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【読書】経済格差の根元に迫る/「Capital」から

フランス人経済学者のThomas Piketty/トマ・ピケティ先生による一冊。発行当時は日本でですら話題になったらしい名著。豊富なデータを駆使し、経済学的観点から、経済格差の長期的な動体を分析、格差の度合いを左右する構造的要因を特定し、その是正方法を提示。

記事要約

  • 昨今、感情論や推測に基づく議論が多く散見されるが、しっかりとデータに基づいた議論をすべし。

  • 富や収入格差といわれるものは得てして政治の産物。

  • 格差是正/convergenceのため、国民の知識やスキル向上への投資等(人間資本投資)を実施すべし。




1.本の紹介

本のタイトルは「Capital in the Twenty-First Century」(2013年刊行)で、邦訳は、「21世紀の資本」でみすず書房から刊行。

著者はフランス人経済学者のThomas Piketty/トマ・ピケティ(1971年-)。パリのエリート大学パリ高等師範学校卒で、なんと22歳の若さで社会科学高等研究&ロンドン・スクール・エコノミクスから経済博士号を取得したツワモノ。専門は経済不平等分析。

Thomas Piketty/トマ・ピケティ

彼の著書の一つ「Time for Socialism - Dispatches from a world on fire, 2016-2021/来たれ、新たな社会主義 世界を読む2016-2021」の解説記事はこちらから。

2.本の概要

700頁以上を誇るこの本を要約することは私には不可なので、イントロ部分を中心に私なりに理解した著者のメッセージを整理。

格差がそこらかしこで叫ばれる昨今、感情論や推測に基づく議論も多く見受けられるが、著者としてはしっかりとデータに基づいた議論をしていきたいとのこと。そこで各種膨大なデータを集積かつ分析し、主要経済国における貧富の格差状況を数世紀という長期的な時間軸で分析したのが本書。

その結果わかったことは主に下記の点:

  • 富や収入格差といわれるものは得てして政治の産物である(例: 戦後数十年に渡って比較的平等かつ中流階級が興隆したのは、戦争そのもの及び戦後の政策、その結果としての経済成長)

  • 富の配分を巡っては、格差を是正するメカニズムもあれば格差を拡大するものもある

  • 格差是正/convergenceを促進するものとしては、国民の知識やスキル向上への投資等(人間資本投資)。。。それにより生産性が向上し、経済成長が加速

  • 格差拡大 /divergenceを促進するものは多数: 教育やスキルアップの機会喪失から経済成長鈍化とそれによるcapital returnの集中(成長鈍化すれば、既に富をもつものがさらに有利に)、給料格差、税制等。

そして著者は、最近の経済学者は数学をこねくりまわして壮大な理論を打ち立てたりしているがそれはchildishだ、しっかりと過去のデータに基づきつつ分析をすべきと提唱している。

イントロのあと、各論にはいっていくわけだが、capital/資本や、income、成長率やリターン等、経済学の基礎的概念やその法則などが分かりやすく説明されている。その後、各国における動態分析に突入するがここでは割愛。記憶に残っているのは、格差格差と叫んでいるが、戦争以前は実は格差はハンパなかったことがデータからわかることや、昨今の風潮であるメリトクラティックな論調に警鐘をならしていること。

3.感想

いわゆる左翼よりの経済学者で、その主張は以前私が読んだスティグリッツクルーグマン他の先生方の主張と同じ方向性。基本的には、1980年代に一世を風靡した新自由主義的風潮と英国サッチャーや米国レーガン政権が推し進めた規制緩和(日本では90年の小泉政権)とGlobalisationが、経済不平等(勝ち組と負け組)を加速化させており、社会的歪みを生み出し増長させており、それを是正する必要あり、そのためにはCapital investment&gains含め勝ち組に対する各種課税と富の再分配、低所得者層の各種セーフティーネット強化&教育アクセス改善、さらにはユーロゾーンの緊縮財政の是正を主張している。

痛みを伴う気候変動対策には、より公平な社会構築が必要であるとの主張は全く同感。そもそも社会の一般層は日々の生活で精いっぱいで、そんなこと考えている余裕はない。っていうことが、いわゆるエリート層はわかっていなかったりする。

フランス語の英語訳を読んだわけだが、非常に読みやすい英語で書かれていて、ほんの数日で読み終わってしまった。トマ・ピケティ先生の世界観を感じられる本ではあるのでおすすめ。

最後に一言

なお本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


あわせて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。

https://note.com/eu_consultancy/m/mf8b81689509d


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