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【選書】「ミステリーって多すぎて自分に合うのを選べる気がしない」という友達に選書のコツを全力で話してみました〈第一夜〉 -きっかけはこの2冊-

~「読んでよかった」のために自分の好みを知ろう
分け合いたい! 底知れぬミステリーの魅力~
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(1)なぜこれを書こうと思ったか・・・キッカケは驚きの質問

※興味のない方は(2)まで飛ばしてください

 なぜ「選書のコツ」について書くことになったのか、いちばんのキッカケは、普段あまり読書をしない長年の友人から受けた、思いもよらない質問でした。

友人「ねぇ、最近ネットで話題になってる『十角館の殺人』って面白いの? 衝撃の1行ってなに?」

私「えええ~!?」

 ミステリーについて聞かれたのはとても嬉しかったのですが、同時にちょっと困りました。はて――ミステリーというより読書全般にそれほど興味のなさそうな友人からの質問に、私はどう答えるのが正解なのでしょう。

 「貸すから読んでみる?」とも、「どうかな・・・あなたにはつまらないかも」とも、すぐには言えませんでした(すぐに貸さない理由はあとで書きます)。

 悩んだ結果私は「この際、ミステリーの選書について全力で話してみよう!」と思ったのです。

 ーーそこまでしたい理由はシンプルで、ミステリーの、読書の面白さを分け合いたいから。

 「貸すから読んでみたら」で終わらせるのは簡単。
 でも、せっかく読書に興味を持った「それほど読書慣れしていない」友人に対して、その場しのぎの対応は私にはできません。なぜなら読書は大いなる娯楽で、最高の暇つぶしで、時には人生を救うものだから・・・分け合えるものなら、ちゃんと分け合いたい。

 目標は、ゆくゆくは友人が自分で本を選べるようになる、または詳しい人に「こういうミステリーはありますか?」と気軽に質問できるようになること。たとえ現時点では私のお勧め本を読むとしても、「なぜそれがあなたにとって面白いと考えたか」をちゃんと伝えたいのです。

 そのほうが読書の魅力が体に染み込みやすいから。
 そのほうが自分のなかで根を張り育ちやすいから。
  
 ーーというわけで、これをキッカケに始まった私と友人の、ミステリー選書に関する長~い会話と対話(?)を記録します。いつか役に立つ日のために。

【主な、ではなく2人しかいない登場人物】

エイミ・・・本、特に推理小説が好き。40代。友人ミキとの会話や子育てを通して「本1冊をスラスラ読めるのは本好きだけの常識」と気づき、ミキが楽しく読書できる「入口」を考えるように

友人ミキ・・・大人になってから読書に興味を持つが、少し苦手意識あり。映画やドラマでミステリーに興味を抱き、小説も・・・と自分で選書するものの「いまいちピンとこなかった」経験がある。40代

※以下、作家名は敬称略。本のデータは最後に記します

※あくまで私が読んだ本、好きなタイトルから話しています。ミステリーの選書に関してはすべて、ただの本好きの個人的な見解です

※お勧めの作品名も出しますが、あくまで選書のコツ・考え方がテーマです
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(2)ミステリーを楽しみたいけど選び方がわからないという本音

 
エイミ ミステリーのことを聞いてくれてありがとう。すごく嬉しい!

ミキ いやじつは、ここ数カ月ネットのニュースで何度も「『十角館の殺人』衝撃の実写化」とか「衝撃の1行ですべてひっくり返る」・・・みたいな記事を見かけて気になってて。ドラマを観ることはすぐできそうだけど、その前にエイミに聞いてみようと思ったんだ。

エイミ ということは、原作が気になったんだね? ミキは映画やドラマは好きそうだけど、小説を読んでるのはあまり見たことがないような・・・。

ミキ それが、子どもも中学生になったし、最近少しは自分の時間がもてるようになったから。

エイミ じゃあ、どっぷり読書できそう?
ミキ いやそれでも本が読めるのは1日15分とか、頑張っても30分かな。それでも、少しずつでも読んでみたいと思うようになったの。

エイミ オッケイ! 読書といってもいろいろあるけど、ミステリーが読みたいの?

