くゆさぶって
気持ちを切り替えた。
そして、やっと、最後の仕上げ。
本に花を添えて、リボンをかけていく。
と、その瞬間!
~「普通に、花束でよくない?」~
はっ?
~「ふつうに、はなたばで、いいよね」~
……。
ヒュ~~~ン。(冷) と、微風。
ビュ~~~ン。(冷)(冷)と、中風。
ビュ~~~mm。(冷)(冷)(冷)と、強風。
心の隙間に、冷めたい風が勢いよく吹いてきた。
そして、それは、体中の細胞を氷のように固めていく。
と、突然。
氷がガタガタ動き出し、
体の芯から地響きがきこえてきた。
体中の熱エネルギーがあつまる音。
それが、どんどん頭の方へ昇華していく。
それは、まったく違う次元に向かっていき……
魂の叫びへ!Go!!!
(心)
「いまは、自由に羽ばたきたーい!」
「あの澄んだ大空へ、羽ばたきたいんでーす!!!」
と、その瞬間。
体中のエネルギーが突風となって吹き荒れて、
頭の中のいらない言葉たちが、
粉々に散っていった。
そして、視界が、パーッとひらけていく。
肩の力が一気に抜けて、
ふ~っ、と一息つく。
と、同時に、
一輪の花と本の
プレゼント、完成!!!
ふ~っ。
ため息のあと、
深呼吸をもう一度~
フレッシュな空気を取りこんで、
心にも、ちょっと温かな風が戻ってきた。
~すてきなプレゼントですね!
あなたのガールフレンド、きっと幸せですよ~
目の前の紳士に向かって、一瞬だけ、
恋人のようにふるまいながら、心躍らせる。
青年は、一輪の花を添えた本を受け取ると、
「サンキュ~!」と、
また、あの笑顔で、片手をあげながら帰っていった。
~それは、あっという間の出会いだった~
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~
その日は、夕方に仕事を終え、
遅番のスタッフに挨拶をして店を出た。
晴れやかな空の下。
頭の中に、後悔のもやもやが漂ってきた。
青年ともっと、いろいろ
ハッピーな会話をしたかった。
彼女のこととか、
なぜ、どんな背景でその本を選んだのとか。
おまけに、本のタイトルすらよくおぼえてない。
あのとき、もっと心を自由に、
会話したかったよ……。
(心)
「思考よ。そろそろ、さよならして、いいですか?」
そして、私は
頭の中に残っていた、もやもやたちを
一気に、消しゴムでかき消した
そして……心を透明にして、秋色のペンを取った
そして……画家になったつもりで
~頭じゅう、お花畑で埋めつくした~
すると
あのときの青年の言葉
そのときの自分の気持ち
あの本に飾られた一輪の花が
またよみがえってくる
頭に描く言葉は
鏡のように心に映しだされ、反射していく
それが、マトモなことら
相手にの心にもマトモなことが
それが、お花畑なら
相手の心にも一面の花が咲きほこる
出会いのときは、いつのまにか過ぎてゆく
それは、すっと
雲の中に消えていってしまうかもしれないよ
だから、もっと、もっと……
ありのまま、心まかせに、なりたいね
そして、私は、オレンジの陽が射す通りを歩きながら、
オックスフォードサーカス駅へと向かった。
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