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AIが書いたプレスリリースをもらったので、AIが得意なこと、不得意なことを考えてみた

先日もらったプレスリリースに、こう書いてあって、おや、と見直しました。

ライター:OpenAI、ChatGPT

ほおお。
ライターの名義が、AIとな?
わざわざこう断ってあるところに、興味をそそられるけれど、いったいどういうわけで?

じつはこれ、超人気ブランドであるマークジェイコブスの公開資料だったのですが、これによってAIが得意なこと、そして人間が得意なことについて、つらつらと考えさせられたのでした。

なにがわかったか、お話しましょう。



マーク・ジェイコブスの23年秋冬コレクションは、AIが資料を作成



マーク・ジェイコブスが23年秋冬コレクションを発表した際に、観客に用意したのが、このAIが製作した英語リリースだったのです。
今季の特徴はこういうものと、まとめた資料です。

なぜわざわざAIが書いたと明記したのか。
これはマーク・ジェイコブスらしい皮肉の効いたユーモアなのだと思います。

ファッションデザインでも、ライティングでも、絵を描くことでも、当然ながらAIがどんどん仕事を取って代わっていくのは、確実なこと。

クリエイティブな仕事も、全部 AIに取られるんじゃないのか!?

という問題について、マーク・ジェイコブス氏ご本人は心配していないでしょう。
AIをビジネスに利用しようとは思っても、自分の突出した創造性が脅かされるとは思っていないはず。

いっぽうあきらかに駆逐されるクリエイティブの仕事もあるわけで、多くのひとたちがAIによって、仕事がなくなるのかという不安も抱いているはず。

このリリースを渡されたのは、ファッション誌のエディターが多いわけですから、「さ、資料は揃えたから、あとは人間のあなたがどう記事を書く?」と挑戦しているともいえますね。

では、AIが作成した文章がどんなものだったのか、見ていきましょう!
これがなかなか面白いんですよ!


AIが作成した文章には照れがなかった

和訳されたリリースを冒頭から引用すると、こういう文章です。




マーク ジェイコブスのファッションショーは、メンズウェアにインスパイアされた仕立てとフェミニンな美しさを融合させた革新的なアプローチで観客を魅了した。

Marc Jacobs



いやいやいや、この資料を渡した時点では、まだショーが始まっていなかったはず。
まだショーを観ていない観客にも、過去形で「魅了した」といいきるのは、さすがAI。

生身の人間だったら、さすがに照れて、こうは書けないでしょう。
あ−。ロボットには感情がないってこういうことなのか、とへんなところで納得したりして。

続いて説明を読んでみると……。




テーラードスーツに加え、マーク ジェイコブスのファッションショーではうっとりするようなガウンのシリーズが発表された。これらのガウンはクラシックなシルエットをアヴァンギャルドな傑作へと変貌させる複雑なお直しが施されていた。複雑なドレープ、左右非対称のヘムライン、想像を絶するディテールに巧みな職人技がよく現れている。マーク ジェイコブスは光と影、エレガンスとエッジネスが交錯する、ビジュアルの祭典を創出した。

Marc Jacobs


なるほど。
英語をそのまま日本語に直訳しているので、日本語としてはこなれていないところがありますが、必要な情報をきちんとまとめて、説明しています。

そしてAIは、盛った表現をするのが得意だとわかります。

「エレガンスとエッジネスが交錯する、ビジュアルの祭典を創出した」
なんて表現は、AIならでは。

生身のライターが書いたら、デスクから「あのさー。ビジュアルの祭典って、なにいっているかわからないから、書き直してよ」といわれそう。

Marc Jacobs 23年秋冬コレクション バックステージ 


AIは情報をまとめるのは得意

さらに資料では、英語から直訳しました〜! というのがわかる文体で、漢字が多い文章が続きます。



コレクション全体を支配する黒と白のパレットが力強いキャンバスとなり、精巧な仕立てと革新的なデザイン要素を際立たせている。モノクロームの美学はタイムレスで洗練された汎用性を感じさせる。シンプルであることの美しさを示すとともに、複雑なディテールと精密な職人技を輝かせる舞台を提供した。マーク ジェイコブスは、黒と白がベーシックとは程遠く、スタイルと洗練の縮図であることを証明してみせた。

Marc Jacobs

今回の魅惑的なコレクションでは、ファッションの持つ変幻自在のパワーを思い起こさせ、個性と時代を超越したスタイルを讃えて印象的なアンサンブルを創出するマーク ジェイコブスの類まれなる技能を再確認させられた。

Marc Jacobs


ふむふむ。全体を読んで感じたのは、AIもたいした文章を書くなあ、ということ。
日本語としては変な部分もあるけれど、資料としては、とても役にたつし、グッジョブです。
こうした仕事は、この先AIに取られていくんでしょうね。

AIが得意とするのは、以下のようなことでしょう。

情報をまとめること。
キイワードから文章を構築していくこと。
長い文章でも間違いなく書くこと。
漢字を駆使すること。
書き言葉に強いこと。

となると、ニュース情報アップデイトには、もってこい。
資料作りやリリース、ウェブの配信ニュースを書くような仕事は、AIに取って代わられるようになるのでしょう。

しかし、どうですかね。
読みやすい文章ですか?
一回、読んだだけで、意味が伝わってきます?

