【加熱しても死なない細菌】芽胞とは
カレーを常温放置してると食中毒になるという話は聞いたことがあるかもしれません。
では、どうして再度加熱しているのに食中毒になるのでしょうか?加熱しても細菌は死なないのでしょうか?
その謎は実は芽胞という存在にあるんです。今回はそんな芽胞について紹介したいと思います。
芽胞とは
通常、細菌は生物なので100℃近い高温にさらせば死ぬことが多いです。そのため、生では食べず食品は加熱して食べるというのが食中毒を防ぐ1つの方法でもありますよね。細菌がすでに毒素を出してしまっていると加熱では対処できないこともありますが、たいてい日付が経ったものは冷蔵庫から取り出してしっかり加熱して食べます。
一方で、カレーの食中毒の原因になるウェルシュ菌はどうでしょうか?この菌は再加熱しても死なないのでしょうか?それとも毒素をすでに排出しているのでしょうか?
一部の菌は自らの生息環境が過酷になるとき芽胞という状態を作り出します。ウェルシュ菌も同様に芽胞を作る細菌です。
芽胞は外側に外皮と内側にはDNAや酵素などが半結晶状態になって入った構造体です。生体活動をしているというよりはどちらかというと休眠しているような状態ですね。
この芽胞という状態になると熱などに高い耐久性を持ち、再び繁殖可能な環境になると発芽して増殖します。
食品がウェルシュ菌の芽胞に感染していると加熱調理しても芽胞を破壊することはできません。そのわかりやすい例がカレーですね。カレーを冷蔵庫などに入れずに常温で放置していると、温度がゆっくりと下がっていきます。
芽胞は50℃ぐらいになると発芽し、45℃ぐらいで増殖が活発になります。そして翌朝気づいたときには放置されたカレーには大量のウェルシュ菌が生息している地獄絵図になっているわけですね…
そのため、カレーを作ったら小分けにして余熱を取って冷蔵or冷凍しなければならないのです。ウェルシュ菌が繁殖可能な温度域をなるべく短くして保存しなければなりません。
ここではカレーを例に挙げましたが、芽胞の存在は医療においては常に考慮しなければならない存在です。耐久性が高すぎて、軽い処理では無効化することができません。
芽胞の対策
芽胞をやっつけるための方法として最も有名なものがオートクレーブ処理です。理系の学生や食品・医療系のお仕事をされている方なら聞いたことがあるかもしれませんが、高温高圧をかけて細胞を破壊します。
また芽胞は消毒薬にも耐久性を持つため、次亜塩素酸ナトリウムや塩化ベンザルコニウム、アルコール類などで処理をします。塩化ベンザルコニウムなんかは医療現場で使用される清浄面なんかに使用される薬剤ですね。
とはいえ、食品に対しては必ずしも高温高圧をかけられなかったり、ましてや薬剤をかけるなんてことはできません。
そこで最近では一度芽胞をあえて発芽させてから、耐久性を落として低温加熱で細菌を殺すという低温殺菌方法なんかも開発されています。
こちらの記事に取り上げられているように卵なんかは高温を書けてしまえば、ゆで卵or目玉焼きになってしまうので、低温殺菌技術というのは重要ですね。
最後に
医療系の仕事をしていると、キーワードレベルで面白い知識を知ることがあります。今回紹介した芽胞なんかもその一つです。
細菌の恐ろしさを知るとともに生物が作り出すすごい能力というのは科学的に非常に面白いと思います。
個人的には医療・健康の立場から芽胞を研究するだけでなく、生物に学ぶ科学としてバイオミメティックな人類に価値ある新しい発見なんかもあるんじゃないかな~と想像しますね。
参考
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/4346.pdf