那奈/ふね
怪談ツイキャス「禍話(まがばなし)」で放送された怖いお話を、色々な方が文章に“リライト”しています。それを独自の基準により勝手にまとめたものです。
よく私が話すじゃないですか、嘘が本当になっちゃうよって。 あまり尤もらしく作るとね。 ーーーーーーーーーーー 普通の一軒家の、何のいわれもないハウススタジオがあった。普段はAVの撮影等で使われているらしい。そこで雑誌の企画だったか、深夜番組だったかで、ローカルアイドルの撮影があった。アイドルとはいっても活動内容や規模からして、相当マイナーな部類の、だ。 そのハウススタジオを企画上、勝手に心霊スポットだということにして、アイドルの撮影をするという内容だった。 その家に住
山本浩一さんは生まれも育ちも関東で、今年で40歳になる。某企業で事務の仕事をしていて、最近になって子供が小学校を卒業した。山本さんは子煩悩で、出世には興味がない。それより子供の側にいたいと周囲に明言している。しかし実は、 「これには、はっきりとした理由があるんですよ」 そう言ってこんな話をしてくれた。 山本さんは小学生の頃、自然があふれる田舎で暮らしていた。夏には森に入って虫を捕って仲間たちと川遊びをする。太陽の日差し、そして文字通り雨のように降り注ぐ蝉時雨。山本さ
Aさんは今年で二十三歳になる。北九州で自営業をしていて、真面目で義理堅い性格だ。彼は一言、 「関わっている人間の名前は一つも出せません。それでも構いませんよね」 そう断った上で、中学生のころの思い出を聞かせてくれた。 中学生のとき、Aさんのクラスではいじめがあった。ターゲットになったBくんは、いわゆるキラキラネームの男の子だった。 「いじめが始まったのはBくんの名前のせいでした。実際、あんなことになった今でも馬鹿みたいな名前だったと思いますよ。実名は出せないんですけど
知人から聞いた話である。 彼が小学一年生の頃、学校の飼育小屋で孔雀を飼っていた。それ自体は当時ならば珍しくもないけれど、その孔雀というのが頭から足の先まで雪のように真っ白で、それだけならばいいのだが、広げた羽に浮いた模様のびっしりと並んだその全てが、人間の目そっくりだったという。そして、その模様は時折、本物の目のようにぱちぱちと瞬きをして、知らない男の人の声で喋っていた――というのだから、さすがに現実の出来事とは思われない。ところが彼が言うには、当時の同級生たちも孔雀の
道楽息子はよくない、という話だ。 お金持ちの三男坊で、家は継がなくてもいいがお金だけはある、だが少し歪んでいる、そんな友人Aがいた。違約金をいくらでも支払えるがゆえだろうか、彼はあえて事故物件に住むのが趣味だった。今の物件の大家さんも、 「ああ、ここは人死んでますよ」 と軽いノリでそこを紹介してくれたそうだ。ボロボロのアパートの、二階の角部屋だった。 「どんな感じで死んだかはちょっと言えないんだけど、ここ、告知義務ないから。間にインド人挟んだからね。ビザ取る取らな
少年時代の記憶だという。 Aさんの家では、夏の終わりになると桃や林檎や西瓜など、冷やした果物を器や皿に盛って、「水菓子」という紙を下げて、連日親しい近所の人々に振る舞っていた。 「まぁ、家建てたじいちゃんの代からのしきたりというか、暑気払いの行事だったんだよね」 そのイベントにおいて、奇妙な工程があった。 「別にね、器が一個分けてあって、それをお寺さんに持っていって、って渡されるんだよね」 皮の剥かれた桃がいっぱいに盛られたガラスの器
しづが家のいぶせき蚊遣の煙むすぼゝれて、あやしきかたちをなせり。まことに羅の風にやぶれやすきがごとくなるすがたなれば、烟々羅とは名づけたらん。――『今昔百鬼拾遺』 怖かった話ですか、そうですね、子供の頃に聞いて、思い出すと今でも気味の悪くなるような話ならありますよ。 Aさんはそう言って、今は亡きひいおばあさんから聞いたという話をしてくれた。 Aさんが小学校の頃、たまたま他の家族が出払っていたとかで、当時まだ矍鑠としていたひいおばあさんと二人きりでテレビを見る機会が
知り合いのOLさんから聞いた話だ。 彼女曰く、住まいのマンションには特にそれまで何も変なことはなかったという。管理人付きで玄関はオートロック、住民同士も関係は良好、防犯的にも人間関係的にも安心安全なマンションだ。 梅雨明けが遅く、しとしとと雨が降り続く季節のことだった。 彼女はお風呂ではきちんと湯船に浸かるタイプだった。その日も仕事から帰るとお風呂を沸かし、入浴剤を入れて、いつものように湯船に浸かった。長風呂派なので、さてこれからゆっくり疲れを取るか、と湯船で伸びをした
