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ことばの作品集

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みどりにひかる本になることばの倉庫
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記事一覧

おべんとふたつ ~オネエの中学生日記~

風のつめたい日だったわ。 秋が終ろうとしていたの。 中庭のいちょうがレモン色に染まってね、…

さよなら郵便局  ~オネエゆうメイトの影あらば光~

味覚障害を克服しました。 といっても、かれこれ十二年も前の話で、もちろんコロナとは関係な…

花たばになる

こんなはずじゃない自分を生きていました。 ふとしたしぐさを白い目で見られる気がして、わた…

星よ、きてください

あの青い星に、ひとりのかなしい子がいます。 その子は帰りたいのです。母なるひとの腕のなか…

ささぶね ~田舎オネエの語る夏~

夏は昼寝にかぎるわね。 縁側に籐の枕ころがしてさ。 寝そべった床板はひんやり冷たくて。 そ…

花のふたご

生きながら死んでいるのか、死にながら生きているのか、わたしはときどき、わからなくなる。 …

杖のふたり

どこへゆくにも、ああちゃんとすうちゃんはいっしょでした。 ふたりとも杖をつき、ささえあってあるきます。 足のわるいああちゃんは、杖とすうちゃんなしにはあるけません。 目のわるいすうちゃんは、杖とああちゃんなしにはあるけません。 「根っこがでっぱってるから、つまづかないでね」 ああちゃんがすうちゃんに教えてあげたり、 「坂になってきたから、しっかりつかまってるといいよ」 すうちゃんがああちゃんをはげましたり。 時間がかかっても、みんなに追いぬかれても、いっしょけんめい、足をから

砂のてがみ

 神さま  ぼくは不器用です  なんにもできず  ひとりぽっちで  時にながされ  もだえて…

俺はまばゆい庭を見た

俺の父は教師だった。 春樹という、いくらか頭の弱かったらしいかつての教え子から、鉛筆書き…

むーやんとたんぽぽの綿毛

なんにもない空の下で、むーやんはすっかり地球が好きになりました。 どちらを向いても花が笑…

でこぼこ道に光さすオネエ三人の自分語り

キアヌの松葉杖――マサヤ語るびっくりしてるヒマなんかないよ。 銃声が聞えたら、反射的に伏…

神さまのかくれんぼ

ぼくの人生がかわろうとしている。 高ぶるこの気持をどういったらいい? つぼみに向かって棒を…

星をひろう

鏡に黒いビニールをはりました。 荒れはてた部屋をうつす鏡に、これはお前の心の中さと、冷た…

あなたはわたしの愛に乗る

うれしいとき、ちいちゃんはほっぺをふくらますくせがあります。 はじめて会った時もそうでした。 わすれもしません。 すもものようにほっぺをまるくして、ちいちゃんはどすんと、わたしに飛びのって言いました。 「切株みたい!」 そう。わたしはまるい木の腰かけなのです。 その日からというもの、あつい夏もさむい冬も、ちいちゃんとわたしはいつもいっしょでした。ちいちゃんがよいしょよいしょとわたしを運んで、おうちのなかのいろんな場所へ連れていってくれたからです。 台所で、ちいちゃんはわたしの