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低栄養は予防するべき?

お年寄りの介護にまつわるセミナーや勉強会に参加しますと、時々お年寄りの「低栄養」に関する問題が議論される事があります。

そうした時の講師役にはだいたい管理栄養士さんがあたられる事が多くて、管理栄養士さんなりに専門的な知見からお話しをされます。

内容的にはだいたい同じで、お年寄りは咀嚼や嚥下を含めた様々な問題から徐々に1度の食事で食べる事が出来る量が減るので気がつかないうちに低栄養状態に陥ることが多いといった内容です。私が以前受けた講義では調査したお年寄りの何と7割が低栄養かそれに近い状態だったと教えていただいた事があります。

かなり驚いたのですが、同時に「それってつまり低栄養状態が普通という事では?」と思ったのも事実です。

人間が老いて行く過程で徐々に食べる量が減り、死というゴールに向かって段々と枯れて行くことがつまり「低栄養」なのではないかとも感じました。

私は介護食の専門家ですし、プロの調理師でもありますから普段は食べてもらう事ばかりを考えているのですが、食べさせられるご本人にとって実は迷惑なのではないかと思う事もあります。

特に施設を利用しているお年寄りの場合は、食べない事が続くと施設側から問題視されてしまい何とかして食べさせようとあれこれ本人の意に添わない方向に誘導されかねません。

この問題は終末期医療の問題にも通じるものがありまして、例えば延命治療について本人の意思表示が無い状態で危篤に陥った場合、医師は必ず延命措置を施します。

沢山の管に繋がれた状態で動くこともままならず、ただ心臓だけを強制的に動かされる状態が安らかな最後と言えるのでしょうか。

私ならどうか自然に死なせて下さいとお願いすると思うのですが、これは「治療」という行為が受け身な行為であるから起こってくる問題です。

しかし食べるという行為はあくまで自発的、能動的に行うものですし、そこを無理矢理食べさせる様な事をしたら、これはハッキリとした虐待になってしまいます。

ですからお年寄りの低栄養について考える時には、あくまで自然に自発的に食べていただける方策なり献立なりを考える事になります。

私が以前働いていた施設での事例をご紹介します。

その方は90歳を過ぎていて認知症もかなり進んでいました。食事の形態は普通食でしたが、認知症の影響で食事を目の前に配膳しても中々手を付けようとしません。それが食事だと認識出来ていない様でした。

ですから時々介護福祉士さんが声がけをして食べるように促すのですが、中々食が進みません。それで厨房の方に相談がありまして、1度刻み食にしてみてくれとのオーダーでした。しばらくそれで様子を見まして、その後「刻み食」から「刻みトロミ食」に変更になりました。その状態が割と長く続いたのですが、体調を崩して入院して施設に戻ってきたタイミングで「ソフト食」に変更になりました。

ソフト食というのは舌で潰せるほどの硬さに加工した食品で、厨房で手作りするのが難しいため多くはメーカー品を仕入れてそれを提供します。

野菜から肉類魚類までなんでもありまして、ソフト食だけで献立を作ります。

しかしそのソフト食をこの方はあまり気に入らなかった様で、ほとんど残してしまうことが多くなりました。時々思い出したみたいに完食される事もあったのですが、そんな事はごくごく稀でした。

当然栄養は不足しますので、栄養ゼリーなどで補うのですがそれだけでは無理ですしそのうちゼリーも食べなくなってしまいました。

それでソフト食を諦めて流動食の「ミキサー食」になったのですが、ミキサー食というのは、厨房で作った他の方と同じ料理をトロミ調整剤や出し汁と一緒にミキサーに掛けて流動食の状態にして提供するものです。見た目はともかくとして、味や風味は手作り品と同じですから、これはソフト食よりも多少は食べて下さいました。

しかしそれもとうとう口にしなくなり程なくして亡くなったのですが、これって普通に歳を取って死ぬという事ですから自然な事と言えます。

つまり人間にとって徐々に「低栄養」状態になるのは自然な事で、それについてはあまり神経質になる必要はないのかもしれません。

施設での事例をご紹介しましたが、ご家庭の場合は意思表示もお互い遠慮無く出来ますから不味いから食べないのか、咀嚼や嚥下が難しいのか、それとも根本的に食べる気が起こらないのかしっかり確かめて、食べたくないのならそれも尊重してあげる覚悟も介護には必要なのではないでしょうか。

(元記事は食べごろclub


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中嶋洋二郎
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