国宝【絵因果経】1300年前のお経 絵巻物原点‥フェノロサと岡倉天心 藝大最初の購入物
振りかぶりポーズに見えてなんだか面白いこの絵は、釈迦の前世と生涯を分かりやすく伝えるために文字と絵で描いた絵因果経という奈良時代に描かれた経典(お経)で、MOA美術館所蔵 重要文化財の絵因果経の一場面
この絵因果経を調べると、奈良時代に描かれた絵因果経は複数あり、東京藝術大学大学美術館所蔵 国宝の絵因果経は、フェロノサと岡倉天心が藝大最初の収集品として購入していた
醍醐寺所蔵(国宝)絵因果経の制作は奈良時代8世紀半ばで日本最古の絵巻。これ以降で現存する絵巻は平安時代12世紀前半の《源氏物語絵巻》まで約400年も時代が下がるという(あの鳥獣戯画は平安~鎌倉時代の制作)
そのことを思うと8世紀のものがこれだけ鮮やかにしっかり残っているのは異次元レベルなのではないだろうか
中国起源の画風の絵であるものの、本家中国にはこの8世紀という古い時代で保存状態の良い絵付きの経典は残っていないという
■奈良時代の絵因果経■
(重要文化財) 過去現在絵因果経 MOA美術館
奈良時代の絵 でも現代の絵本のような可愛さ
絵の部分さらにズーム
【絵因果経】とは何か
お経であり平安時代以降に盛んに制作された絵巻物原点
国内・海外 サイズもバラバラになって伝わる
元々巻物だったものが切断されてバラバラに伝わる
・巻物などある程度の長さのもの
・ある程度の行数の断簡
・一行から数紙の断簡
など、諸家に分蔵された分も含め相当数にのぼるという
各時代に制作され 画風も異なる
奈良時代、平安時代、鎌倉時代に作られたものがあり
奈良時代に作られたものは大きく分けて5種類あり
それぞれ画風や経文の書風が微妙に異なっている
『過去現在因果経』全4巻の経典
『絵因果経』 各巻を「上・下」に分けた計8巻
奈良時代の作例
4巻上・下(計8巻)からなるセットが5セットあった
①上品蓮台寺本
②醍醐寺(報恩院)本
③旧益田家本
④東京芸術大学本
⑤出光美術館本
このうち、それぞれのセットから1巻ずつだけ残っているという。さらにその1巻が断簡として色々なサイズで切り取られ各所に伝わっている
【絵因果経】各時代の諸本 種類・所蔵先
【絵因果経】東京藝術大学大学美術館でも見ていた
そういえば「こんなに綺麗に奈良時代の絵が残っているのか」と驚いた絵を見たなぁ、あれはどういったもだっただろう…と過去行った展覧会の情報を調べた
特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」
東京藝術大学大学美術館
開催期間:2022年8月6日(土)~2022年9月25日(日)
絵の題名が一緒だった。シリーズは異なるけれど同じ絵因果経を二つの展覧会で見ていた。MOA美術館ものは「益田家本」、東京藝術大学のものは「東京藝術大学本」だった。美の玉手箱展の東京藝術大学本はどの場面だったのかは覚えていない。奈良時代の驚くべき鮮やかな色だけはしっかり記憶に残っていた
【絵因果経】各所蔵先で表記が若干異なる
・絵因果経
・過去現在絵因果経
・過去現在絵因果経断簡
二つの展覧会で見たものが同じものと認識できなかったのは、名前の長さでの印象の違いもあったのかも
背景が分かっていると題名を分解できて何を示してるのか解読できるけれど、全く予備知識の無く題名が長いものは“まるで呪文” 記憶が曖昧になりがち
(国宝)絵因果経 東京藝術大学大学美術館
東京藝術大学開校にあたり、フェノロサと岡倉天心が購入を決めたもので、大学美術館の収集品のうち最も早いもの
美しく残っているのは修復による賜物
この記事を読んで、そういうことだったのかと気づかされた
絵因果経の鮮やかさや保存状態の良さは、大切にされて保管状況も良かったことと、修理を経たこともあったのだろう
(重要文化財)絵因果経 奈良国立博物館