ミキ ドラマや映画でミステリー観てると面白く感じるんだよね。真実が明かされる瞬間とかドキドキするし。それと私、文章を読むのはあまり得意じゃないけど、「この謎が知りたい」っていう気持ちがページをめくる力になるって、前にエイミが言ってたのを思い出して。

エイミ そう、ページをめくる推進力ね。子どもの読書でも謎解き系をお勧めするのはそれなんだ。ただミキがどのドラマや映画を観て面白いと思ったかにもよるかな・・・謎にも種類があるんだよ。謎の種類の話は長くなるから後回しにするけど。

ミキ そっか、じつはここ何年かで自分で選んだミステリーを何冊か読んでみたんだけど、イマイチピンとこなくて。もしかして謎の種類の問題だったのかな?

エイミ お、その話すごく聞きたい。

ミキ けどその前に私は『十角館の殺人』がどんな話が聞きたい! なぜかと言うと、私がこれまで自分で選んできた本って、なんかのポイントを間違ってる気がするんだよね。

エイミ ポイントを間違ってる?

ミキ ミステリーってものすごく種類があるでしょう? 書店に行っても圧倒される。作家で選べばいいのか、話題性なのか、帯を見たりしてインスピレーションで選べばいいのか、もうわかんなくて・・・。

エイミ それで『十角館の殺人』ってどうなんだろうって思ったんだね。

ミキ うん。衝撃の1行についても知りたいし、どうして実写化不可能と言われてきたのかも知りたい。

エイミ 好奇心が湧くのはわかる。私も「どうやって映像化?」と驚いたもんね。ただ、もしかしたら小説としてはミキにはまだお勧めしない、っていう話とセットになるかもしれないけど、いい? 

ミキ とりあえず聞いてみます!
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(3)『十角館の殺人』あらすじ&衝撃の1行とは?(ネタバレなし)

 
※衝撃の1行がどういう展開で書かれているかには触れますが、ネタバレというほどの詳細は書きません。が、気になる方はお気をつけください
 
エイミ 『十角館の殺人』綾辻行人という推理作家が1987年に発表した、本格ミステリーの傑作のひとつなんだ。簡単なストーリーを話すと、「角島(つのじま)」という無人島に、大分県にある大学の推理小説(ミステリ)研究会のメンバー7人が訪れるところから始まるのね。

ミキ 無人島っていう不便そうな場所に、研究会は何をしに来たの?

エイミ 簡単に言うと旅行なんだけど、まあ合宿のイメージかな。角島では過去にある事件が起きてて、その島に来てみたかったのと、旅行中に新作の小説を1本書き上げるっていう目的のためだね。まぁこのへんはあまり本編に関係ないとして。

ミキ そこで事件が起きるわけだ。
エイミ うん。はっきり言うとメンバーが何者かに次々と殺されていく・・・。そして角島で起きる事件と並行して、本土のほうではその旅行に参加しなかった研究会の元メンバー「江南(かわみなみ)」君という青年の視点で、ある不可解な手紙に関する調査が行われるんだ。

ミキ ほう、ある不可解な手紙ね。

エイミ そして本土で行われているその調査と、角島の殺人事件が、やがてひとつにつながっていくんだよ。

ミキ そうなんだ・・・で、衝撃の1行は?

エイミ それがね、角島でどんどん人が殺されるんだけど、小説のかなり最後のほうになっても誰が犯人か全然わからないの。だから読者はだんだん、これ本当に解決すんの? って不安になる。

ミキ むぅ・・・島のほうで殺人が起こっていることは河南くんには伝わってるの?

エイミ 最終的に島で決定的な出来事が起こって、本土の人達にもそれが伝わり、警察も動くわけ。それでも読者には真相がわからない。もうページ数は残り少ないぞ、どうすんのってアセってきたところに・・・。

ミキ ところに?

エイミ 本土のほうで、ある人がある人に、ある質問をするんだ。

ミキ ある人がある人にある質問? あ、それが核心をついた質問なんだね? 事件の重要な手掛かりについて聞くとか?

エイミ いや全然。聞くほうもちょっとした興味で、そういえばこれどうなんですか? みたいな軽い質問。聞かれたほうも、自分はこうですよってシンプルに答えるだけなんだけど。

ミキ それが?
エイミ それが、衝撃の1行。

ミキ え?
エイミ その質問の答えを見て、読んでる私たちは「え? え? えーーーーーーーっ!?」ってなるんだ。

ミキ えぇ? ・・・エイミもなった?
エイミ 1回床に転がってみたかな。家だったし。

ミキ ちなみにその質問の答えは、周りで聞いている人も驚くような内容なの?

