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『活版印刷三日月堂 小さな折り紙』(ほしおさなえ)とうとう大団円(毎日読書メモ(295))

ほしおさなえ『活版印刷三日月堂』(ポプラ社)シリーズを読み始めて4ヶ月半。いよいよ、番外編の2作目にあたる『活版印刷三日月堂 小さな折り紙』を読了。川越の街の片隅にたたずむ、印刷所三日月堂の物語も終わりだ。いや、月子さんとその周囲の人たちの物語は心の中で永遠に続くのだが…。
物語の通奏低音は、宮沢賢治、そしてあまんきみこ『車のいろは空のいろ』。どちらも、多くのエピソードに登場し、この本の中でも登場人物たちによって語られる。
もともと、わたしがこのシリーズを読むきっかけになったのが『車のいろは空のいろ』だった。わたしはあまんきみこが先だったが、『車のいろは空のいろ』の感想を読んだら、『活版印刷三日月堂』で作品を知って、あまんきみこを読んだ、という人が沢山いた。幸せなコラボレーション。ポプラ社GJ。そもそも、『車のいろは空のいろ』を数十年ぶりに再読したのが、このnoteで、ポプラ社 こどもの本編集部が、「白いぼうし」を全文掲載していたのを読んだのがきっかけだったのだから。
前作『活版印刷三日月堂 空色の冊子』同様、本編4巻の中で、あるいはその周囲にいた人々の、三日月堂との絡みをささやかに描いた作品群。6つのエピソードで、これまでに出てきた登場人物の、別な側面を掬い上げていて、やや深掘りしすぎでは、という気持ちもなくはないが、物語世界が川越を中心としたひとつの宇宙になっている感じ。そして、扉ページに、本書の一節を活版印刷で刷った紙がはさまっている。不思議な静謐さを感じる。
エピソード「水のなかの雲」は、グラフィックデザイナーの金子くんの物語。わたしが「庭のアルバム」の中の感想で、他のキャラより登場頻度が高いので、月子さんと付き合っちゃうんじゃないの、と邪推した金子くんだが、登場人物でもそう思った人がいるようで、本書の第1エピソードの中で、柚原さんが「そうなの? わたし、金子くんは弓子さんのことが好きなのかと思ってた」と言っているのを読んで、だよね、だよね、と声を出しそうになったさ。
で、その金子くんは図書館司書の小穂さんと付き合うようになり、弓子さんは盛岡の印刷会社から来た悠生さんと結婚してしまった。で、「水のなかの雲」で金子くんは語る。ずっとパソコン上でDTPのデザインを行ってきたが、初めて三日月堂で活字を組むところを見て、圧倒されて、DTPでは出ない風合いを求めて、自分でも活字製版の名刺などを作るようになった。
技術の進歩により、印刷技術は元々あった技術から遠く離れた場所に行ってしまったが、残っている活版印刷の技術にも新しい需要があり、というか、需要があってこそ生き延びられる道があるので、仕事の幅を広げ、新たな使い道を見つけていかなくてはならない。勿論それは印刷技術だけでなく、手で漉いた和紙とか、金子くんの実家で作っている横浜スカーフとか、技術の進歩の中で一旦火が消えそうになっていても、誰かに求められている何か、全般のことである、と本書は教えてくれる。
最後の「小さな折り紙」は保育園の話。間接的な物語だが、最後は三日月堂に戻る。弓子さんが3歳の時に母カナコさんが亡くなっていて、カナコさん自身も3歳で自分の母を喪っている。そんな負の連鎖を断ち切って、強く立つ弓子さんの姿に未来が見える。多くのエピソードで、家族を喪った人たちが出てきて、それが全体としてこの物語群に寂しさを感じさせてきたが、チューリップの折り紙を折りながら泣いた弓子さんは、何十年かかけて、強く雄々しく立つ人となった。書かれた物語は終わりだが、活版印刷を見るたびに、読者はきっと三日月堂と月子さんのことを思い出す。

活版印刷三日月堂 星たちの栞
活版印刷三日月堂 海からの手紙
活版印刷三日月堂 庭のアルバム
活版印刷三日月堂 雲の日記帳
活版印刷三日月堂 空色の冊子
車のいろは空のいろ

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