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「ジューシーキッチン」のデザイナーノート

まだ覚えてるうちに、三度(みたび)インタビュー風に書いていきます。自分で自分にするインタビューみたいな。奇妙ですね。きっと、それが読みたいって人も(ごくまれに)いるでしょう。

箱絵c(修正版の最終決定稿)
ジューシーキッチンのパッケージイラスト

着想

当時の僕は「ダイスマンカラ(注:このリンクから、基本+拡張セットが手に入る)」のデベロップと並行して、別のゲームのアイデアを考えていた。原案のファイルの日付を見ると、2019年8月だったようだね。覚えているだろうか? 当時(というかその数年前から)、タピオカミルクティーが女子高生の間でブームを迎えていたらしく、ニュースになっていたんだが、それもピークを過ぎつつあった。そりゃ僕だって心はいつまでもJK、いわゆる女子高生さ……と言いたいところだが、実際は3歳児だ。もうちょっとだけキッズなんだ。大人ぶってしまって、すまない。

そんな中、ヤクザがしのぎとして、タピオカを仕入れてジュース屋をやっている、なんて記事を目にした。スポーツ新聞か何かの与太話さ。でも面白いだろ? そこで、タピオカヤクザ、略してタピヤってゲームを思いついた。

ラウンド開始時に、ヤクザからタピオカをお金を払って仕入れ、ジュースを売って稼ぎ、ラウンド終了時に上納金を渡す。ゲームが進むにつれて仕入れ額はどんどん高くなり、上納金の要求も増えていく……。これはすぐにボツになった。理由はご想像の通りさ。

一方で、ペーパーテイルズの噂を目にしていた。当時はまだ遊んだことがなかったが、どうやら村の人生みたいに、ワーカーだか人物カードに寿命があるらしい。そりゃ面白い、自分でもそういったゲームを作ってみたいと考えた(後にペーパーテイルズを遊ぶ機会を得た。想像とはちょっと違っていたよ。それなりに楽しめはしたけどね)。

また、当時クアックサルバーがヒットしていて、これは遊ぶ機会が何度かあった。面白かったがバースト要素が気になっていた。そこで「資材を袋から引いてバーストしても脱落せず、カードを獲得&達成し、能力を得ていくがカードには寿命がある」というシステムを思いついた。テーマはそうだな……タピオカジュースを作るのがいいんじゃないか、流行ってるし(当時はね。今やブームは終わった)というわけで、タピ屋の基幹部分が完成し、初回のテストプレイにこぎつけた。ここまでで2か月ってとこだね。

テストプレイとその後

ここからが長かった。初回から遊んだ人たちの反応は上々だった。でもVP(注:Victory Point。勝利点を指す)が高いカードに強い能力を乗せていたので、慌てて修正した。VPについても、コストとのバランスを調整した。デベロップを重ね、最終的な6版のカードは2020年の7月に作られたようだね。今確認したよ。場札も4版まで修正した。こちらは最終更新が同じ2020年の4月だった。そこからさらにテストプレイをして、自分の中でゴーサインが出た。

遊んでもらった人々の感想は、大半が面白いというものだったが、一部のゲーマーから拡大再生産をもっとしたい、普通だった、といった感想が上がったのは承知している。

ジューシーキッチン(当時はまだタピヤだった)」は、ファミリーゲームあるいはゲートウェイゲームだと認識している。ゲーマー受けを狙ったわけではなく、初心者とゲーマーを繋ぐような内容にしたかった。

能力の種類を厳選し、複雑なコンボが発生しないよう心掛けた。初心者でも1回遊べば、やっている最中に能力アイコンを覚えられるようなね。手番でできることは簡潔に、「袋から資材を引く(バーストあり)/カードを得る/カードを達成する」の3択から1つ選ぶだけ。それでいてゲーマーが遊んでも、やりごたえがある。

ただ、プレイが長いという感想が出たため、4つアイコンを集めたら即時勝利、という条件を増やした。これは最初からうまく機能してくれた。狙えばゲーム途中でも一発逆転で勝てる可能性がある。この要素を入れたことで、遊ぶ人数に応じて、だいぶ異なるプレイ感になった。嬉しい誤算だよ。

