禍話「髪コップ」
とあるローカルアイドルグループに所属していた女性から聞いた話だ。
ありがたいことに、毎週決まって劇場での出番と、ケーブルテレビの番組の仕事があった。その仕事の後にはスタッフが毎回簡単な打ち上げをしてくれるのだが、グループが大所帯なので、飲み物用の紙コップには各自名前を書いて使うことになっていた。よくお世話になる、とある制作会社が関わった仕事の後では、いつも同じADさんがコップを持ってきてくれる。
普段ならそんなことはしないのだが、小指に何か当たる感触があったので、打ち上げ前にちらっとコップの裏側を覗いてみた。
セロハンテープで黒い糸が留めてあり、少し垂れていた。
驚いて、思わず声を上げる。
「なんだこれ?」
近くにいたディレクターが、「波平の頭?」(地方局のギャグの限界である)などと言いながら、笑ってテープごとぺりっと剥がして捨てた。
お疲れ様会が終わり、解散となったとき、
「ねぇ、ちょっとちょっと」
女性ADに呼び止められた。いつも自分を担当してくれている人だ。
丁度皆が帰り始めたタイミングだったので、たまたまその場は二人だけになった。
ADさんは怒っているようだった。
「私のこと嫌いになったの?」
「え?いやいやいや…どうしてですか」
「あんなことしちゃったらさ、話ができないじゃない」
ADさんは自分のバッグから、ADさん本人の名前が書かれた紙コップを取り出した。さっき自分が見たものと同じように、底にテープで糸が貼ってある。
「これで!会話が!できないじゃない!」
ADさんが手にしているそれは糸電話のつもりらしい。
「糸が切れちゃったからぁ!毎晩毎晩聞いてもらってる愚痴とかも言えないじゃない!!」
話の途中ではあったが、踵を返して走り出した。叫び声が遠くなるのを背中で聞きながら全力で逃げ、そのまま帰りのバスで乗客に白い目で見られながら、所属事務所に「あのADさん替えてください…ちょっとおかしいです」と電話を入れたそうだ。
おわり
※このお話は、怪談ツイキャス「禍話(まがばなし)」から、一部を編集して文章化したものです。
真・禍話/激闘編 第8夜 2017年8月11日
(00:15:00-)