こないよね。
はっきりいって、読みにくい。

Marc Jacobs 23年秋冬コレクションのバックステージ


AIの書く文章は、なぜ読みにくいのか?


文章としては間違っていないのに、なぜ読みにくいのか。

もちろん日本語としては自然ではないというのはありますが、原文の英語でも、こういう書き方はしないもの。英語でも変なのです。

まずひとつの問題が、スピード感
人間には読むスピードと、頭のなかで解釈できるスピードがあって、それが一致していないと、たいへん読みづらいのです。

一回読んだだけでは、わからなくて、もういちど読み返してしまう。
これは文章としては、よろしくない。

議事録や論文など正確さが必要とされる書類は、読む方が努力しても読まなくてはならないこと。だから読みやすさは優先されない。

いっぽう雑誌の記事やブログ、あるいは手紙といった「相手に伝えたい」文章は、読み手に負担をかけないことが大事。

頭からすらすらと読んでいくことができる、読むスピードで頭に情報が入ってくる、読み返さなくても済む

ライター歴ウン十年のわたし自身が、大原則として大事にしているのが、そのこと。
そして新人さんに教える書き方ハウツーも、ここに尽きます。
読み手にとってわかりやすいことが、大事なのです。

このAI製作の文章では、ひとつの文章にいれる情報が多すぎるために、頭のなかで渋滞を起こしてしまう。

「いいたいことを、わかりやすくいうと、どんな感じ?」
何が一番いいたい?」
簡潔にいいかえるなら、どうする?」

という部分がごっそり抜けていて、相手が読みながら理解するスピードを無視して、情報をてんこ盛りに入れるために、わかりにくい。

どうやらAIは、こういう書き方をすると、読み手はこう感じるだろうという推察するのは苦手のようですね。

つまり読み手を想定しない文章になっているのです。


感情という強弱がないと、頭にひっかかりにくい


もうひとつの問題は、すべての情報が均等にならべられていること。
あれこれたくさん書いてあるのに、頭にひっかからずに流れてしまうのです。

人間の話には、感情による強弱があるものなのです。
たとえば、
「あいつは許せないんだよ」
とか、
「今日の推しがカッコよくって」
とか、
「あそこの店のラーメン、旨いよね」
とか伝えたい感情があって、それによって情報の強弱が作られる。
相手には、ようは強い部分だけが残ればいいのであって、弱の情報は忘れてもオーケイ。

いっぽうAIの文章には感情がないため、強弱がなく、全部が同じトーンなんですね。
だから文章が頭にひっかかってこない
何にも残らずに、消えてしまうのです。

ザッザッザッと同じ速さで行進しているような文章というのか、こっちが全然ついていけないでオタオタしていて、「待って」といっても、ロボットがふり返り、「なぜですか」といわれてしまいそう。

文章というのは「伝えたい」感情がないかぎり、伝わらない。
反対にいえば、伝えたいなら、先に感情なり、思いを持つべきなのです。

またわかりやすい文章の書き方には、
「ひとが頭に入りやすい順番で、話を進める」
という原則があるのですが、今回の話とは違うので、またべつの機会に説明します。

ともあれマーク・ジェイコブスが、AIによるリリースを出してくれたことで、AIの能力について考える、とても良い機会になりました。

こうやって考えさせることじたいが、マーク先生の戦略なのでしょう。


実際に掲載されたコレクション記事と、ルックはこちら


さて、資料とルックを元に、アパレルウェブで掲載した記事がこちらです。

アパレルウェブに掲載した記事


全ルックも見ることができます。
マーク ジェイコブスの秋冬コレクション、めっちゃカッコいいです!

AIは何も言及していませんでしたが、『ブレードランナー』に出ていたダリル・ハンナを彷彿とさせるヘアスタイルで、あの映画の世界では、レプリカントは「感情を持たない」という設定になっていたのが、なんともアイロニカルです。

マイクロミニ尖った肩のシルエットも80年代のイメージですね。

実際のルックを見ると、AIがまとめていたポイントの正しさ、そして同時に、AIでは物足りないところもわかるかと思います。

ご興味ある方は、こちらの記事リンクからぜひご覧ください。

マークジェイコブス わずか3分の史上最短ショーで 2023秋冬コレクションを発表 マニッシュな仕立てとフェミニンさを融合


人間とは、感情の生きものである


ということで、今回のまとめ。

感情というのは、やはり人間しか持てない能力であり、それを失ったら、まったく人口知能にかなわないことを痛感。

相手に伝えたい気持ちであったり、相手のスピードを推し測ったり、はたまた照れたり、笑いを含ませたりといったような微妙な感覚にも人間らしさは宿るもので、そういう感情の揺れや感覚にこそ、人間の創造性は生まれるのだなと感じた次第です。

AIの時代にも、わたしたちがクリエイターであるために、ともに揺らぐ感情を抱いていきましょう!


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