20201109宅ゲクローズ会 タピヤのテストプレイ (1)b
初期段階のテストプレイ風景

また、拡張要素として考えていたアイデアの一部を最初から盛り込んだ。カードの達成にほんのわずか、パズルっぽい要素を入れたんだ。お客さんとカードの色を合わせるとボーナスが得られるっていうね。これは計算して入れた部分もあり、上手く機能してくれることは想像がついていた。

加えて、テストプレイ中に、個人目標の要望があった。しかしタピヤは共通の盤面を作っていくのではなく、各自の手元で、達成したカードによる制限付きの拡大再生産をしながら、場の流れを作ったり、翻弄されたりするシステムだ。個人目標とはマッチしない。

すでに十分面白いゲームではあったのだが、この問題は、しばらく潜在的にタピヤに影を落とし続けていた。

さあ、君ならどう解決する?

この問題は最終的に、2022年の年初に解決した。

結論から言おう。僕は基本に戻って、クアックサルバーと似た解決方法を選択した。毎ラウンド公開されるイベントカードを新たに導入したんだ。それ以外はとっくに完成していたからね。差し引くものはなかった。最初に極力そぎ落としてからシステムを作るよう意識しているつもりだ(そぎ落とした部分を拡張要素として、別途よけておく傾向にある)。

で、これは本当に上手くいった。欠けていた最後のピースがカチッとハマる音が聞こえたほどさ。商業的に成功した方法は、やはりそれだけ考え抜かれているのがわかったよ。

僕としても、イベントカードの導入はかなり考えた末にたどり着いた回答だった(もっといい方法があるのかもしれないが)。ジューシーキッチンにおけるイベントカードは、条件を満たせばVPを得られる内容で、棚ぼたボーナスは存在しない。ここはクアックサルバーと明確に異なる点だ。その時点での勝敗に関わらず、多めのVPが得られるものとなっているため、ゲームに参加している誰もがチャレンジしたくなる魅力を兼ね備えている。と同時に、これは得点が最下位のプレイヤーがラウンド終了時に獲得し、再び使えるようになることで、強力な救済措置につながっている。

各イベントの難易度には大きくバラつきを持たせた。全体で7枚あるが、ゲーム自体は4ラウンドだ。めくり運にも左右される。お楽しみ要素以外に、あらかじめ救済措置を意識した内容もあるにせよ、トップを走っているプレイヤーがこれをまったく無視すれば、最終的に逆転されるであろうバランスになっている。

20220220館林たぬげー  テストプレイ
モックは作り直しが発生する前提で、ビジュアルは簡易的になりがち

そんなわけで、とうとうジューシーキッチンは、テストプレイをしてもらった初見の女性に、その場で「もう1回遊びたい!」と言ってもらえるまでに成長した。

クアックサルバーやペーパーテイルズをつまみ食いをしつつも、その良さを汲んで、オリジナリティを兼ね備えたゲームになったと思う。

全員の好みに合うボードゲームなんて存在しない。ボードゲームは生き物で、誰からも好かれるゲームなんてないんだ。それでも、ぜひ1度はジューシーキッチンを遊んでみてほしいね。面白いゲームができたと自負している。

アートワークについて

時間を遡ろう。「ダイスマンカラ」を2020年の秋ゲムマにリリースしたのち、2021年の秋ゲムマはタピヤで行こう、と考えた。

そこで必要な素材を2021年3月までに仕入れ、ばふさんにイラストをお願いしたものの……ここからは「ダイエットリテ」のデザイナーノートで触れた通りさ。ご時世がご時世だったしね。あの厄介な新型コロナウイルスの問題も解決していなかった。

2021年の年末、半年近いブランクの間に、タピ屋は、スウィートジューススタンドという名前に変更された。ブームは終わった。今さらタピオカジュース屋もないだろう。それなら普遍的なテーマの方がいい。ジュース屋という部分は残し、ガワはジューススタンドにシフトした(その後、イラストを経てキッチンカーへと脱皮する)。

