中・東ヨーロッパと権威主義
欧州各地で勢力を強める権威主義的ポピュリスト政党。特に中東欧では、露骨に民主主義の象徴でもある言論の自由に規制をかける動きすらある。それでも民衆から支持を得るのはなぜか?これら政党の主張や言説を分析したジョルト・エニェディ教授による論文。
記事要約
ハンガリーのオルバーン首相をはじめ、権威主義的ポピュリストの台頭が著しい中央および東ヨーロッパ。
大衆からの支持を拡大するポピュリストらの言説を分析し、勢力拡大を可能とした5つの特徴を指摘。
戦前ドイツ/イタリアもそうだったが、国家経済が破綻し始め、既存の政治システムで対応できなくなると、権威主義的strong leaderを求める声が強くなる。中東欧経済はまだそこまで破綻していない気がはするが。。。
1.著者情報
中央ヨーロッパ大学(於:オーストリア)にて政治学教授を務めるジョルト・エニェディ氏(ハンガリー人、1967-)の論文。
Wikiによると、1992 年にアムステルダム大学で比較社会科学の修士号を取得。1993年にエトヴェシュ・ロラーンド大学で歴史と社会学の学位を取得。1994年に中央ヨーロッパ大学で政治学の修士号を取得し、1998年に博士号を取得。
2.論文概要
ハンガリーのオルバーン首相をはじめ、権威主義的ポピュリストの台頭がはなはだしい中央および東ヨーロッパ。ベルリンの壁崩壊後も、自由民主主義という大きな潮流に対する少数派であり続けたが、2010年代に入り急激に勢力を拡大。それとともに、民主主義/Democracyに対する民衆の信頼が揺らぎだしている。
大衆からの支持を拡大するポピュリストらの言説を分析し、これらの情勢変化を可能とした5つの特徴をあげている。
第一に、反西側諸国の言説。旧共産圏の崩壊と経済停滞(マーシャルプラン的な先進国支援もなし)という歴史的背景から生まれたある種の被害者意識/historical sense of victimhoodが中東欧諸国の人々の意識にあり、それが西側諸国の停滞&衰退とともに、中東欧としての自信/Self confidenceに代わり、自由主義を極限まで推し進めた西側諸国に対する哀れみ/pityと憤り/resentmentに代わっていった。結果、中東欧ポピュリスト達はその言説の中で、西側の自由主義的言説とは真逆の、愛国精神、国家権力の尊重、大家族主義など伝統的な価値観の重要性を主張。
第二に、反移民主義的言説。元々中東欧諸国同士の間は、国家主義/nationalismを基調とする隣人嫌悪の感情にとらわれていたが、それが多文化主義/multiculturalismや移民に対する嫌悪にすり替わっていた。そもそも国家社会保障の恩恵を受ける移民(例:ロマ人)に対し、社会的な不満は高く、搾取や横取りと見る人も大勢いる中、中東欧地域全体として反移民感情をあおるような言説を、反西側諸国的言説に織り交ぜて展開。
第三に、反表現の自由的言説。NGOやメディアらがいろいろ言っているが、本来は選挙制度で選ばれた人間と国家こそがモノを言うことを許されるべき。そもそもNGOや大学、メディアや知識人達の言うことは左翼的自由主義のバイアスがかかっており、民主主義に反する。といった主張である。
第四にキリスト教アイデンティティーの強調。堕胎、ゲイ、多文化主義、他宗教の移民、ジェンダーなどの問題について、キリスト教原理主義的な論調を展開(教皇自身が軟化しているのに対し)。
第五に父権主義的ポピュリズム言説。陰謀論など反エリート主義論調に加え、反個人主義的な特徴も見受けられる。テロリズムや貧困、多文化主義による脅威や国際競争に対してソリューションを提供するのは、強いリーダー/Strong manに率いられた国家でありそれが、国家としての道義的義務/Moral obligationでもあると主張。
著者はこれらの言説的特徴が、中東欧で勢力を拡大する権威主義的ポピュリスト達のイデオロギーを形成、西側諸国的な自由民主主義的イデオロギーにとって代わろうとしているとしている(もうとってかわった?)。
3.コメント
一言で言うと、権威主義的な力強いリーダーの台頭により、ベルリンの壁崩壊後、現在に至るまで中東欧の民衆の中に鬱積した反西側感情が解放されたということか。
キリスト教原理主義、愛国主義、父権主義、移民排斥といった、過激なマイノリティ・イデオロギーを、無論既存政党が吸い上げてガス抜きできるわけでもなく、そこにオルバンのようなStrong manが現れた。もう戦前ドイツやイタリアでも見られた光景。
だが、当時に比べれば、狂ったようなインフレや失業もない、中産階級もまだ持ちこたえている点。そこが崩れ始めると、一気に過激な大衆/mobが形成され、あれよあれよという間に国家権力を簒奪されてしまう。
※戦前ドイツの権威主義台頭と民主主義崩壊についてはこちら
私は中東欧には詳しくないので、今後どうなっていくのか、欧州議会戦と一緒に要ウォッチ。
※欧州選挙概況はこちら
併せて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。
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