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これは、「今」を救うための物語―カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』【考察前編】

2021年3月に『クララとお日さま』
早川書房から、カズオ・イシグロの最新長篇『クララとお日さま』 (KLARA AND THE SUN, 翻訳:土屋政雄)が英Faber & Faber社、米Knopf社との世界同時発売される。

一応Faber & Faber社で予約してるんだけど、ちゃんと日本に届くのかな……はやく読みたい。


今回の記事は、来たる新作を読む前に今一度妖精、鬼、アーサー王、騎士、呪い…様々なファンタジーのモチーフが登場するカズオ・イシグロ『忘れられた巨人』(2015)を振り返るためのものである。


前作の『わたしを離さないで』と比べると『忘れられた巨人』は低評価されることが多い印象を受ける(日本の検索ウィンドウに“ 忘れられた巨人”と打つとすぐに「“ 忘れられた巨人”  / “つまらない” 」とサジェストが出てくるほど……)。


 それは恐らく、『忘れられた巨人』が夢でも見ているかのように判然としない文体で書かれており、ファンタジーらしからぬファンタジーであり本が好きでなければ慣れるまでに少々時間のかかるような世界観であるからなのかもしれない。


テーマや結末は理路整然としているはずなのに、そこを読み解くまでの道のりがまさに主人公たちが辿る旅路のように霧がかったように曖昧としているのだ。なぜイシグロは読者を遠ざけようとしているかのような小説を書いたのか。それにはもちろんちゃんと、理由がある。

ここではイシグロの物語の描き方も含め、本作において「巨人」が意味するもの、いや、なぜ「記憶」のメタファーとして「巨人」を用いたのかということ、そして彼が現代の読者に極めて比喩的なやり方で伝えようとしていることは何かをわかりやすく考察していこうと思う。

つらつらと書いてみたら六万字になってしまったので、分かりやすく本作の二重のテーマ、「国家における記憶」を前編、「個人における記憶」を後編とした。前者はいわば『忘れられた巨人』における歴史と物語をめぐる内容で、後者は愛や人生を扱ったものとなっている。


本題に入る前に、本記事のコンテンツを紹介しておこう。自分の思考の整理のためのノートなので有料にしているけれど、ここで大体の内容はお分かりになると思う。

1. あらすじ/主題
前読んだけどちょっと忘れたかもなあ~という人向けにあらすじと本作の主題をまとめた。海外のインタビューでイシグロが公言してきた本作の執筆のきっかけについても。

2. イシグロ流ファンタジー手法
妖精やドラゴンといったファンタジーを用いた本作がどのように評価されたか。『ゲド戦記』のアーシュラ・ル・グウィンの批判なども含めたジャンル論争の概観と、イシグロ自身がファンタジーを用いた意図について、NYTimesやGardian等様々な海外のレビュー・インタビューを総括して述べる。

3. 過去を埋める者たち
ここから物語の内容を考察していく。
キーワード:アクセル、ベアトリス、ガウェインの欺瞞、修道院の僧たちの秘密。

3. 忘却の呪いが意味するもの
竜の呪いは何を比喩しているのか。竜の呪いをブリテン島の人々にかけたというそもそもの設定によってイシグロは何を登場人物に課したのか。
キーワード:雌竜クエリグ、アーサー王、ガウェイン、マーリン

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