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浮き星という名の菓子
雑貨店の店先にさりげなく置いてあったそれには、見覚えがあった。
数年前、旅先のミュージアムショップで見かけて、存在を知ったふしぎなお菓子。
地元でのひさびさの再会に、ちいさな懐かしさがこみ上げた。
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見た目はどうみてもコンペイトウなのだが、これは《浮き星》という新潟県の伝統的なお菓子である。
はじめて出会ったのも、日本海にほど近い新潟市美術館のミュージアムショップだった。
コンペイトウは砂糖のみでできているが、浮き星はもち米(あられ)に砂糖をかけたもの。
見た目はうりふたつでも、似て非なるものなのだ。
袋の折り込み部分には、おみくじのように折りたたまれた栞が入っている。
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文庫本のような書体と、縦書きのレイアウトに、奥ゆかしさを感じた。
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新潟だけのお菓子だし、この作り方・この形状で作れるのはもうたった一軒だけなのに、後継ぎがいないのだという。
存亡の危機に瀕した小さな星を、伝統を守るべく、もう一度輝かせるべく救い出したという、まさに小説のような実話。
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青と白のミントベースや、原宿の竹下通りを思わせるカラフルなミックスもあったが、柑橘好きなので柚子ベースの黄色と白を購入。
お皿に飛び出したときの心地よいカラカラ音は、まさにコンペイトウ。
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くどいようだが、見た目はコンペイトウ。
とげとげの部分がコンペイトウよりすこしだけまるい気もするが、きっとAIもFBIも見抜けないだろう。
念のためGoogleレンズで検索してみたら、こうなった。
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たやすく浮き星と見抜いた。
さりげなくサジェストされた「松茸ご飯やすき焼きにお使い頂ける松茸味の金平糖」がものすごく気になるが、またの機会にする。
浮き星をひとつぶつまんで食べてみると、第一食感はまさしくコンペイトウのカリカリ感。
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しかし、そのあとサクサクと軽くほどけていく感じや、ノスタルジックな甘み、ほんのり香ばしい風味は、まさしくあられである。
そして、《浮き星》という気になる名前の由来はこうだ。
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かつては《ゆか里》という名で親しまれていたが、その名前では商標がとれず、存続させていくにはハードルがあったという。
また、もともとお湯や水をそそいで飲んだり食べたりするものなのだとか。
はじめは水底に沈んでいるけれど、次第にまわりの砂糖が溶けて水面にぷかぷかと浮いてくる様子に《浮き星》という名前がつけられたのだ。
わかりやすいし、一段と粋な名前である。
コップに、浮き星をさらさらと流し込む。
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ガラスにぼんやり反射する様子が、宇宙のようだし花畑のようだ。
ここに、いまは夏なので冷たい水を注ぎこむ。
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ものの数秒で、なにもしていないのに数粒の星がふわりと浮かんできた。冷たい水でもへっちゃらだ。
浮かんだ星は、じょじょにとげがとれて、まるくふくらんでいく。
ひとの一生のようだ。
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砂糖が溶けていく途中で、とげがとれて猫耳のようになるのがかわいい。
モテ期だろうか。ひとの一生のようだ。
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コップの円周に沿うように浮かぶまんまるは、真珠のネックレスのよう。
真珠星とも呼ばれる星の名がついたこの歌が、頭をかけめぐる。
粉のように飛び出す せつないときめきです
今だけは逃げないで 君を見つめてよう
やたらマジメな夜 なぜだか泣きそうになる
幸せは途切れながらも 続くのです
水面に飛び出してくる小さな星はずっと見つめていたいし、ひとの一生のようなその姿はせつないときめきだし、伝統は途切れそうになりながらも続いてほしい。
だんだん、着色料につかわれているクチナシ黄色素が溶けて、水が柚子色に染まってきた。
飲んでみると、柚子のさわやかな酸味をほんのりと感じた。溶けきらなかったあられの食感が楽しい。もっとたくさん入れてもよかった。
つぎは炭酸水に入れたり、それこそ冬はお湯に溶かして飲んだりしてみたい。
ところで、スピッツの「スピカ」は、25年前の七夕にリリースされた名曲である。
星祭りの異名をもつ七夕に、星の名をもつ《浮き星》はぴったりな気がした。
もうすぐ七夕。
織姫と彦星よろしく、天の川ならぬ信濃川を越えてこのお菓子と再会したのは、なにかの縁かもしれない。
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