【読書感想文】才能の科学
特殊な技能や傑出した才能がある人を見るとうらやましいなと思うのは私だけでしょうか?
世界的芸術家やオリンピアン,将棋のプロ棋士やノーベル賞学者など,世界に大きな影響をもたらすすごい人たちを見ると凡人である私なんかは絶対に手の届かない存在だと思います.
ましてや,インターハイ出場や東大合格といった内容でも十分偉業に感じてしまいます.
それでは私のような凡人は,どう生まれ変わっても才能を手にすることはできないのでしょうか?
私たちは若くして自分の適性のある選択肢を数多の可能性から選択できなければ,平凡な人生を送るしかないのでしょうか?
そんな運任せな人生を受け入れなければならないと思っていましたが,必ずしもそうではないということが才能の科学で主張されています.
著者は失敗の科学や多様性の科学でおなじみのマシュー・サイド.
実はこの人,世界的に有名な卓球選手だったそうです.そんな著者の経験も踏まえながら,才能がどのように作られていくのかを知ることができます.
1万時間の法則
度々,聞くことがあるこの法則は才能の調査でも共通してみられるそうです.逆に言えば,才能があると追われている人たちも10000時間継続したことにより花開いたといえます.
あの天才モーツアルトでさえ6歳の時点で3500時間の練習をこなしており,最高傑作が生まれたのは20年の歳月を音楽に費やした後だったといいます.おそらくその時にはすでに数万時間投下していたといえるでしょう.
そのように考えると私たちが才能と呼んでいるものは訓練の賜物であり,単に継続することができたか否かで決まってしまうような気がします.
好きこそものの上手なれとは良くいったものですが,好きでなければ継続できないというのがその本質にあるのかもしれませんね.
それではなぜ長期間の訓練が他を圧倒する天才を生み出す原動力になるのでしょうか?いったい天才といわれている長期間訓練者の中で何が起きているのでしょうか.その一説がこの本では以下のように説明されています.
長い訓練の蓄積により頭の中にある種計算機のような特別なロジックが構築されます.テニスや卓球のプロプレイヤーは肉眼で反応するのが困難なほど早いスマッシュに対応できます.
これは常人にない反射神経を獲得したわけではなく,相手の体の前動作から頭の中でボールが来る位置を推測しているためできる芸当なようです.
実際に,高速の卓球ボールを打ち返せる(元卓球選手の)著者もゲームをテニスに変えたとたん対応するどころか飛んでくるボールに反応することすらできなかったといいます.
同時に複数のプレイヤーと対戦するチェスのプロは複数の盤面を記憶し,そのうえでそれぞれの状況に対して最適な一手を返します.
しかし,そんなプロも脈絡もなく配置された盤面の記憶はできないようです.脳内で構築されたロジックを逸脱するような状況下ではその特異な能力は発揮されないといいます.
いずれの神業も,当人が生まれ持って特殊な反射神経を持っていたり,常人離れした記憶力を持っていたりするわけではないのです.その種目にチューニングされた計算機が頭の中で構築された結果,凡人には真似できない芸当を披露できるようになるわけです.
このことからも,若いうちからの訓練を行うことの重要性を感じます.オリンピック選手もプロ棋士も小学生のころから続けており,高校生ぐらいの年齢で一気に注目を浴びています.
始めてから芽が出るまで約10年というのはあながち間違いではないのでしょう.実際に計算してみるとわかりますが,1日3時間365日を10年間訓練すると10950時間となります.
体調が悪い日などがあることを考慮しても,体力的にも私生活的にも時間が限定されるスポーツであれば確かに10年間の日々の訓練でようやく1万時間となるわけです.
一方で,この話には希望が持てる点もあります.私たちは生まれながらにして特殊な能力を持ち合わせているわけではないのです.もちろん,人それぞれ興味や適性はあるでしょうが,そうはいっても人間という同じ種族である限り,それほど大きな差はないといえます.
後天的にスーパースターになる可能性を誰もが秘めているといえるわけです.逆にどんなに適性があっても後天的に伸ばしてやらなければただの人として埋もれてしまうとも言えますね.
フィードバックループ
単に時間をかければいいのか?というとそういうわけでもありません.
車の運転を長年していても,毎日ランニングしていてもプロレベルまで上達しないのには理由があります.それは上達するという意思がなく,ただ惰性で行っていることはそれ以上の能力を身に着けることができません.
常に上達しようという意思を持って,快適な状態(コンフォートゾーン)から抜け出してようやく能力が向上していきます.そのためにも正しいフィードバックループを作り出す必要があるといいます.
有名なプロゴルファーが自分よりも実力があるはずもない人をコーチに雇うのには理由があります.自分では気づけない第三者からの視点をフィードバックしてもらうためです.これは良く知られた話ですが,フィードバックというのはそれほど重要なものであることがわかります.
この話を知るとますます機械学習(AI)との共通点を思い浮かべてしまいます.ある特殊な状況に限定したインプットデータを与え続け,それに対して適切なフィードバックを与えると,AIは最適なニューラルネットワークを構築します.
人間も同様に10年という長い歳月をかけて,ある競技に特化したインプットを与えた結果,特殊な能力が身につくということなのでしょう.
最後に
1万時間の法則が真実に近いものであれば,私たちは希望を持てます.平日毎日10時間働いていれば,年に240日程度働いても4~5年で1万時間に到達します.
もちろん紹介したフィードバックループなども考慮する必要はありますが,ある職種で5年間働ければそれなりに一人前プロとして食っていけるようになるのではないでしょうか?
世の中そんなに甘くないよと怒られそうですが,そのぐらいの気概を持って生きていればきっとポンコツな私でもしっかりとした社会人になれるのかなと思います.