さて「ダイエットリテ」がリリースされ、一方で手元には、スウィートジューススタンド用に大量に仕入れただけで使われなかった素材が残っている。そして、イベントカードの追加が行われ、面白いゲームだという確信が得られた。

こうなると、必要なのはイラストだ。そこで、たぬきつね工務店でも一部のアートワークを担当しているしろくまさんにお願いすることにした。ダイエットリテの応援イラストを描いてもらった縁もあり、あれよあれよと話が決まって、あっという間にイラストが送られてきた。驚くべきスピードだよ。中身もラフな感じが逆に味になっていて、個人的にとてもいいと思った。

僕は「原宿のジューススタンド」という指定をした。それに対して、しろくまさんは、それは描けない、替わりにニューレトロのデザインで行く、といい、それに即したイメージの下書きを送ってきてくれた。ニューレトロは、たしかにスウィートジューススタンドに似合っていた。新たな風を吹き込んでくれたんだ。

プロダクト制作とジューシーキッチンの誕生

さて、いいことだけじゃあない。イラストはすぐに上がってきたものの、その時点では本当に、イラストだけだった。となれば、次ににやることはわかるね? そうだ。レイアウトデザインを行う必要がある。これはモック(注:モックアップ=試作品のこと)をベースに行くことにした。

簡単に印刷できる場札から取り掛かり、レイアウトを作ってしろくまさんに見せ、そこから修正版をもらい、さらにレイアウトデータの作成をやり直す。こんな風にして場札の制作は進んでいった。

これまた話の流れで、ジュースカードのレイアウトについて、なたねさんに相談してみたら、彼女からアルファ版ともいうべきレイアウトが上がってきたんだ。驚いたよ。自分の中で、正式版のビジュアルが徐々に浮かび上がってくる気がした。それをベースにしつつ、一方でしろくまさんにアイデアを伝え、それぞれからフィードバックをもらったり議論を交わしながら、1か月という時間をかけてカード全体の作業を進めていった。

とにかく慣れないことばかりだ。画像処理に関する専門知識が必要だし、デザインにレイアウト、最終的には入稿用データを見据えなければならない。これについては、ずぶの素人だからね。何もわからないところから、少しづつ学んでいった。

ところで、なたねさんにはスウィートジューススタンドというタイトルを伝えていたにも関わらず、パッケージイラストの女性がジューシーちゃんという名前であること、場札がキッチンカーのイラストであったことから、彼女はジューシィキッチンとこのゲームを呼び始めた。僕もその響きを気に入った。グッド! スウィートジューススタンドよりずっと短くて覚えやすい。ゲームにも合っている。ただし、シィキッチンの部分がシーチキンみたいで気に食わなかった。だから横棒に変更して、ジューシーキッチンとタイトルを変更した。「ダイエットリテ」がDTなら、こいつはJKだ。

君もJKが好きだろ? ――結構だ、答える必要はない。

いとも簡単に連続するトラブル

場のカードに関しては、完成次第、さっさと入稿して印刷してしまった。といっても、入稿の見本データの段階で色合いが想定していたものと異なっていた。周囲にお伺いしたところ、「これはこれで、味があってよろしい」という反応だったので、そのままGOサインを出した。

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各ラウンド終了時1色を選び1/3/6VPを獲得。ゲーム終了時は2駒ごとに1VP

しかし、これは軽率な判断だったと言わざるを得ない。のちにレイアウトをしたジュースカードとアイコンが微妙に統一されなくなってしまった(注:場札の得点数字には、薄い六角形の枠がない)からね。場のカードのレイアウトを踏まえてジュースカードのアイコンがデザインされたため、後者はわかりやすくブラッシュアップされているが、前者は早め早めに作業しようとした弊害が出てしまった。……正直、ちょっぴり後悔が残る結果となったよ。

しかし、印刷は終わって手元に場カードが届いてしまっているのだからもう遅い。色合いが想定通りじゃなかった原因も、のちに判明する。最初に思っていたのと違ってたってだけで、出来上がったものは全然アリなんだけどね。

