スコーンサンドの憧憬
マリトッツォを見かけなくなって久しいが、ちまたではとにかく何かをはさんだものが目をひく。
わかれ、あれば、であいあり。
あんバタースコーンサンド専門店『an and an(アンアンドアン)』。
横浜の百貨店に催事で出店していて、その見た目に吸い寄せられた。
ちいさいのに、ぶあつい。シンプルなのに、見ごたえ。
コロナ禍の来客減少をうけ、地元を盛り上げる商品をつくりたい、という思いから、なんと和歌山県のスナックで誕生したという。
もとが洋菓子店ではないためか、2024年夏現在、オンラインショップと催事での販売のみ。
ラインナップは、あんとバタークリームを混ぜ合わせた「であい」、あんとバターを重ねた「わかれ」、あんオンリーの「ひとり」。
泣くも笑うも好きも嫌いも、と続けたくなるネーミングなのだが、スナックの常連客がポルノグラフィティをよく唄っていたのだろうか。
それぞれにあずき、抹茶、いちじくの3種類があり、好物のいちじくを購入した。
ひとりは181kcal、であいは238kcal、わかれは315kcal。
そうだ、ひとりは身軽だし、わかれにはエネルギーを必要とする。
ひとり、と、わかれ、はトースターでちょっとだけ温めて、であい、はバタークリームなので鮮度そのままで食べてくださいとのこと。
なんだかもう、コンセプトが詩的というか、完璧すぎやしないか。
ほんのりピンク色クリームのであい、を食べた。
香ばしいスコーンと、バタークリームのなめらかさが、口の中で混ざり合う。
いちじくの風味と、あんこの甘みは、どちらもおだやかで和を感じるから相性がいい。それを、赤ワインがぐっと引き締めていた。
ガツンと食べごたえがあり、そこに確かに残るサウダージ。
いつかまた逢いましょうと思っていた矢先に、「さいかい」した。
いや、新しい「であい」だ。
見た目がよく似ているため見間違えたが、これは宮崎県延岡市からやってきた『BLUE OWL(ブルーオウル)』のスコーンサンド。
百貨店のウィークリーイベントコーナーに、期間限定で出店していた。
あんバター、チョコレート、コーヒーなど多彩なラインナップのなか、好物のピスタチオバターとラムレーズンいちじくを選ぶ。
ここは、低糖質が最大の特徴だそうだ。
上白糖、ショートニング、着色料を使用せず、天然由来の甘味料で甘みをつけているという。
たしかに、原材料に砂糖がない。
かわりに、エリスリトールや、羅漢果由来の甘味料がつかわれている。あと、小麦ふすまも。
エリスリトールはカロリーゼロの糖質で、血糖値の上昇にも影響しないとか。
プライスカードと裏面表示にはカロリーがはっきり表示されていて、どれも、おおむね300kcal前後。
おや。
カロリー自体は、アンアンドアンの「わかれ」とほぼ同じくらいだ。そんなに低くない。
というか、一般的なごはん一膳分より多い。
そうだ、カロリーと糖質は完全イコールではなかった。
カロリーはエネルギーの単位で、糖質はそのエネルギーの原料。
エネルギーの原料には、他にも脂質やたんぱく質がある。
文章だとややこしいが、栄養成分表示をみると関係性がストンと腑に落ちる。
人体では糖質が先にエネルギーとして燃えるため、カロリーをひかえても、糖質をとりすぎると脂肪とは全然「おわかれ」できないらしい。
低糖質のBLUE OWLのスコーンは、ある意味「わかれ」属性ということになる。
こちらはすべて要冷蔵なので、スコーンはしっとりめ。小麦ふすまのざらざら感は全然ない。
クリームのしっとり具合と同化していて、歯がスッ、と入る。
クリーム部分は、低糖質の名のとおり、そよ風のような甘みだった。
受動的な甘みではなく、能動的に自分の舌で味わいにいく感じ。
そのぶん、ピスタチオの香ばしさや、いちじくのプチプチ、ほのかに香るラム酒の味も純粋に受け取れる。
まだ舌や胃が寝ぼけている朝に食べたい、やさしいスコーンサンドである。
いくらでも食べられそう、と思ったが、それでは低糖質のよさをプラマイゼロにしてしまう。
許してね、低糖質よ。甘いものは欲にさらわれたの。
包まれているときは見えなかったが、透明な個包装にもシュッとしたフクロウが。
おや。
この特徴的な頭のでっぱり、フクロウというよりミミズクでは。
調べてみたら、やはり頭の飾り羽があるのがミミズクで、ないのがフクロウだそうだ(シマフクロウなど例外あり)。
ただ、どちらもフクロウ目フクロウ科に属しており、生物学的には同じだとか。
完全イコールではないけれど、完全別物でもないややこしさ、カロリーと糖質の関係性に似ている気がした。
ショップカードのデザインが意味するのは、そういうことなのか、だとしたら、こちらもコンセプトが完璧すぎやしないか。
スコーンサンド、クリームだけじゃなく憧憬や雑学もはさみまくってくる。