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禍話「鬼門食堂」

自己責任(読んだら来る)系です。苦手な方は読まないでください。

方角的によくないところに建物を建てる、ということがある。その建物は空っぽだ。

とある山の中、セミナーハウスの裏手には神社がある。神社といっても廃神社だ。その廃神社のさらに鬼門の方角に、変な建物が建っている。入り口には食堂と書いてある。食堂と謳っておきながら、外から覗いてみると、食堂のテイを成していない。厨房もないし、部屋は畳敷きだ。何かの道場にも見える。

周辺に住む人は、「そういうもんだからやめときな」と言うばかりで、詳しくは話そうとしなかった。

昔からその地域に住む人たちはその食堂を良くないものだと考え、近づかなかったのだが、「そんなこと関係ねえぜ!フルスロットルで走りぬくぜ!」といった風情の若者がその食堂の前でたむろするようになった。警察も山の中までは目が届かないようで、注意されることもなかった。

――――――

ある日、いつものように仲間と花火をしながら騒いでいると、その食堂から人が出てきて、何か言った。しかしそれが妙だった。建物についているドアはドアノブ付きの普通のもののはずなのに、なぜかそこが観音開きで開き、そこから白い服の女性が出てきて「〇〇〇〇だよ!」と言った。


そこから記憶が途切れている。


気づくと救急車の中で手当てされていた。
「大丈夫だからね、もう血は止まったからね」

…どういうことだ?

よくよく状況を確認すると、自分はひとり山道をバイクで走っていて転倒した、というのだ。
「…他の三人は?」
尋ねると、三人とも行方不明だという。バイクは置きっぱなしのままで、途中まで山の中を無理やり通ったような跡が三本あったのだが、その先からどこに行ったのかさっぱり分からないという。

そういえば、あの女性に何か難しい熟語のようなことを言われたとき、意味は理解できなかったのだが、その雰囲気からなんとなく怒っているのかなと感じたので、
「ほんと、すんませんっした!」
と自分だけが即座に土下座して謝った。


「訳わかんないけど、それで俺だけ助かったのかな…」


―――――――


「だから絶対に行くな、って言われてる場所がこのへんにあるんだな~」


飲み会に遅れてきたBが、盛り上がっている席で突然そんな話を始めたのだった。
「あ、あ…そう。知らなかったなぁ。そういうヤンチャな奴との付き合いも、心霊とかの興味もなかったからさ」
「あー…そうだよな」
「まぁ、せっかくだから飲めよ」
Bは普段お酒が弱くて飲めないはずなのに、その日はぐいぐいと強い酒をあおるのだった。
「大丈夫か?どうした?」
「俺の彼女の兄貴が結構悪いことしててさ、その事故った人と知り合いなんだよ。行方不明の三人もまだ見つかってなくて、そこは本当にヤバイって言われてて、地元のヤンキーとかも誰も行ってないんだ。それでなんか、彼女がいっつも兄貴に従ってるのが逆に馬鹿馬鹿しいと思って、場所聞いて今日の昼そこ行ってきたんだ」

「…何でそんなところ行くの?」

「怖いから昼間に行ったんだわ。道は封鎖されてなくて、人が通っていないだけでそこ行けるんだよ。遠くからみたら使われていない食堂なのかな、って思うような建物だったんだよ。近づくとさ、畳敷きだし厨房もないし食堂なんかじゃないって分かるんだけどさ。で、外だけぐるっと周って写真を撮ったんだ」
と、また酒をあおる。
「お前、そんな飲むなよ、弱いんだろ?やめとけよ」
Bは、食べ物も胃に入れず酒だけガンガン飲む、良くない飲み方をしている。
「これがその時の写真なんだけど、見てくれるか」
Bがスマホを取り出すので、
「なになに?顔とか写ったんじゃないのー?見るよ~!」
と、皆で覗き込む。

少し酔いが醒めてしまった。

写真には、女性の下半身が映っている。写っている向きから推測するに、和室で座布団か何かに座っている女性と、撮影者のBが向かい合っているようだ。女性は白い衣服を着ていて、それは巫女さんが着る装束のように見える。隠し撮りするように下から撮ったアングルだ。色々とおかしい。
「えっ。外をぐるっと回って写真撮ったって言ってたよな?これ、建物の中、入ったの?」
「入ってない」
とBは言い、また度のきつい酒をゴクリと飲む。
「そろそろ酒やめとけって。お前、フォルダの中全部この写真じゃん」
写真フォルダには、今日の日付で撮影時刻を二、三分ずつ開けて、十枚ほど同じアングルの写真があった。
「入ったんだろ?誰かの仕込み有りで、建物の中入ったんだろ?」
「入ってないよ俺は」
とBは酒臭い息を吐きながら言う。
「後で皆に見せようと思ったらさ、フォルダにこんな、写真、がさ…」


ふと、空気を読まないタイプの友人が言う。
「お前めっちゃ距離近いけどさ。この女の人か何かと…」


それを聞くと、
「うん…うん!」
と明らかにBの様子が変わり、頷きはじめる。
「あのさ、俺さ、今さ、その女の人の唇の下あたりにさ、ほくろがあったの、思い、出しちゃった」
顔を紅潮させ、興奮した様子で言葉を発している。
「俺、やば、やばい…よね」
と言いながら、悪酔いしてしまったのだろうBは震えだしてしまった。友人たちに、トイレ行ってこい、と促された。