さて、ジュースカードの話だが……本当にこんな細かい話、聞きたいのかい? ああうん、それならいいのだけれど……。

オーケー、続けよう。地道に1か月かけて作ったデータを入稿するために、正式なデータを作ろうという段階になった。こちらは別途、まとめてカード印刷をかけると決めていた。ということは、だ。ビンゴ! 専門知識の出番だよ。僕の持ち合わせじゃ、あらゆる知識が足りなかったわけだが。

ここで、元データのdpi=画像解像度が不足していることが発覚した。心が折れるトラブルだ。わかりやすく説明すると、これまでの作業はすべて無駄、イチからやり直し(信じられるかい? すごろくで言えば振り出しに戻る――そう、イラストデータを送ってもらうところまで!)という事態になりかねなかったってわけだ。

やさぐれたよ。こんなことがしたいわけじゃない、ボードゲームを作りたいんであって、プロダクト制作をしたいんじゃない!ってね。もちろん何万円、何十万円というお金を払ってプロに丸投げするってやり方もある。それで? 何百個と作ったなら、次に要求されるのはセールスや小売りに関する専門知識ってわけだ。最終的には在庫の山に埋もれて、大量の、誰にも遊ばれなかった燃えるごみを集積所に持ち込むってワケか? ずいぶん笑えるジョークじゃないか、ちくしょう。

いいや、そんなわけにはいかない。自分に言い聞かせたよ。「お前の考えたゲームを面白いと言ってくれた人たちがいる。これは事実だ。それを冒涜する気か? 頭を冷やせ。くだらない考えこそ、燃えるごみに出すべきだ。やさぐれてていいから前進しろ」ってね。落ち込んだっていい。やさぐれたって別にいいんだ。そういう気持ちを燃やすことで、僕のエンジンは回転して推進力を得る(心が折れない限りは)。

初めてのことに取り組むってのは、眠るトラブルを抱えながら家の中をうろつくようなもんだ。トラブルが目を覚ますと、大声で泣き始める。おしめを変えろ、抱っこしろ、早く相手をしろ、家に帰りたいってね。おいおい、ここは家の中だしもう抱っこしてあげてるじゃないか……これ以上どうしろって言うんだ。もしかしてミルクが欲しいのか? そんなこと一言も言ってなかっただろ!?

再びふりだしに戻る

dpi=画像解像度の問題を力技で処理するめどが立ったのは、カードサイズに合わせて最初から作業をしていたからだ。自分が自分を救ってくれた。ただ、これで入稿が通るかどうかはわからなかったから、万が一のために、しろくまさんに改めてイラストデータを送ってもらった。また、パッケージイラストの修正がこの時点で何回かなされた。パッケージレイアウトは終わっていたが、箱のサイズを考えると、もう一度やり直した方がいいだろうと判断した。

さて、ここで再びトラブルに直面する。場のカードの色合い問題が再浮上してきたんだ。ジュースカードの色合いも、箱絵もなんだか色がやけに地味だ。表示している画像は鮮やかできれいなのに、入稿フォーマットに落とし込むと色が沈んでしまう。なぜ……?

頭を抱えたよ。また専門知識のお出ましだ。わかるかい? こっちだってほとんど赤ちゃんなんだぞ! 転生に失敗して、なんにも知らないベイビーちゃんとして生まれてきちまった。ばふばぶ。人間の世界に生きていても、知らないことの方が圧倒的に多い。なんてこった。チート能力があるとかなんとかって世界はどこにあるんだろう。夢か? 僕は夢でも見てるのか?(ある意味ではその通り)

どうやらディスプレイではRGB=赤緑青って表示で、微妙な色合いを表現していて、いわばテレビと同じやり方をしているんだ。が、印刷物はそうはいかない。CMYK=シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック。この4色を混合している。要するに、家のプリンターで印刷できない色は無理ってこと。微妙な色合いが印刷物では出せない。これが、場のカードの色合いが暗くなってしまった理由だ。

絵を描くときはRGBなのに、印刷時は大抵CMYKで入稿する。この間の変換は色合いがどうしても同じにはならないため、印刷物用の原稿は最初からCMYKで描いてほしい、というのが僕からイラストレーター諸氏へのお願いだ。

……さて、それじゃどうなるかって? かしこいYOUならわかるだろ? 再修正だ。もう一度言う。再修正だよ。それもイラストから。じゃあ、再びやってきたそれ以降の作業はどうなるんだい? ハハハハハ、きみ、面白いこと言うね! もう、この気持ちは言葉にならないよ。小田和正ばりに高らかに歌うしかない。ラブストーリーなんて目じゃないくらい突然やってくるんだ、トラブルってやつはさあ!

