2024年10月前半の読了本+感想
10月27日には、文学フリマ福岡へ参加予定です!!
福岡の皆さま、九州の皆さま、お待ちしております!!
2024年10月前半に読んだ本
①『爆弾』
作中、このセリフを吐くのは犯人のスズキタゴサク。酒屋の前の自動販売機を蹴り、店員を殴ったという軽犯罪で野方署の取調室に連行された男。
一見みすぼらしい金のなさそうな男は取調室の中、刑事に向かって「十時ぴったり、秋葉原の方で、きっと何かありますよ」と予言めいたことを言い出す。タイトルから連想されるとおり、爆弾による爆発が起きる。さらに次の爆弾の予言をするスズキ……。
めちゃくちゃ面白かった!!密室での会話劇と、東京中で起こる派手な爆発。
キーワードは「緊張感」と警官それぞれが抱える「正義」だと思う。
次はどこで爆発が起きるのか——そんな切迫感に終始翻弄される警察官たち。捜査一課から来た刑事、清宮はスズキに「九つの尻尾」というゲームを仕掛ける。九つの質問に答えたあと清宮の心の形を当てるゲームの中で繰り広げられる頭脳戦・心理戦。不意に登場する爆弾のヒント。一言も聞き逃せない状況に緊迫感が半端ない。
終始ヘラヘラして、何を考えているかわからないスズキは小説界に名を残すほどの犯人だと思った。「無敵の人」なのか、切れ者の愉快犯なのか、また別の人格があるのか、ぜひ読んで確認して欲しい。
警官それぞれが抱える「正義」の書き分けも見事だった。
スズキは許せない。ただ心の奥底にこの状況を楽しんでしまっている自分はいないか、警官として出世するための実績としてこの事件を利用している自分がいるのではないか、身内さえ助かったら胸を撫で下ろすのではないか——どこかで共感してしまう自分もいるはず。
この作品は、読者の心の奥底に秘められた悪意にライトを照らすと思う。
②『くたばれPTA』筒井康隆
あ〜〜〜面白い。不謹慎で、不道徳で、でも示唆的で、皮肉が抜群に効いていてゾクゾクする。
筒井さんの昭和40年代に発表されたショートショートを再編した一冊。なんでこんなに色褪せないんだろう。むしろ今現在のテクノロジーや社会問題を予見的に描いていて驚く。
男女論、ルッキズム、公害、環境問題、AI、VR、コンプライアンスの行き過ぎなんて世界を1960年代から考えて物語にしていたなんて、ほんと予言書すぎる。洗練されたショートショートが22本も読めて大満足の一冊だった。
特に好きだったのは
・女子を甲子園に出す作戦を考える『秘密兵器』
・ガガーリンの15日前に月に付いてしまった宇宙飛行士を描いた『弾道軌跡』
・恐竜の本音と生き様に迫った『ここに恐竜あり』
・彼女がサンタに抱かれた!?『最後のクリスマス』
・今だったら出版できるのかな『女権国家の繁栄と崩壊』
・コンプラ警察に通づる表題作『くたばれPTA』
・テレビ局で放送されるVRのAVに男が虜になる『20000トンの精液』
一番笑ったのは、モーツアルトの伝記を自由に書いた『モーツアルト伝』。ムチャクチャで最高!一回モーツアルト死んでるし。
真面目な音楽雑誌での連載を依頼されての作品だったそうだが、第一回目で打ち切られた伝説の作品。
③『ルビンの壺が割れた』宿野かほる
有名な『ルビンの壺』は、外側の黒い部分を見れば「向かい合っている顔」に見え、内側の白い部分を見れば「壺」のように見えるというだまし絵。どう見るかによって意味が変わる。
この小説は文章でそれに挑戦している。水谷と未帆子、どちらに感情移入して読むかによって意味が変わる。とはいっても一読目はみんな同じ読み方になると思うので、ぜひ二度よんで欲しい。「う〜〜〜わ。そういう意味だったんや」と、なんども愕然とした。
あらすじ
水谷一馬は、28年前の結婚式の2日前に突然失踪した未帆子の存命をフェイスブックで見つけ、未帆子にメッセージを送る。本当に未帆子か確信が持てなかったので、その友達のページにあった写真を印刷して拡大し、確証を得たのだった。
返信がなかったが、2年後、3回目のメッセージに対して、未帆子から返信がある。28年の時を経てフェイスブック上での邂逅。語られる演劇部での出会い、美化された思い出。「こんなことどうでもいいですね。昔のことだし」そんな気持ちを持ちながらも、譲らないところは譲らない。水谷と未帆子それぞれの生い立ちと過去も明かされ、未帆子の失踪の理由が語られる。
感想