エイミ いや、周りの反応については特に書かれてないけど、本土にいた人達にとっては特にどうってことない質問と答えだからね。そうなんだ、とか、そうだったよね、くらいじゃないかな。

ミキ ・・・全然わかんない。

エイミ ははは。ただ、こう話すと面白いんだけど、今のミキには小説を「ぜひ読んで!」とはお勧めしづらいんだよね。配信してるドラマのほうは楽しめるだろうから、それ観てひっくり返ってみるのもいいと思うけど。

ミキ どうして?

エイミ まず、観るのと読むのは全然違う行為だからね。けっこう難しい内容の小説でも、ドラマや映画になれば観る人は多いけど、分厚い原作小説をみんなが読むかといえばそれはまた別でしょ? わかっててチャレンジするなら別だけど。

ミキ 確かに、私チャレンジしたいわけじゃない。気軽に楽しく読書というものを生活に取り入れたいだけだから・・・。

エイミ 誤解してほしくないのは、『十角館の殺人』が小難しい小説なわけじゃないってこと。読書慣れした人なら数日でスラスラ読めるだろうけど、小説一冊を読み終えるのに労力を使う人には気軽にお勧めできない、っていう意味だから。

ミキ 読書にかけられる時間が1日15分の私はどうかな? それと、文章あんまりスラスラ読めないかも・・・。けっこう何度も読み返しながら進む感じだし。

エイミ 本格ミステリーは、事件の発端から解決まである程度スピード感をもって読み切ったほうがいいと思うんだよね。だから、今のミキには別のタイプの本をお勧めしたい。

ミキ 私は私に合ったミステリーが知りたいので、お願いします!

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(4)「どんな謎なら私は知りたいか」を意識して選んでみよう

 
エイミ 本を楽しく読むには、「この先どうなるか知りたい!」っていう気持ちが必要だと思うんだけど、特にミステリーの場合、「どんな謎なら私は知りたいか」をわかっていない人が適当に選んだ本を読み始めると、途中で挫折してしまうことがあるんだよね。

ミキ なんか身に覚えが・・・。

エイミ たとえば分厚い小説で本題以外の要素が多くて話がなかなか進まないと、途中で挫折しちゃうことがあるでしょう? 

ミキ あるね。本題をサクサク進めてほしいのに、このくだりどう関係するの? と思ったり。

エイミ 大抵意味はあるんだけど、読んでて辛くなる人もいるよね。あと、海外の小説で登場人物の名前が覚えられなくて、読むのをやめちゃったり。

ミキ わかる! 私、カタカナの名前があまり覚えられないから、海外ものをお勧めされるとちょっと困るかな。

エイミ カタカナの名前苦手なんだ・・・じゃあますます今は『十角館の殺人』はお勧めしない。
ミキ なんで? 日本の小説でしょ。

エイミ なんでもです。わかる人にはわかる(笑)。話を戻すけど、「続きがどうなるのか知りたい」という気持ちが薄いと読めなくなるんだよね。

ミキ 確かに連続ドラマを観ててもそういうことはあるよね。第3話くらいでもういいや・・・って。

エイミ ドラマでも、この2人は結ばれるの? とか主人公のこの先の運命が知りたい! と思えば最後まで観るでしょう。『VIVANT』観てた?
ミキ 突然だね、観てたよ。2023年夏のテレビドラマでしょ。

エイミ あれを途中でやめた人は少ないだろうと思わない?
ミキ 確かに、謎が魅力的すぎたよね。それと私は途中からずっと乃木さんの幸せを祈ってたよ・・・。

エイミ 私も(笑)。ドラマでも小説でも結局は「知りたい!」という気持ちとか、先の展開に期待する心が原動力になるからね。

ミキ つまり今の私では『十角館の殺人』の謎に期待する心が大きくないだろうと・・・。

エイミ そうは言わないけど、現存のほかのタイプのミステリーで「ミキは絶対こっちの謎が好きそう」と思える本がたくさんあるの。
ミキ 確かに私は自分で情報を持ってないからなぁ。

エイミ なんにしても途中で挫折しちゃうと、その一冊だけじゃなく読書自体とか、ミステリー自体を「もういいや」「自分には合わない」と思っちゃう可能性があるでしょう。それは避けたいの。本当に、本当に残念だから。なのであまり読書慣れしていない人にこそ、「これは!」という一冊をまずお勧めしたいんだ。

ミキ なんか情熱すごいね。じゃあ、私が興味のありそうな謎とかミステリーってなんだろう?

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(5)辻村深月『傲慢と善良』から得た気づきとは?


