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『パパの涙とヤマタノオロチ』

終わりが近づいてきているから、限りがあるからこそ、最近とても大事にしている時間。

それは長女とのお風呂時間。

もしかしたら、明日、明後日には

『今日からパパと入りたくない』そう告げられる日が来るかもしれない。

赤ちゃんの頃から、基本的に家にいる時は僕がお風呂に入れてきた。多分、世間一般のパパ平均よりは上を行っているのではないかと勝手に自信を持っている。

忘れられない思い出が頭の中を巡る。

沐浴が終わって、初めて2人でお風呂に入った日、

その小さい体と繊細な肌を洗うのが怖かった日、

『シャバーンいくよー!』と言って毎日頭からお湯をかけていたら、あれだけ泣いていたのに、ある日を境にグッと目をつむり泣かなくなった成長の日、

湯船につかって僕の膝の上でおもちゃで遊びながら、時おりみせてくれる紅潮した肌に浮かぶ笑顔に癒された日、

お湯で流せるペンで浴室の壁に絵を描いて、うちの子は絵の才能あるんじゃないか?と親バカさせてくれた日、

壁に貼られた数字シートで1から100まで言えるようになった日、

同じく壁に貼られたひらがなシートで『あ』から『ん』まで言えるようになった日、

『あしたからようちえん、たのしみ』と伝えてくれた日、

友達とした楽しい遊びを教えてくれた日、

友達に意地悪された日、

卒園式を終えて『幼稚園楽しかった!でももう行けないんだよね?』と寂しそうにつぶやいていた日、

湯気が作った無数の雫ほどの思い出の数々。

現在に至るまで本当に楽しい時間をお風呂で過ごさせてもらっている。


でも、決めていることがある。

『今日からパパと入りたくない』と言われたらスパッとそこで一緒に入るのをやめる。

なぜならそれは、たくさん見てきた娘の成長の中でも大事な瞬間だと思うから。

未練はあれどスパッとやめる!

ドバッと泣くかもしれないけど。

そんな終わりが近づいてきている限りある時間の中で、先日もいつものように2人でいろいろ話をしている時だった。

『ねぇ、パパ〜』

『ん〜なに?』

『あのね〜、6年生の子でね、すごいお友達になりたい子がいるの』

『え、6年生?』

自分が1年生の頃、そんな年上の人と友達になりたいと思ったことはあっただろうかと振り返りながら、長女の思いを聞く。

『そう』

『しゃべったことあんの?』

『ない』

『その子は男の子?女の子?』

『女の子』

聞けば、運動会で見たその6年生の活躍する姿がカッコよくて素敵だったらしく、その時にその女の子と友達になりたくなったそうだ。

『どうしてその子と友達になりたいの?』

『あのね、脚が長くてオシャレで素敵なの』

『へー!憧れたんやな!』

『あこがれってなに?』

そう返されると意外と説明が難しい。

『んー、なんていうか、わー!こんな人になりたいなぁー!とか、しゃべってみたいなー!とか、マネしたいなー!とかって思うことやな。』

『あー!』

しっくりきたらしい。

『どうやって友達になったら良いと思う?』

友達少なめで人生過ごしてきたパパに何を聞くねん!と思いつつ『素直に友達になってください』って言うたらええんちゃうか?とエビデンスのないアドバイス。

『うん、わかった』

『あと、友達になってくださいの時に自分の名前とクラスも言わなあかんで』

『え、なんで?』

『だってそのお姉さんは誰と友達になったのか分からんやんか』

『それ大事?』

『いや、めっちゃ大事!』

『うん、わかった』

『がんばれ!』

子供達が寝静まってから、夫婦でこの話を語り合い成長を噛み締めた。

後日、仕事終わりで家に帰るとリビングから『パパー!』と明るい声がする。

このトーンは嬉しいことがあった時の声色だ。

『どした?』

『あの子のお友達になれた!』

『えー!すごいやん!自分から言うたん!?』

『うん!』

『えー!どんな感じで!?』

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