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親愛なるテオ・アンゲロプロス

 親愛なるテオ・アンゲロプロス
 今日1月24日は、あなたが13年前、交通事故で亡くなられた日です。あなたは「20世紀三部作」の第三部に当たる新作映画『THE OTHER SEA』を撮影中でした。あなたの映画が大好きだった私は、次はどんな映画なのかしら、とわくわくしていました。突然の訃報に、あなたの新作はもう観られないのか、と愕然としたのを覚えています。

 「20世紀三部作」の第一作『エレニの旅』(2004)のヒロインは、ロシア革命でオデッサを追われ、両親を失い、孤児になった少女です。彼女は難民としてギリシャにやって来て、同じく難民である養父に育てられます。年の近い、養父の息子と恋仲になり、双子の息子を生みます。夫はよりよい暮らしを求めて、アメリカに渡りますが、グリーンカードを取得するために、兵士に志願します。そして、第二次世界大戦の激戦地、沖縄の慶良間諸島に派兵され、命を落とします。さらに、彼女の息子二人はギリシャ内戦で敵味方に別れて戦い、亡くなります。

 冒頭で孤児として登場したヒロインは、結末でまた一人ぼっちになり、息子の遺体を抱いて号泣します。あなたは、20世紀の戦争の記憶を踏まえ、二度と戦争を繰り返してはならないと訴えています。と同時に、ヒロインの姿は、同時代の、イラク戦争で亡くなったわが子を抱いて嘆く母の姿と重なって来ます。あなたは過去を批判的に回顧しながら、今ここに生きる私たちへのメッセージも送っていたのです。

 あなたの不慮の死から13年が経ちました。あなたからの映像の手紙に、私たちは応答できているでしょうか。残念ながら、私たちはあなたの訴えを無視し、退けてしまっているように思えてなりません。イスラエルによってガザは壊滅的なまでに破壊され、プーチンはウクライナ侵攻を止めようとはしません。

 あなたが命を賭けて私たちに送ってくれたメッセージに応える世界になることを、そんな世界を作る一員になることを願ってやみません。


 テオ・アンゲロプロスはギリシャ出身の映画作家で、生きていれば、今年で90歳を迎えます。

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