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風のつめたい日だったわ。 秋が終ろうとしていたの。 中庭のいちょうがレモン色に染まってね、…
味覚障害を克服しました。 といっても、かれこれ十二年も前の話で、もちろんコロナとは関係な…
こんなはずじゃない自分を生きていました。 ふとしたしぐさを白い目で見られる気がして、わた…
あの青い星に、ひとりのかなしい子がいます。 その子は帰りたいのです。母なるひとの腕のなか…
夏は昼寝にかぎるわね。 縁側に籐の枕ころがしてさ。 寝そべった床板はひんやり冷たくて。 そ…
生きながら死んでいるのか、死にながら生きているのか、わたしはときどき、わからなくなる。 …
どこへゆくにも、ああちゃんとすうちゃんはいっしょでした。 ふたりとも杖をつき、ささえあってあるきます。 足のわるいああちゃんは、杖とすうちゃんなしにはあるけません。 目のわるいすうちゃんは、杖とああちゃんなしにはあるけません。 「根っこがでっぱってるから、つまづかないでね」 ああちゃんがすうちゃんに教えてあげたり、 「坂になってきたから、しっかりつかまってるといいよ」 すうちゃんがああちゃんをはげましたり。 時間がかかっても、みんなに追いぬかれても、いっしょけんめい、足をから
神さま ぼくは不器用です なんにもできず ひとりぽっちで 時にながされ もだえて…
俺の父は教師だった。 春樹という、いくらか頭の弱かったらしいかつての教え子から、鉛筆書き…
なんにもない空の下で、むーやんはすっかり地球が好きになりました。 どちらを向いても花が笑…
キアヌの松葉杖――マサヤ語るびっくりしてるヒマなんかないよ。 銃声が聞えたら、反射的に伏…
ぼくの人生がかわろうとしている。 高ぶるこの気持をどういったらいい? つぼみに向かって棒を…
鏡に黒いビニールをはりました。 荒れはてた部屋をうつす鏡に、これはお前の心の中さと、冷た…
うれしいとき、ちいちゃんはほっぺをふくらますくせがあります。 はじめて会った時もそうでした。 わすれもしません。 すもものようにほっぺをまるくして、ちいちゃんはどすんと、わたしに飛びのって言いました。 「切株みたい!」 そう。わたしはまるい木の腰かけなのです。 その日からというもの、あつい夏もさむい冬も、ちいちゃんとわたしはいつもいっしょでした。ちいちゃんがよいしょよいしょとわたしを運んで、おうちのなかのいろんな場所へ連れていってくれたからです。 台所で、ちいちゃんはわたしの