【スケッチ】言い出しかねて
雨上がりの新宿。濡れた歩道に人々の足音が響く午後3時。ビルの谷間から差し込む陽光が、水たまりに映る街の姿を歪めていた。
「あら、智也さん?」
振り向いた先に佐和子の姿があった。親友・健一の妻である。ネイビーのワンピースに白のカーディガン。相変わらず凛とした佇まいだ。
「こんな所で偶然に」
「ええ。仕事の打ち合わせが早く終わって」
「僕も同じです。時間はありますか?」
「ええ」
言葉の末尾が少し上がった。
新宿の喧騒から逃れるように、路地裏の小さなカフェに入る。窓際の席。午後の柔らかな光が、佐和子の横顔を優しく照らしていた。
「健一、最近忙しそうですね」
「ええ。新しいプロジェクトが始まって」
他愛もない会話が続く。が、二人とも本当に話したいことは、その向こう側にあることを知っている。
5年前、健一と佐和子の結婚式。僕が主賓スピーチをした。
心の中で何度も練習したあの言葉を噛み締めながら、笑顔で祝福した。
佐和子と出会ったのは健一より僕の方が先だった。大学の同じゼミで、図書館で何度も勉強を教えあった仲。だが、告白する勇気はなかった。
そんな過去を知ってか知らずか、佐和子はコーヒーカップを両手で包むように持ち、窓の外を見つめている。
「覚えてますか?図書館で勉強した日々」
「ええ。智也さんには随分助けていただきました」
「僕の方こそ」
言葉が途切れる。街の喧騒が遠くで鳴っている。
カフェの中は静かだ。隣のテーブルでは若いカップルが頭を寄せ合って何かを話している。幸せそうな空気が漂う。ふと佐和子の左手の指輪が光った。現実を突きつけられたような気がした。
「health first」
唐突に佐和子が言った。
「図書館で教えてもらった英語の熟語です。まだ覚えています」
「よく覚えてましたね」
「だって、智也さんが一生懸命教えてくれたから」
言葉の重みが、この狭いカフェの空気を震わせる。二人とも、その言葉の裏に潜む想いを察している。けれど、それを口にすることは許されない。
窓の外では人々が行き交う。恋人同士、家族連れ、一人歩きの人々。それぞれの人生を生きている。僕と佐和子もまた、それぞれの人生を選んで生きている。
「そろそろ行かないと」
佐和子が時計を見て言った。
「ええ」
二人で店を出る。夕暮れが近づいていた。
「健一によろしく」
「ええ、智也さんも」
佐和子は軽く会釈をして、雑踏の中へ消えていった。後ろ姿を見送りながら、僕は考える。この切ない想いは、きっとこのまま心の奥底で眠り続けるのだろう。それが正しい選択なのだから。
新宿の街は、人々の想いを包み込むように、いつもと変わらない喧騒を響かせている。電車の音、人々の声、信号の音。その中に、言葉にできない想いが溶けていく。
夕暮れの街を歩きながら、ふと空を見上げる。グレーの雲の間から、オレンジ色の夕陽が覗いていた。まるで、この胸の内を象徴するかのように。
新宿駅に向かう人の流れに身を任せながら、今日のことは、また深い記憶の引き出しにしまおうと思う。それでいい。それが、大人の恋なのだから。
東京の夕暮れは、そんな想いを優しく包み込んでくれる。明日もまた、いつもと変わらない日常が始まる。健一と仕事で会って、いつものように冗談を言い合う。それが、今の僕の選んだ道なのだから。
(画像:DALL-E-3)
#AI #AIコンテンツ #AI生成 #スケッチ #ショートストーリー #毎日note #スキしてみて #AIとやってみた #AIマエストロ #琴乃夢路 #秘めた思い