誰も座ってくれないカフェ(カフェ奮闘記2)
わたしがお店を開業した頃は、現在のような無料で便利なSNSがなかった時代でした。自ら、発信する手立てといえば、思いつくのはホームページ、広告チラシ、看板などになります。
わたしは、口コミで広がっていくようなイメージを理想としていました。
そして、美味しいものを作っていれば、必ず、同じ想いの人が集まってくれる・・・。
今でも、この気持ちに変わりはないのですが、
当時の口コミは、
「カフェができたって聞いて・・」ではなく、「ケーキがおいしいと聞いたので買いに来ました」という声でした。
【ケーキがおいしい=ケーキ屋である】という認識
つまり、来店してくださる多数のお客様が、わたしの店をケーキ屋だと思っいるのです。
「ここって、店内で食べれるんですか?」と聞いてくるお客様も多いのですが、「食べれますよ」とお伝えしてもやっぱり持ち帰るのです。誰も、この空間を利用してくれない現実に、何がいけないんだろう・・・・?と迷宮入りに。
そして、逆に、わたしの店がカフェだと認識してこられるお客様は、求めていたものが、「ランチ」だったのです。
当時、ランチはメニューに加えていなかったため、せっかくお店に足を運んでくれたお客様は帰っていきます。
この想いは一方通行なのか
『美味しいコーヒーと、ケーキを店内でゆっくりと過ごす贅沢時間』
このような、私たちの理想とは逆の方向に進んでいきました。
ケーキを求めに来てくれた人たちは、自宅に持って帰りたい。
カフェを利用したい人は、ケーキではなく、ランチだったらいい。
何かが、自分が求めていない方向に行ってしまっている恐怖と、でも、立ち止まっている時間がない現実の中で、もやもやしながら、ただ突き進みました。自宅に帰れない日々が数か月続く中、それでも、自分が止まってしまえば、すべてが終わってしまう。そう思いました。
そして、オープン直後から、お菓子教室の問い合わせが多かったこともあり、1か月後から開講することにしました。ここから、さらに自分の仕事が増えていきます。
お菓子教室は、自分がイメージしていた内容で、ホームページで発信していきました。このホームページと、口コミで教室はすぐに満席状態となっていきました。少人数制(3人~4人)で、一人一台制のフランス菓子教室です。お菓子教室に入りたいという声があれば、わたしは取りこぼすことなく、クラスを増やしていきました。気が付けば、スケジュールがびっしりで、1年先まで予定が埋まってしまっていました。今思えば、この働き方にゾッとするのですが、当時は、1年先まで確定した仕事が入っていることに安心感を得ていました。
厨房は陽の当たらない場所
無から有に変えていくもの。ないものを形にして、商品になるまでの過程=仕込みは、目に見えない残業です。作っても作っても、終わりの見えないゴールに進んでいる。とにかく、孤独感が押し寄せてくるのです。
お客様との楽しい会話をしながら、仕事をする。という甘い考えを持っていた自分が恨めしくなりました。【厨房は、影なのだ】と、、そう思った瞬間でした。
子供を育てながらの自分は、何かを捨てなければ、この店を背負えませんでした。どこかで修業をしていたわけでもない自分が、ケーキ屋のようなことをやっていることに戸惑いを感じながらも、毎月迫ってくる支払いと生活費を捻出しなければならず、わたしは、母親と妻としての、一般的と言われる『世間体』を捨てました。
そして、ここから数年間はプライベートの時間も捨て去り、ただ、仕事だけに没頭していく日々となります。
・・・つづく(カフェ奮闘記3へ)
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