(国宝)過去現在絵因果経 醍醐寺
これは凄い… この長さの展示をできるほど残っている
▶︎平成24年(2012年)醍醐寺 全長15m初公開
世界遺産 京都 醍醐寺:春期特別公開 (daigoji.or.jp)
▶︎平成26年(2014年)渋谷区立松濤美術館「御法に守られし醍醐寺」展で全場面展示
長い間行方不明で明治時代に発見 醍醐寺「絵因果経」発見の記録が国宝!しかも横山大観筆
醍醐寺開創1150年記念特別展
「醍醐寺 国宝展」大阪中之島美術館で開催されているので絵因果経出ているのかな?と調べていたら、絵因果経自体の展示はなく、国宝「絵因果経発見由来記」小中村義象書、横山大観筆 明治28年(1895年)醍醐寺蔵が前期のみ展示されていた。
醍醐寺の絵因果経が行方不明だったことも驚きだし、行方不明だったものがよく美しく残っていたなということもさらに驚き。しかも発見の記録が明治時代で国宝かつ横山大観筆!こういったものがあるのは興味深い。横山大観が描いた絵には国宝は無いけれど、こういった角度で国宝に認定されているものに関わっていたとは
過去現在絵因果経 メトロポリタン美術館
■鎌倉時代の絵因果経■
奈良時代のものとは画風がかなり違っていて面白い
過去現在絵因果経 メトロポリタン美術館
奈良時代の各諸本リンク
奈良時代のものは各本でそれぞれ画風が異なるということなので、機会があったら違いを見てみたい
■出光美術館本
文化遺産データベース (nii.ac.jp)
「出光美術館の軌跡 ここから、さきへⅣ 物、ものを呼ぶ—伴大納言絵巻から若冲へ」出光美術館
2024年9月7日(土)〜10月20日(日)
美術館建替え工事前の最後の展覧会で絵因果経 展示
所蔵品のオールスターが並んでいるので入館料1200円は安と感じるラインナップ
■上品蓮台寺本
(国宝)上品蓮台寺本 京都国立博物館寄託
↑京博のサイト「博物館ディクショナリー」
研究員さんが子供向けに分かりやすく展示解説
■旧益田家本
●東京国立博物館所蔵
過去現在因果経断簡 文化遺産オンライン (nii.ac.jp)
●五島美術館所蔵
過去現在絵因果経断簡(益田家本) 耶舎長者出家願図 | 公益財団法人 五島美術館 (gotoh-museum.or.jp)
「館蔵 秋の優品展 一生に一度は観たい古写経」
五島美術館(東京都世田谷区)
2024年9月3日(火)〜10月14日(月) 絵因果経展示
巻物を切って断簡にしたのはある意味凄い
奈良時代に作られた巻物をいつかのタイミングでえいやーと切った人がいたのだ。奈良国立博物館所蔵のものは江戸時代に断簡にされたものだという。画像を見る限りメトロポリタン美術館の断簡は絵の途中でばっさりいってる感じ。その思い切り、、、たくさん断簡があるのは経典なので一部でも持っていたいというニーズがたくさんあったからなのだろうか
絵や書の巻物が断簡となったものを見ると躊躇なく切っていた昔の人すごいな…といつも思ってしまう
もったいない気もするけれど、古い時代の書物の伝来を調べていると断簡となったことでの利点が。切ったことで別々のところに保管され、何らかの理由で消失したものものもあれば、消失の危機を乗り越えたものもある。リスク分散で結果的に後世に残る確率は上がっているのかもしれない。できれば「まるまる残って一続きで見たい」と思ってしまうけれど、全部そのまま残るなんて奇跡の中の奇跡で、切り取られたものであったとしても現代まで伝わっているのが凄いことなのだ
断簡にされずに ’まるまる完全な状態’ で残った巻物
これ以上の保存状態の良い平安時代の書物は無いのでは
信じがたいレベルのクオリティ
↓
(参考)異次元レベルの文化財
平安時代中期 1000年前の「伝 藤原行成」の書
国宝になったばかり 皇居三の丸尚蔵館所蔵
文化財が美しく残るということの背景が分かる
研究員さんの説明を聞いてきました