うぇー、うぇっ、とBのえずく声がトイレから響く。

友人たちは不思議そうにBのスマホを覗き込む。
「これやらせとかでは撮れないでしょ。このフォルダ全部だもんなぁ…」

その時、Bのスマホに着信があり、突然振動したため、全員がぎょっとした。

画面には“実家”と表示されている。実家から電話来てるよ、とトイレに籠もっているBに呼びかけるが、まだまだBの吐き気は治まりそうにない。あとで掛け直させるか、と見ていると、その着信は諦めが悪く、十数コールを過ぎてもなかなか鳴り止まない。仕方がないので、Bの親御さんと顔見知りの友人が替わりに出ることにした。


「…はい。はい。…え?は?何言ってるんですか?Bくんは今日、飲み会でここにいますから。え?本当ですか?いや、Bくんここにいます。だって実家とここって何キロも離れて…ちょっとやめてください、違います、それは違いますって!」


友人は動揺した様子で電話を自分から切ってしまった。電話はBの母親からだった。

突然申し訳ないのだが、今、うちの二階のBの部屋から、あの子と女性がものすごく楽しそうに話している声が聞こえるのだけれど、私も主人もあの子の兄も、怖くて誰も見に行けない。まさかと思うがBはこちらには帰ってきていないよね、という確認の電話だった。

「俺、怖くて切っちゃったよ…」


しばらくして、またBの実家から着信があった。恐る恐る、先ほど対応した友人が出る。

「…はい。だからいないですって!…は?あぁ、そうですか、そうですか!」

今度はBの兄が階段に上り、Bの部屋に近付いて会話を聞いてみたらしい。二人は楽しそうに話しているのだが、内容をよくよく聞いてみると、どうもBは女性に責められていて、ハイな状態で謝っているようだ。あの子は何か悪いことしたんじゃないでしょうか、という内容だった。

友人は余計に怖くなり、知りません、と言って電話を切った。



「…あいつずっと吐いてるみたいだけど呼んでみようか」
と一人が言い、トイレに皆で呼びに行くことした。
「おいB、開けるぞ?」
ドアを開ける。明かりがついていない。Bは真っ暗なトイレで吐いていたらしい。
「明かりつけるぞ!」
パチン、と電気のスイッチを入れた。


Bを介抱している人物がいた。
全然知らない、白い服を着た女性がBの背中に手を添えていた。


皆で一斉にトイレから逃げたのだが、タイミング悪く、足が痺れていた友人がひとり逃げ遅れてしまった。その友人は、仕方がないのでゆっくり這って逃げながらその女を見たという。そして女が言っていることが少し聞き取れた、という。


「あれは介抱してるんじゃないよ、Bの頭か襟を掴んで、持ち上げてたんだよ!


『ほくろの上にぃー、唇があってぇー?唇のうえが鼻でぇー?』


って下から順番に、自分の顔の特徴を言ってるんだよ!」


トイレから離れて、どうしようか、と考えている時、その場の皆が同時に両肩をバン!と叩かれ、気を失ってしまった。そしていつのまにか、その中の一人の彼女の家の前にいておいおい泣いていた。さぞ友人の彼女は驚いただろう。

Bはというと、その後携帯も繋がらず、家ももぬけの殻で、どこへ行ったか分からない。




「鬼門食堂」を聴いた夜の話

この話を聴いて、怖いなあ、と思って。

神社の巫女さんって大体服が白いじゃん。白い女でいけるな、これで全部色が揃った!なんて思ってたんですよ。*


夢の中で、喉が渇いて起きたんですよ。冷たい水を飲もうとして、冷蔵庫を開けようとしたんですよ。で、うちは冷蔵庫が下の扉なので開けようと思ってるんだけど、なぜか冷凍庫のほう、上の扉を開けてるんですよ。
ふと床を見ると自分の両足の間に顔があって、その顔を見ると女性なんだけど、
「〇〇だよ!」
って警告するみたいなニュアンスで俺に向かって、ちょっと覚えてないんですけど何かを言うんですね。それで、その人がフェレットみたいに、しゅしゅしゅーって俺の体を上ってきて、お臍のあたりにぴたっと顔がくっついたんですね。

怖い夢を見たなぁ、と思いながらそこで起きて部屋の中扉のほうを見ると、扉にはめ込んである曇りガラスが白く光って見えたので、あー玄関側の明かりが付いてるんだな、とぼんやり思いながら、怖かったな、って寝直したんですよ。

目をつぶった瞬間、いきなりすぐ夢の中なんですよ。それで、また夢の中で冷たい水を飲もうと思って、今度はちゃんと冷蔵庫を開けてます。で、確か左手で冷蔵庫を開けたんですけど、その左腕に結構な量の髪の毛が巻き付いていて、え?と思うと、それが何かに巻き取られるみたいに引っ張られて、俺の腕が護身術とかの技を掛けられるみたいに、外側に捩じられるんですよね。痛い痛い痛い!って言って。何何?って。で、さっきの女の人が、立てるスペースもないはずの所に立ってて、俺の腕に巻き付いてる髪の毛を持ってぎゅーって引っ張ってるんですよね。
「〇〇だよ!」
って言いながら。

また起きて、うわー、仕事疲れだよって思って。それで、部屋の中扉を見ると今度はガラスが真っ黒なんですよね。

ってことは、さっき見た中扉が光って見えたのって、光ってたんじゃなくて向こう側に白い服を着た誰かがいたってことなのかな、ってゾッとしたんですよね。

おわり


*禍話では赤い女や黒い女が既出。



※このお話は、怪談ツイキャス「禍話(まがばなし)」から、一部を編集して文章化したものです。

ザ・禍話 第10夜 2020年5月16日放送

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/615317781

「鬼門食堂」を聴いた夜の話(0:38:22ごろから)

鬼門食堂(0:44:30ごろから)