【読書】過度な経済不平等が諸悪の根源/「Time for Socialism」から
フランス人経済学者のThomas Piketty/トマ・ピケティ先生による一冊。過度な経済不平等に懸念を持ち、税や教育システム、各種社会的セーフティーネット含め何らかの是正措置が必要と主張。本書自体は、どこかのジャーナルに寄稿した記事をまとめた本で非常に読みやすい。
記事要約
世界経済がHypercapitalism化、その流れが行きすぎたため、2020年現在経済社会の至る所に歪みを生み出している。
社会における力関係の見直し、税制改革を含む新たな社会主義的思考や体制が求められている。
より公平/フェアの社会を構築しない限り気候変動対策などはうまくいかない。
1.本の紹介
本のタイトルは「Time for Socialism - Dispatches from a world on fire, 2016-2021」(2021年刊行)で、邦訳は、「来たれ、新たな社会主義 世界を読む2016-2021」でみすず書房から2022年刊行。
著者はフランス人経済学者のThomas Piketty/トマ・ピケティ(1971年-)。パリのエリート大学パリ高等師範学校卒で、なんと22歳の若さで社会科学高等研究&ロンドン・スクール・エコノミクスから経済博士号を取得したツワモノ。専門は経済不平等分析。
彼の著書の一つ「21世紀の資本」が日本でも話題になったらしい。
2.本の概要
英国サッチャーや米国レーガン政権が推し進めた規制緩和とその後加速化したGlobalisationにより、世界経済がHypercapitalism化、その流れが行きすぎたため、2020年現在経済社会の至る所に歪みを生み出している。新たな社会主義的思考や体制が求められている。
具体的にはまず社会における力関係の見直し。現在では高収入や高学歴、資産家らに権力やカネが集中する構造になっているが、例えばTrade Unions/労働組合の権利強化などを通じ、労働階級の社会・経済・政治参画を促す。また、相続税や財産税なども含めた各種税制の改革が不可欠。そもそも資本投資や法人税が優遇されていることが問題。
このような改革を通じて、もっと公平な社会を作り出さなければならない。さもないと気候変動対策など、社会に痛みを伴う対策はうまくいくわけがない。昨今のポピュリスト政党の台頭はまさに、現代の経済社会から取り残された人々が膨れ上がっており、その蓄積されたフラストレーションが形になった現象に他ならない。
欧州に関してはなるはやでEuro zone改革を実施すべし。そもそもEuro Zone参画国の経済・財政大臣だけで物事を決める体制自体が非民主的。各国から民主的に選定された代表者から構成されるAssebmlyを急ぎ設置し、民主的な意思決定体制を構築すべき。そのうえで、現在の緊縮財政規律を見直すべき。でないと教育やらなにやら欧州各国の将来的な成長につながる建設的な投資すらできない。
他、省略。
3.感想
いわゆる左翼よりの経済学者で、その主張は以前私が読んだスティグリッツクルーグマン他の先生方の主張と同じ方向性。基本的には、1980年代に一世を風靡した新自由主義的風潮と英国サッチャーや米国レーガン政権が推し進めた規制緩和(日本では90年の小泉政権)とGlobalisationが、経済不平等(勝ち組と負け組)を加速化させており、社会的歪みを生み出し増長させており、それを是正する必要あり、そのためにはCapital investment&gains含め勝ち組に対する各種課税と富の再分配、低所得者層の各種セーフティーネット強化&教育アクセス改善、さらにはユーロゾーンの緊縮財政の是正を主張している。
痛みを伴う気候変動対策には、より公平な社会構築が必要であるとの主張は全く同感。そもそも社会の一般層は日々の生活で精いっぱいで、そんなこと考えている余裕はない。っていうことが、いわゆるエリート層はわかっていなかったりする。
フランス語の英語訳を読んだわけだが、非常に読みやすい英語で書かれていて、ほんの数日で読み終わってしまった。トマ・ピケティ先生の世界観を感じられる本ではあるのでおすすめ。
最後に一言
なお本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。
あわせて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。