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【読書感想文】ストーリーとしての競争戦略

以前、研究も仕事もストーリーが大事だと思うという記事を書きましたが、ストーリーの重要性が光るのは経営についても同じようです。

今回は経営にストーリーという考え方を持ち込んだ楠木先生の「ストーリーとしての競争戦略」を読んだ感想をもとにいろいろ考えてみたいと思います。

経営に関しては素人ですが将来事業やってみたいなーという想いもあるので、これを機にちょっと学んでみようと思った感じです。

概略

500ページ越えという鈍器のように分厚いことで有名な書籍ですが、その中身はかなり骨太に思えます。著者が学者というのもあり、少々長いですが素人視点ではしっかりと論理が展開されているように感じました。(経営学視点ではどうなんでしょう。ちょっと気になりますね。)

この本ではいくつかのキーワードが出てきます。全てを網羅的に紹介するのは難しいというか、それなら本を読んでくださいとなるので、ざっくりと大事だなと思ったところを紹介していきますね。

キーワード

  • OCとSP

  • ストーリー

  • コンセプト

  • キラーパス

OCとSP

なんのことやらさっぱりわからない英語ですが、簡単に言えば、OCは組織能力、SPはポジショニングです。要は、組織としての強さとその事業が置かれているポジション、この両方が必要と言っています。

これまで事業に関して言われてきたのがポジショニングです。他の企業がやってないことをあえてやることで、自分たちの事業の優位性を出していくわけですね。ただ、著者から言わせるとこれだけではダメだそうです。

ポジショニングはあくまで事業の位置づけですが、同じ事業をする企業が現れたら戦いになります。そこで重視しなければならないのがOC(組織能力)です。

ここでの組織能力というのは、まさにその名の通り組織の持つ能力ですが、それは他社から真似できないようなものでなくてはなりません。つまり大きな設備や工場を持っていることではなくて、組織文化や慣習、仕事の進め方といったもう少しソフトな能力が求められます。

このよう組織能力は他社に真似されにくい以前に、気づかれにくいという特徴もあります。そして、競合企業と組織能力で差をつけれれれば業界で生き残っていくことができるわけです。

動画としてのストーリー

本書では冒頭からストーリーの重要性が語られます。「優れた戦略には面白ストーリーがある」というように、いかに面白いストーリーを描けるかが重要になってきます。そしてストーリーについて釘が刺されてるのは、それはある一瞬を切り取ったときの話ではない、ということです。

何かバズる企画を実施すると一気に有名になりますが、その一瞬だけの話です。そうではなくて、事業が始まってから大きくなるまでの流れを動画として追った時に面白くなるストーリーを用意できるかが勝負になってきます。

経営に落とし込めば、短中期の活動成果ではなく、ストーリーとして面白いと言われる経営戦略を取るべきということですね。もちろん、過去の事例を紹介して口で言うだけなら簡単です。それは本書でも散々述べられています。

そして、1つ1つの活動はストーリーのエンディングに向けてつながってなければなりません。手当たり次第、利益を求めた活動を行うのではなく、全ての活動が一貫してストーリー内にあり、それらの活動が密に接続することによっ目指すエンディングに到達するというシナリオです。

面白いストーリーを作るために必要なもの、それは次から登場するコンセプトとキラーパスです。

コンセプト

ストーリーを作るために必要な土台があります。それがコンセプトです。その事業では「誰に」、「何を」届けるのか?どのような価値を出すのかを定義する必要があります。それは表面的に見えてくるものとは違います。

ブックオフを例にした場合、ただの中古品の売買業者ではなく、「ものを捨てたくない人が利用できるインフラ」というのがコンセプトとしてあります。重要なのは中古品の売買という表面的な事実ではなく、その事業が目指すコンセプトです。それが一貫していいれば、必ずしも中古品売買が事業だったかはわかりません。ただ、ブックオフのストーリーとしては中古品売買が事業として表面に上がってきただけで、私たちはそれを認識してるだけとなります。

またコンセプトづくりは万人受けする者ではありません。時に人を排除したり、嫌われたりする必要もあります。

例として紹介されているスターバックスのコンセプトはご存じの通り「第三の場所」です。客がゆったりくつろげるスペースを展開するために、あわただしい顧客や回転率の高い商品を置くことはコンセプトに反します。はじめは、ビールを飲みたいという顧客も多かったそうですが、コンセプトに反するためいくら導入しやすくても実施しなかったといいます。

目先の利益を取るのではなく、全ての行動はコンセプトに基づいて一貫していなければなりません。

読んでいて、これは非常に面白い視点だと思いました。確かに誰もがつかみたくなる目先の利益ですが、事業を拡大していくためには、多くの人から愛されるためにはコンセプトを最優先にするというのは正しいように感じます。

不合理に見えるキラーパス

しっかりとしたコンセプトによって強く紐づけられたストーリーには一見不合理に思える戦略=キラーパスが必要と主張されています。

この不合理に思える戦略というの部分的に見たら不合理なだけであって、しっかりとストーリーの中に落とし込むと全体としては合理的に働くという性質を持ちます。

これだけ見るとなんのことやら?と思われるかもしれません。本書ではいくつか例が挙げられていますが、ここではその1つを示しましょう。

皆さんも知っているアマゾンはオンラインショッピングで有名な企業ですよね。しかし、そんなアマゾンも初め巨大な倉庫を自社で用意して管理するといった時は、周りのEコマース業界から不合理な行動に映ったと言われています。想像つくようにEコマース業界において倉庫や在庫を抱えるというのはリスクでしかありません。それをあえてやるというのはおかしな話です。

しかしアマゾンのストーリーの中ではこの行動は必要でした。オンラインショッピング全盛の時代に顧客がはものがいつ届くのか分からなくて不便という問題が発生します。多くの方が体験していると思いますが、アマゾンは自社で在庫を管理しているため、超速で届きますよね。結果として、アマゾンは世界最大の企業の1つとなりました。

全体のストーリーの中では合理的に働くが、部分で見ると不合理であるため、周りの競合は真似をしないorできないという状況に陥ります。それもそのはず、その戦略だけを見るとあまりにも馬鹿げた選択だからです。

ただ、これが逆に優位に働くといいます。
ストーリーとして機能するためにはこのキラーパスが絶対に必要になるわけです。それがなければストーリーは正常に動きませんからね。

ただ、これだけを見ると常識に反するため、周りの企業は真似ができないんです。

つまり、徹底的に設定されたコンセプトの中でストーリーを組み、誰もが真似したくないような一見非合理なキラーパスを用意することができれば、他の追随を許さない戦略を築くことができるというわけですね

最後に

今回はストーリーの重要性について考えてみました。

果たして、この本の理論が正しいのか?それとも後付けなだけなのか?それはもう少ししっかりと読み込み、研究する必要があるように思えます。しかし著者自身、その点は認知されており、本文中で強く何度も補足されているように思いました。

個人的に楠木先生の言動は、ただの学者の戯言にならないように気を付けているように(要は経営者をリスペクトしているように)感じますので、この本自体は非常に好感を持って読むことができました。

少なくとも事業戦略やマーケティング戦略から疎い私はまだまだ解像度が低いかもしれませんが、また時を置いて再度読み返してみたいと思いました。
興味がある方は是非一度読んでみてくださいね。

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