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風のつめたい日だったわ。 秋が終ろうとしていたの。 中庭のいちょうがレモン色に染まってね、…
こんなはずじゃない自分を生きていました。 ふとしたしぐさを白い目で見られる気がして、わた…
あの青い星に、ひとりのかなしい子がいます。 その子は帰りたいのです。母なるひとの腕のなか…
夏は昼寝にかぎるわね。 縁側に籐の枕ころがしてさ。 寝そべった床板はひんやり冷たくて。 そ…
生きながら死んでいるのか、死にながら生きているのか、わたしはときどき、わからなくなる。 …
どこへゆくにも、ああちゃんとすうちゃんはいっしょでした。 ふたりとも杖をつき、ささえあっ…
神さま ぼくは不器用です なんにもできず ひとりぽっちで 時にながされ もだえてばかり 自分が なさけなくて うとましい ぼくはこのまま 際限もなく小さくなり あなたを信じる力さえ 失ってしまいそう お願いです ぼくを この苦しい世界から 解放してください さもなくば もっと強くかしこい 別の存在に 変えてください 波うちぎわの枝をひろって、しめった砂に文字をきざんだ。 神さまは砂の上にことばを書くと聞いたから。 ぼくはこと
俺の父は教師だった。 春樹という、いくらか頭の弱かったらしいかつての教え子から、鉛筆書き…
なんにもない空の下で、むーやんはすっかり地球が好きになりました。 どちらを向いても花が笑…
キアヌの松葉杖――マサヤ語るびっくりしてるヒマなんかないよ。 銃声が聞えたら、反射的に伏…
鏡に黒いビニールをはりました。 荒れはてた部屋をうつす鏡に、これはお前の心の中さと、冷た…
うれしいとき、ちいちゃんはほっぺをふくらますくせがあります。 はじめて会った時もそうでし…
小枝が運命をわけました。 戦場だった南の島へ、待ちわびた引揚船が日本から到着した朝のこと…
夜ふけの台所はふしぎの国。 ひるまはむっつり屋の野菜や果物が、ひそひそ、ざわざわ。 心を澄ますと、みかんが語りかけてくれました。 ぼくらはね、ごらんのとおり、ふぞろいなの。 大きいのや小さいのや、あちこち傷ついて泣いたのや、いろいろなの。 食べてみて! 中身も、あまかったりすっぱかったり、そうかと思えば種ばかりでぱさぱさだったり、みーんなちがうんだから。 でもね、ぼくらは、ひとつの木にみのった仲間なの。 だんだん畑のみかんの木。 見おろす海はガラスのか