もうやめて、彼のライフはゼロよ

少々、取り乱してしまったかな。すまないね。なたねさんからのフィードバックもあり、再び色合いの調整を行った。そんな中、ジュースじゃなくクレープ屋さんのテーマがいいと彼女はのたまい始めた。却下だ却下! そんな変更をする余裕がどこにあるってんだ。別にジュースはジュースで好きだが、なんなら僕だってクレープ屋の方がいいまであるわ! んなもん、テストプレイ時点で言ってくれ!

もうひとつ、外からは全く分からないが、内側では大問題となるハードルとして、入稿データを扱うソフトウェアやアプリ自体の操作には専門知識がこれまた要求される。大体の個人デザイナーはここで1回つまづくはずだ。画像を扱うソフトってのは、カタカナ用語の塊だ。ボードゲーマーは英語と強制的に親しくさせられているから、さして言葉の壁は問題にならないにせよ、ソフトの操作がわからない。そんなの日常茶飯事だよ。なんか修行でもやってるんですか?

これも使い方を解説するブログを読み漁ったりして、なんとか解決した。箱の実際のレイアウト作業はなたねさんを中心に、文章は主に僕が書き、色合いの調整やアイコン配置も最終的に僕が判断を下した。とはいえレイアウトのアイデア自体は話し合いの中から生まれているから、具体的にどちらがどうしたとは言いにくいね。

コンポーネントについて

木駒はすんなり入手できたものの、得点駒についてはトラブルがあった。どうせ数を作らないなら、可能な範囲で自分が嬉しいものにしようと考えた。ただの木製マーカーじゃなく、果物ってのはどうだろう? そういう何かがあるんじゃないか……? というわけで、これも該当するものを探し出してきて、かわいいビーズを見つけ、発注をかけた。

コストを抑える目的で、いろいろミックスみたいなものを注文したんだ。到着は順調だった。問題は中身さ。せいぜい数種類だと思っていた果物駒(つまりビーズのことだ)は、現物が届いてみたら、実際には二十種類近くがミックスされていた。あー……いやいや待て待て、4人プレイまでのゲームだぞ。そんなに種類があったって意味ないだろ。より分けてみたら――もう全然数が足らなかった。焦ったね。

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果物マーカーは、得点やスターカードの達成チェックに使用する

慌てて追加注文をかけた。それでなんとか、数を賄えるであろう目途がついた。丁合(ちょうあい)ってわかるかい? 今度は手作業で、1つ1つの箱ごとに、中身を必要なぶんだけ取り分けて入れてやるんだ。本来は印刷業界の用語らしい。丁、つまりページを合わせるってこと。

コンポーネントを発注するためには、当然、何が何個必要かを計算しなければならない。その上で、どこから仕入れるのかも吟味する必要がある。カードは何枚いる? 駒はいくつ、どんな種類が? チップ類は? 箱はどうする? 入稿作業と並行して、こんなことを処理しながら、一方で可能なら次のゲームのテストプレイのことも考える。

また、制作進行の時間管理をするのも、やるべきことの範疇だ。イベントに出展すると決めて、出展費を払ったはいいが出すものが何もない、イベントが終わってから完成しました! では遅すぎる。こんなことは、できるだけ起きちゃあいけないんだ。

2022年春の東京ゲームマーケットは、中国で新型コロナウイルスの感染が再拡大した関係で、向こうの政府によるロックダウンの影響をもろにくらってしまい、生産したゲーム自体が中国から届かず、イベントに間に合わなかったなんて話もSNS上で見かけたよ。胸が痛むね(注:大量にボードゲームを生産する場合、同人だったとしても、中国の工場に注文して日本まで輸送することがある)。

幸いにして、うちはそういうトラブルには巻き込まれなかった。なぜかって? 2022春ゲムマには出展してないからさ! HAHAHA! いや、笑い事じゃないな、すまない。今のは編集でカットしといてくれ。

それでも同人ボードゲームを作りたい? 本当に?

