【6】書き出しは「頭の中で映像を作り、文字で描写する」
前回のプロセスはこちら(↓)。
さて、いよいよ準備もすっかり終わって、本格的な執筆に入ります。
本の書き出しは、「映像化するように書く」ことが多いです。見えるものや人を描写するのはもちろん、その場の明るさ暗さ、気温や湿度、音あるいは静けさ、緊迫感があるのかのどかな感じかなどまで描き出せたらなおいい。
外から見える動きとしては文章を書いているんだけど、自分の中では、まず映像作品を作って、それを文字で描写していくイメージです。
……抽象的過ぎますね。これまでに書いた本の書き出しをちょっと並べてみます。以下はボノボという類人猿の本の冒頭部。わたしが初めて書いた本です。
ボノボの本ならまず実物のボノボを登場させるのがふつうだと思いますが、この本ではあえて「ボノボという類人猿になじみのない私」をもってきました。読み手が私と同じ立場でボノボの世界に入っていけるようにしたかったのです。
下の引用は、著者の齋藤慶輔さんの語りをもとにわたしが構成した本の書き出しです。
齋藤さんはこの通りに話したわけではありません。わたしが取材で伺ったことをもとに、齋藤さんを密着取材したドキュメンタリー映像からビジュアライズの手がかりをもらって再構成しています。釧路湿原の保護センターで取材したので、自分で見た情景も混じっています。
この本ではケガをした猛禽類の命を助けようと奮闘する齋藤さんのリアルな日常を見せたいなと思って、通報時の緊迫感を感じられるような書き出しにしました。
一方、直近の読みもの本(←絵本ではなく、文字中心の本、という意味です)である『高崎山のベンツ』ではこんな感じ。実在のニホンザルの一生を追ったノンフィクションです。
ベンツというこのサルは、まるで任侠映画の主人公のような波乱万丈の一生を送ります。そこで本の導入は、今にも物語が始まるような情景にしました。
どんな本でも、最初に本を開いたときには、読み手はまだ「本の中の世界」には入ってきていない。書き手のわたしとしては、「ところが、最初の数行を読み始めたら、いつのまにか本の中に入りこんでいた」という読み味になっていてほしい。
「現実の世界にいる読み手」と「本の中で展開されている世界」との間に、どうしたら自然な橋がかかるかーー。橋を組み上げるのは楽しい作業です。
さて、いま書こうとしている「仲本ウガンダ本」の書き出しはどうしよう。仲本さんから聞いたこととファクトとドキュメンタリーの映像だけだと、もしかしたら、ちょっと素材に困ったかもしれません。
でもわたしは今回、頭の中で映像を作るための素材を豊富にもっています。取材でウガンダに行っていろんな体験をさせてもらい、人々に直接会ってきたからです。その実体験をもとに映像を編集して、あとは描写するだけ。
どんな書き出しになったかは、本が出るころまでのお楽しみに。
(【6】終わり)