最初はストーカーっぽくて気持ち悪いな、と思っていたが、思い出話や今だからこそ話せることを丁寧な文章でやりとりしているのをみて、あれ?純愛小説かもしれないぞ?と思わせられた。そしてラストの衝撃。マジかよ!!と慌てて最初から読むと、腑に落ちるメッセージがたくさん。短いページ数でめちゃくちゃ楽しませてくれた。
全てメッセージのやり取りでストーリーが進むのが面白い。というか手紙・メッセージが秘めている特殊性と力強さを思い知った。読者を想定しなくていいということ。読む相手だけ想定して書かれているから、情報の後出しが出来る。
昔ある恋愛小説を読んで、いい感じになって恋が成就したと思ったタイミングで、主人公が「でもあいつ結婚してるから、僕たちが結ばれることはない」的なことを急に言い出して、先言えや!ずるいわ!と思ったことがある。知ったタイミングで書けや!と。
手紙だとそれが許される。特に『ルビンの壺が割れた』は、現在の二人の生活にほとんど焦点が当たらず、過去のみにフォーカスされているので、相手の反応を見ながら情報を出していくことができ、その構成が巧みだった。
筆者の宿野かほるさんは覆面作家。2017年3月に宿野さんから新潮社宛に作品が送付され、新人であるものの社内で高く評価された。しかし内容が濃く稀有な作品であることから編集担当がこの作品に相応しいキャッチコピーが考えられず、なんと全文無料公開してキャッチコピーを公募!内容だけじゃなく、販売戦略までセンセーショナル!集められたキャッチコピーが表紙の裏にたくさん書かれているのも楽しい。
今後の予定
①文学フリマ福岡
日時:10月27日、11時〜
会場:博多国際展示場&カンファレンスセンター
URL:https://bunfree.net/event/fukuoka10/
第一芸人文芸部のブースは【Aー24】になりました。
入って左奥です!!
会えるのを楽しみにしています!!
第一芸人文芸部のレギュラー
① 毎週水曜22時〜 stand.fm生配信
今週読んだ本の紹介、そのほか文学ニュースについて語ったり、活動報告も行なっています。お便りコーナーもあるので、質問等お待ちしております。
第一芸人文芸部の活動のベースです!
② 毎週日曜16時30分〜BSよしもと『俺の推し本』
毎週レギュラー放送中。アーカイブはBSよしもとのサイトから!
また放送から1週間後にBSよしもとのYouTubeチャンネルでも公開されます!
放送予定
10月20日 総集編
10月27日 シーズン2スタート!
拙著について
① 『きょうも芸の夢をみる』
2023年3月に発売した“芸人”をテーマにして書いたショートショート&短編小説集『きょうも芸の夢をみる』。めちゃめちゃ自信作です!!
Amazon、読書メーター、ブクログなどで感想書いていただけたらめちゃくちゃ喜びます!!
こちらに発刊への想いは、以下に綴っています。
そして以下のリンクから芸人の解散をテーマにして書いたショートショート『エルパソ』を無料公開しているので、ぜひ読んでみてください!
② 小鳥書房 『本屋夜話』 (「小鳥書房文学賞」詞華集: とりをめぐる12話の物語)
こちら小鳥書房さん主催の「小鳥書房文学賞」を受賞させていただき、その後発売されたアンソロジーです。“とり”をテーマにした12作。僕の『私・芸能人・鳥』という作品も掲載していただいています!
③『第一芸人文芸部 創刊準備号/創刊準備二号』
ともに一般流通していませんが、以下の本屋さんで取り扱ってくれております。自信作です! ぜひゲットしてください!
アーカイブ
①(2024年7月〜)『第一芸人文芸部 俺の推し本』
④ (2023年10月〜2024年3月)Amazon Audible 『本ノじかん』
2023年10月〜2024年3月までの半年間、パーソナリティを担当させていただきました!豪華なゲストと本や創作について語っているのでぜひ!
また番組内の『クチヅタエ』という企画で、バイク川崎バイク(BKB)、しずる・村上、3時のヒロイン・福田、ニッポンの社長・辻、レインボー・ジャンボたかおのリレー小説の連載が完成し、第23回では全員集まって反省会をしています!各回の朗読は、声優の白井悠介さんです!
東野圭吾さん初のAudible作品『誰かが私を殺した』の配信を記念して、2024年7月24日~28日までの5日間に渡って実施されたイベント「真夏のミステリーライブラリー」で公開収録した特別編も配信中!