僕は昔、同人ボードゲームを作りたいという人に出会ったことがある。彼は10個くらいゲームのアイデアがあるが、お金がないから作ってないんだ、と言った。君はどう思う?

――同感だよ。僕も同じことを思った。こりゃ一生完成しないな、ってね。どれだけ大変だろうと、作るやつは勝手に作っちまうんだ。ボードゲームってのは、形にしてやらないと遊べないからね。作るやつは、作っちまう。オタクが趣味じゃなく生き方なのと同じだよ。

途中でどういう道を辿ったって、こういう風になっちまうんだ。行きつくところは同じさ。面倒な作業なんてまったくやりたくないのに、形にしてしまう。そういうものさ。

Q:入稿を終えたらどうなる?(A:説明書を書く)

同時に製作を進めていたダイスマーケットというゲームの話は、別で話したからもういいね?(注:別の記事として、デザイナーノートが公開予定) 紆余曲折を経てジューシーキッチン用のカードデータも完成し、ばふさんからもらったダイスマーケット用のデータと合わせて入稿を終えた。1回だけ、ダイスマーケットの箱のイラストデータに関して差し戻しがあったが、同じ週に修正データを再入稿できた。

そこから1か月くらいかかったかな。途中、メールを受けて入金を済ませたりといった雑務はあったが、トラブルは眠りについた。ついに……ついに! 印刷所からの荷物が届き、ほぼすべての要素が揃った。

……ほぼ、だ。

わかるかい? ここから丁合を行い、箱を組み立て、さらに説明書を書き上げなければならないってわけだ。説明書ができたらサマリーもね。いつ終わるんだ? ……う~ん、めまいがしてきそうだろ? 説明書はだれが書くんだって話だよ。そりゃもちろん外部ライターに頼むだけの余裕があればいいがね。そんなことは過去のゲームの在庫を売り切ってから言ってくれって別部門の自分が主張するわけだ。

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 箱の組み立ての作業風景(フタ50個、身50個=100回+α)

説明書の下書きを完成させた時点で、トータルで18ページになっていた。首をかしげたね。やることは単純なのに、丁寧に説明するとどうしても文章が長くなる。イラストを入れたらもっとページ数が増える可能性がある。それもこれも、全カードの解説を入れたからだ。かといって、これをカットするわけにはいかない。

結果的に、レイアウト調整や目次の追加により、説明書は20ページとなった。そのうち、ルールは精々7ページだ。内容物の説明と目次に各1ページずつ、準備が見開き2ページ、カード説明が9ページだ。なんでこんな簡単なことを説明するのに、ここまでのページ数が…………?

…………ああ。言いたいことはわかる、わかるとも! でもカードを獲得するとき、いちいち「1枚獲得する」と書かなければならない。山札をシャッフルするとき、ちゃんと「裏向きで」と書かなければならない。説明書を書くときってのは、そういう一言が抜けるだけで、デザイナーの頭の中では完璧に出来上がっていたゲームが、プレイヤーの目の前でまったく成立しなくなる危険をはらんでいる。

他の人に読んでもらい、ダメ出しを修正していく。はっきりいって、褒められることはない。修正、訂正の類は全部そうだ。つらく苦しい作業さ。

これが終わったら、サマリーの製作が待っている。ああ! 説明書でほとんど1か月はかかっているというのに! 表裏のシンプルなサマリーを作るだけで、なんと2週間もかかっている。しかも、これが完成しないことには、本当の丁合が終わらないってワケ。まあ、荒んだね。大嵐さ。そりゃ大物男性アイドルグループだって活動休止するってもんさね。

本当に、ほんっとーにプロダクト製作はタフでダイ・ハードな日々の連続だった。

完成したジューシーキッチンのサマリー

パサッパ・サッパーの登場

ここで方向転換しよう。たぬきつね工務店から9月3日にリリースされた「ダイスファイター」は、10月29日の秋ゲムマでお目見えしたジューシーキッチンよりも、約2か月ほどリリースが早い。そんなわけで、当然そっちの製作がうちよりも先に進行していた。

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おや………? どこかで見たような?