Aさんが高校生の頃の話だ。 Aさんと彼女はそれぞれ別の塾に通っていたのだが、いつも彼女のほうが終わるのが遅く、Aさんは近くの公園で待つことにしていた。 だが、この出来事があってから、いくら仲間に冷やかされようと、公園ではなく塾の真ん前で彼女を待つようになったという。 いつからか、Aさんが公園にいるときには、女性二人と居合わせるようになった。だいたいいつも二つほど隣りのベンチにその人たちが腰掛けていた。 二人とも、しばらくお風呂に入っていないと思われる質感の、もの
Aさんが四歳の頃というから、戦後すぐの話である。大きな農家であったという彼女の家では、犬と小鳥を飼っていた。 どちらも父方のおじいさんが連れ帰ったり買ってきたりしたもので、おじいさんが亡くなってからは、動物嫌いの父親から庇うようにしてAさんが世話をしていた。 その犬や小鳥の顔が、時に応じて変わったのだという。 人間のような表情を持っていて、しかもAさん曰く、極々簡単なものであるが"喋った"。それは声として聞こえるのではなく、「はらがすいた」とか「ありがとう」など
とあるローカルアイドルグループに所属していた女性から聞いた話だ。 ありがたいことに、毎週決まって劇場での出番と、ケーブルテレビの番組の仕事があった。その仕事の後にはスタッフが毎回簡単な打ち上げをしてくれるのだが、グループが大所帯なので、飲み物用の紙コップには各自名前を書いて使うことになっていた。よくお世話になる、とある制作会社が関わった仕事の後では、いつも同じADさんがコップを持ってきてくれる。 普段ならそんなことはしないのだが、小指に何か当たる感触があったので、打
「ぬりかべ」といえば、ゲゲゲの鬼太郎の仲間として有名な妖怪である。元々は民族学者の柳田國男によって福岡県遠賀郡で聞き取りされた怪異で、行く手が壁となって進めなくなる現象を指し、落ち着いて壁の下の方を払うと消えるなどと伝わっている。 妖怪好きには近年、絵巻物に同名の図が見つかって議論になったことも記憶に新しいかもしれない。何にせよ、全国的な人気を得ているぬりかべは独立したキャラクターとなっているが、大本の現象 ――道を歩いていて急に先に進めなくなるという怪奇現象―― につ
今ではかなりご高齢の、ある人の子供の頃の思い出である。 彼女の家には喋るお面がいたという。玩具などではない、それ自体はただの木彫りの古めかしいお面。見た目としては能などで使われる翁の面をもっと誇張した笑い顔にさせたような造形だったらしい。 それが言葉を発するのである。 先程、喋るお面が「あった」ではなく「いた」と書いたのは、彼女によるとそのお面 ―― 彼女は“そいつ”と呼んだ ―― が、まるで家の一員のように振る舞っていたからだ。父、母、祖父母、彼女、そして“そ
携帯サイトで昔、ある怪談を読んだことがある。 詳細は覚えていないのだが、雨が降っている日に廃ビルへ肝試しに行くと鉄錆の臭いがしてくる。そこに「カガワレ」がいて酷い目に遭う。そのビルで鉄錆の臭いがすると「カガワレ」が出てくる合図だったのです、という話だ。しかし、肝心の「カガワレ」についての描写はなかったためか、あまり怖いという印象はない怪談だった。 だが、その町名とビル名から、どうやらその話の舞台は自分が小学校の頃に住んでいた地元のようだ、という直感があった。妙に気になって、
自己責任(読んだら来る)系です。苦手な方は読まないでください。 方角的によくないところに建物を建てる、ということがある。その建物は空っぽだ。 とある山の中、セミナーハウスの裏手には神社がある。神社といっても廃神社だ。その廃神社のさらに鬼門の方角に、変な建物が建っている。入り口には食堂と書いてある。食堂と謳っておきながら、外から覗いてみると、食堂のテイを成していない。厨房もないし、部屋は畳敷きだ。何かの道場にも見える。 周辺に住む人は、「そういうもんだからやめときな」と言
変なバイトというのは色々あるものだ。 急にバイト先のコンビニが潰れてしまい、手持ち無沙汰だった。バイクの頭金も払わないといけないし、手っ取り早くおいしい仕事が欲しかった。ちょうどそんなタイミングで人づてに、よく変なバイトを斡旋してくれるという女性を紹介してもらった。 早速その女性の電話番号を教えてもらったので、電話をかける。話の流れで自分の住まいを伝えると、 『あぁ、その近くでいいのあるよ』 と、河川敷にポツンと建っている倉庫を見張るというバイトを紹介された。倉庫の前