古漬け高菜(せいさい漬)の柔らかな酸味と旨味が豆腐にしみる、中国の家庭の味「酸菜豆腐」
各国料理の中でも中国・台湾料理には懐かしさと親近感を抱いている。最も多く渡航し、現地の味を知る機会に恵まれたからだ。
2000年代初頭の中国生産ブーム期、当時勤めていた会社も地方に製造拠点を立ち上げた。上海から車で5時間ほどかかる田舎だ(今は多少都会化されているかも)。設立当初の1~2年、事務方としてかなり繁く出張した。当時の渡航回数は50近くに及ぶ。
当時は日本人女性の私が外を歩くと物珍しがられ、外国人向けレストランなどある筈もなく、朝はホテル、昼は工場の社員食堂、夜は同僚らと近くの店を順番に開拓するか、時に現地スタッフが連れて行ってくれることもあったが食事は全て中国料理。ファストフードもなかったし(そういうのが食べたくて、休日に出張者みんなでタクシーをチャーターして付近の中都市まで出掛けたことも…)、中華以外であったのは、ホテルのレストラン以外は怪しげな韓国料理ぐらいじゃなかったかな…。それも数ヶ月でつぶれた。
旅行では決して行か(け)ないそうした街に、住むように滞在して仕事ができたのは得難い経験で、殊に現地の食生活・食文化に触れられたことが私には嬉しかった。あの頃舌で覚えた、都会のレストランでは決して出会えない中国の郷土の味がいろいろある。
中でも日本人に馴染みやすく、帰って時々つくっていたのが高菜豆腐、現地風に言うと「酸菜(スヮンツァイ)豆腐(ドウフ)」。乳酸発酵させ旨味を出した高菜漬を使った簡単な総菜で、工場のお昼にも出たし、街の食堂でもよく見る一品だった。家庭でもよくつくられるそうだ。台湾でも見たことがあるので、広く親しまれているのだろう。
高菜の古漬けと豚肉を炒め、角切り豆腐を加えて煮込んでとろみをつけた、ごはんにとても合う料理だ。日本人なら誰しもごはんにかけて食べたくなる。中国の人もそう。柄の長いスプーンで食べる。これ一品で手頃なランチになる。高菜から旨味が出るので余計な味付けは要らない。
――というのを、今回漬けたせいさい漬でつくってみた。ちょうど良い酸味があるし、せいさいの旨味や食感もこの料理にしっくり来そう。
《懐かしい中国の味、発酵の旨味がポイント「酸菜豆腐」》レシピ:2人分程度
◆材料
・高菜の古漬け(乳酸発酵させたもの。市販の高菜漬を使う場合は塩だけで漬けたものを選び、室温で袋が膨らむまで3~5日ほど置いて発酵させるとよい):80~100g
・豚切り落としまたは薄切り肉:50g
※細かく切って使う。ひき肉よりもその方が美味しいし、中国ではひき肉はあまり売られていない。
・豆腐:200g(2/3丁程度)
※絹ごし豆腐を使うと舌触り滑らか、木綿豆腐だと味がよくしみます。中国では絹ごしが一般的ですがお好みで。
・油(好みのものを。私はこれにはごま油を使います)
・水溶き片栗粉
・こしょう
◆作り方
①材料を切る。
高菜漬は粗みじん切り(水気は絞らなくてよい)、豚肉は細切りまたは粗みじん切りにして軽くこしょうをまぶす。豆腐は1.5~2センチ角に。
②中華鍋かフライパンに多めに(少なくとも大さじ2〜3)油を熱し、最初に高菜漬を入れてよく油と馴染ませつつ香り良く中火で炒め、次に豚肉を加えて色が変わる程度に炒める。
③ ②に水1カップ程度(漬物の汁も少々加えるとだしになって美味しい)を加え、煮立ったら豆腐を入れ、軽く混ぜて5分ほど煮込む。
④ 水溶き片栗粉を流し入れ、とろみがついたらできあがり!お好みでラー油をかけても美味しいです。
※漬物から塩気と旨味が出るのでこしょう以外使いません(香りづけに紹興酒を少々入れるのは有り)。味が足りない場合は塩や鶏がらスープ等で調整できますが、旨味は豚肉で補い、できれば「酸菜(発酵させた菜っ葉の漬物総称。ここでは高菜を指すが白菜漬等も含まれる)」から出る旨味をそのまま味わって欲しい料理。
うん、美味しい。せいさいは塩分低めで漬けているのでよりあっさり仕上がったが旨味は十分。深く柔らかな酸味が全体を包み込み、お腹にも優しい美味しさ。スープが美味しいので汁気多めがおすすめ。肉は具と言うより旨味出しなので少量で構わない。多めに入れてボリュームを出してももちろんOK。
いやー中華に合うなあせいさい漬。酸味を出す漬け方をしてよかった!
未発酵の高菜漬を使っても美味しくできるけれど(「高菜豆腐」として出す店もある)、発酵の柔らかな酸味と旨味をぜひ味わって欲しい。一度味わうときっと癖になると思う。
中国では発酵させた漬物を調味料のように使用し、年単位で熟成させることも珍しくない。日本の高菜やせいさいは中国伝来の高菜に日本の在来種をかけ合わせたものなので、中国の高菜にとても近い。
中国の家庭の味、手軽なランチにいかがでしょうか?
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