7月に初めて、しろくまさんからイラストを見せてもらったのだが……うれしいサプライズだった! 「ダイスファイター」に、「ジューシーキッチン」のパッケージに描かれているジューシーちゃんの妹パサッパ・サッパーが登場するというではないか。予期せぬコラボに心躍ったよ。

「ダイスファイター」はデジタル3D格闘ゲームのヒット作であるバーチャファイターがオマージュした、2人用ダイスバトルだ。キャラクターを選び、ダイスを振って必殺技を繰り出し、体力を先に無くした方の勝ち。その中の、いちキャラクターとしてパサッパ・サッパーは、姉に会うため世界を旅しているという設定で登場している。リンゴのエプロンがキュートな女性だよ。

興味が湧いた諸氏は、そちらも併せてチェックしてみて欲しいね。

ゲームマーケット直前にやることは1つ

ジューシーキッチンのセットアップ例

さて、そんなこんなで完全にすべての作業が終わったときには、すでにゲームマーケット2022秋の1週間前、正確には4日前だった。

当然、そんな時期から宣伝を始めても遅い。遅いのだが、こっちは完成するかしないかの瀬戸際なんだから、そんな余裕はないわけだ。とはいえ、とっとと宣伝をするべきだというのは、頭では当然わかっている。

そんなわけで、製作を進めるかたわら、少しずつオンラインで宣伝を行っていった。これも大事なミッションだからね。主にツイッターアカウント @gamesf_ferret 上でのことだったが、並行してゲームマーケットの公式サイトにゲームの説明を書いたり、今回新たにインスタグラムのアカウント https://www.instagram.com/ferretgamesfactory/?hl=ja を開設して、写真を公開したりなどした。

写真についても、早いところ撮影しておきたかったのだが、直前になってしまった。そこまで手が回らなかったんだ。印刷されたものが手元にあるなら、いくらでもそんな時間はあっただろうって思うかもしれないが、ここまで読んできた賢明な諸氏であれば、察していただけると思う。

ただ、インスタを意識した影響もあり、比較的、見栄えのする写真になったんじゃないだろうか。

ジューシーキッチンは、箱にコンポーネントがみっちり入っている

とにかく苦労して完成させたぶん、モノとしてはフェレットゲームズファクトリー史上、トップクラスにいいものに仕上がっていると思う。ゲーム自体も面白い。おそらく、2~3人ベストだがね。

最後に伝えたかったこと

ちなみに、ゲームマーケット公式ページに書いたジューシーキッチンのゲーム説明はここから読める。

おっと、ここまでですでに1万1300文字を超えてしまった。
長々とすまないね。
ぼちぼちお開きとするが……最後に伝えたかったのは、ジューシーキッチンは下記のリンク(ボドゲーマのサイト)からも購入できるってことだ。

手数料が大きく、さすがにイベント会場価格では出せないのだが、イベントの入場料や交通費だと思ってもらえると助かるよ。

ゲームマーケット2022秋では、たぬきつねフェレット工務店として、土曜1日のみ参加した。このあたりに関して、ゲムマ会場のブースに来てくれた人たちはご存じの通りだね。

当日、会場でジューシーキッチンを手に入れてくれた人には感謝している。ぜひ楽しんでほしい。苦労したのは、すべてそのためだったのだから。

そして、いろんな事情でゲムマ2022秋に参加できなかった各位で、ジューシーキッチンにちょっとでも興味のある人は、ぜひ手に入れて遊んでみて欲しい。

よろしく頼むぜ! またな!


(インタビューは以上です。ここまで読んでくださった奇特な方々、どうもありがとうございました。フェレットゲームズファクトリーの次回作にご期待ください)


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