【読書感想文】失敗の科学
なぜ飛行機事故はめったに起きないのに,医療過誤はよくニュースで聞くのか?
みなさんはその理由をご存知でしょうか?
その答えは,失敗から学んでいるか否かという違いです.
そんな,失敗の重要性について説明してる本がこちらの失敗の科学です.
人は失敗から学んでいるのか?
本書では,悲惨な医療過誤についてとても詳細が語られます.読んでいるだけで悲しくなってきますが,重要なことはそのときの状況を振り返ってミスに至ったさまざまな原因を分析しているのか?という点です.
医療の現場では,医療過誤について言及しないという慣例があるといいます.どんなに手を尽くしても患者さんは助かりませんでした.想定よりも複雑な状況になってしまいました.そういう理由でクローズしてしまうといいます.
もちろん,尽力したお医者さんを責めるのは良くないですが,実はその中にミスがあったかもしれないというヒューマンエラーの研究がされていないというのが,医療過誤がなくならない大きな理由だといいます.
それに対して,飛行機事故は状況が異なります.飛行機が墜落事故を起こした際には,第三者調査機関によって原因究明が行われます.つまり,そこに当事者である生き残った操縦者や航空企業は介入できないのです.
調査機関はブラックボックスを回収し,飛行機の故障原因などを調査し,事故当時何が起きたのかを解明します.そして航空企業は解析結果をもとに再発防止策を講じることが求められます.
飛行機事故も医療過誤も彼らに過失があれば責任を負うため,自ら間違えを認めることができません.飛行機事故に関しては当事者がなくなっているケースが多いですし,医療過誤に関しては認めるインセンティブがありません.もちろん良心の呵責で認めることはできるかもしれませんが,難しい手術の失敗を自分のミスと正しく判断できる人は少ないでしょう.また極限状態では認知が歪むことから,さらに難易度が高まります.
しかし,航空業界の場合は,そこに第三者機関が投入されるため,公平な議論が可能になるという違いがあります.第三者機関という社会が作った仕組みによって,失敗を分析し,仕事にフィードバックする構造が機能しているといえるでしょう.その結果,飛行機事故は一度起きれば大惨事になるものの発生確率で言えばめったに起きていないのです.
人はバイアスに溺れる
過去,血を抜いて再度体に戻すという瀉血(しゃけつ)という行為が体にいいといわれていました.現代医療では否定されていますが,当時は多くの人が信じてしまっていたのです.これは瀉血後に体調が良くなった人たちが,周りに吹聴したためです.
本当は自己免疫だったのに,たまたま瀉血後に治れば信じてしまうのもわかります.一方,瀉血は命に危険を及ぼすため死んでしまう患者も多かったといいます.しかし,その場合多くの人は瀉血で死んだわけではなく,持病が治らず死んだと判断されてしまうわけです.
さらに,死人に口なしというように,瀉血は効果がなかったという人がいません.その結果,生存者バイアスにより瀉血は体にいいものだという噂が独り歩きしてしまうのです.
現代医療ではランダム化比較試験と呼ばれる統計的手法が取られます.これは本当に大変な手法なんですが,効果の有無を統計的に示すことができるため重宝されています.
医薬品,医療機器などの業界では各社企業が大規模な予算を用意して,大量の試験データを取得しています.それぐらいしてランダム化比較試験をクリアしないと,病気に効果があると宣言することができないんです.
このようなバイアスや前提が怪しい話は世の中にありふれています.アメリカの非行少年少女を刑務所を見学させるプログラムは大成功したと報じられていますが,これも事実とは言えないといいます.
その後の非行少年少女を一定期間追跡した結果,更生したといわれていますが,さらに時間が進むと恐ろしい犯罪に手を染めたケースもあるそうです.またプログラムが成功したケースの子供たちはそもそも非行行動をしていなかったとか.
あくまで本書に書かれている内容なのでどこまでが真実なのかは信じる以外ありませんが,少なくとも世に報じられているハッピーエンドを鵜呑みにするのは危険だと感じます.人はさまざまな情報に踊らされますし,数多くのバイアスを持っています.しっかりと事実を認識していかなければならないと改めて思いますね.
最後に
本書では他にもさまざまな事例をもとに失敗から学ぶことの重要性と失敗の認知をゆがめる要素について紹介されています.
失敗することが悪いことだという社会感もありますが,失敗は新たな学びのきっかけであるという考えを持つことが重要です.
もう少し世の中失敗に寛容になって,素直に受け止めてより良い社会を作っていけるようになりたいものですね.