丸谷才一『持ち重りする薔薇の花』(毎日読書メモ(355))
わたしは丸谷才一のそんなにいい読者ではないけれど、たまに読むと大きな充足感を得られる。
(そういう気持ちにさせられる作家って…あとは、金井美恵子とか?)
丸谷才一『持ち重りする薔薇の花』(新潮社、のち新潮文庫)。2011年発表。丸谷は2012年に亡くなっているので、結果的に最後に刊行された小説となった。和田誠の装丁もきれい。
読書の醍醐味。ある意味すごく下世話な話をキモに置いて、その衣として、経済界の重鎮とジュリアード出の弦楽四重奏団の話を重ねながら置いている。勿論曲を知っていた方が楽しいけれど、弦楽四重奏かくあるべき、みたいな部分も、語り手が素人という設定なので、すらすらと読める。そして通奏低音のような、聞き手の設定も。語り手の人生に涙したり喜んだり、カルテットのメンバーの会話の応酬を楽しんだり。すらすら読んでしまったのが勿体ない、味わい深い本でした。(2011年11月の読書メモより)