 エイミ そこで今ミキにお勧めしたいのは、辻村深月の『傲慢と善良』です。

ミキ 知ってる! 確か映画も公開されるよね(※現時点で2024年9月公開予定)。

エイミ この作品ミキは好きかも。じつはミステリーを読みたいっていうミキに、「どうしたら自分らしい選書ができるか」という話ができるかもしれないと思ったのも、最近『傲慢と善良』を読んだからなんだ。

ミキ そうなの? いかにも私が好きそうな内容だったってこと?

エイミ それもあるけど、「人と本のマッチング」に関してのヒントをもらったんだよね。 漠然と感じていたことが言語化されたというか、あぁそうか と腑に落ちた。これはすごい小説だよ。今さら私が言うまでもないけど。

ミキ あのう、素朴な疑問なんだけど、『傲慢と善良』って本と人のマッチングの話なの?
エイミ 違います。

ミキ タイトルからするとカタそうな印象を受けるけど、難しい話ではないんだよね?

エイミ 全然難しくないよ。ジャンル分けすると恋愛ミステリーになるのかな。恋愛の謎、人の心の謎を追うのが主軸だね。

ミキ どうしてこういうタイトルなんだろう?
エイミ たぶんイギリスの昔の恋愛小説『高慢と偏見』にちなんだんじゃないかな・・・オシャレだよね。
ミキ 『高慢と偏見』? なんかすごいタイトル。

エイミ これに関しては『傲慢と善良』でも登場人物がその話をしているから、ある程度モチーフにしているのは間違いないと思うよ。
ミキ 高慢ちきなヤツが出てくる偏見に満ちた物語?

エイミ そう思うよね(笑)。私もかなり前にDVDでドラマ版を観ただけだけど、18世紀とか19世紀頃のイギリス貴族の赤裸々な恋愛&結婚事情を描いたもので、すごく面白いよ。結局、高慢と偏見を持っているために相手の良さを正しく理解できずに、結婚に右往左往する物語だったような・・・。

ミキ 昔のイギリス貴族は高慢と偏見を持っていらっしゃったんだね。
エイミ 待って! そう考えると『傲慢と善良』も、傲慢さと善良さがあるゆえに恋愛や婚活でいろいろ苦労する・・・という話だったのかも。

ミキ 面白そう。 恋愛や婚活にはやっぱり興味が湧くけど、ミステリーっていうからには謎があるんでしょ?

エイミ うん、内容としては西澤 架(かける)という男性が、突然行方不明になった婚約者の坂庭真実という女性を探す物語。マッチングアプリで知り合って交際・婚約した30代の男女2人が主人公だね。

ミキ どうしていなくなったの⁉ 幸せの絶頂じゃないの?
エイミ だからそれが謎なんだって(笑)。知りたいでしょ。 架は真実を探すうちに、知らなかった真実の過去や内面性に気付いていくんだよ。

ミキ あれ、本と人とのマッチングの話はどうつながるの?

エイミ それは私のなかで勝手につなげているだけなんだけど・・・。まず、人と人とのマッチングってどういうものだろう、婚活がうまくいくってどういうことだろう? という話が前半で出てくるのね。架もじつは真実と婚約するまでにいろいろ悩んで、苦しんだ過去があるんだ。

ミキ 誰にでもあるよね・・・いろいろ。

エイミ 架が真実を探す過程で、ある結婚相談所を訪ねて、そこのオーナーである小野里さんという女性に「婚活がうまくいく人といかない人の差って、何ですか」という質問をするんだけど、その答えがもう、肝なんだ。

ミキ キモ?
エイミ うん。きちんと引用するね。

「小野里さんの目から見て、婚活がうまくいく人といかない人の差って、何ですか」
(中略)
 婚活して結婚が決まった、という他人の成功譚を聞いて、何度も思った。彼らと自分の何が違うのか。然るべき相談所やアプリを利用して、すぐに相手と出会える人たちもこんなにたくさんいるのに、と。
 ここに来ていた頃の真実もそうだったのではないだろうか。
「うまくいくのは、自分が欲しいものがちゃんとわかっている人です。自分の生活を今後どうしていきたいかが見えている人。ビジョンのある人

(『傲慢と善良』著者 辻村深月/朝日文庫/税別810円)p128-129より)


エイミ 自分が欲しいものがちゃんとわかっている人。ビジョンのある人。――私はこれを読んで、そうだ、読書もそうなんだ! って腑に落ちたの。

ミキ この本そういうふうに読んでる人いますかね?

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(6)本も婚活も「自分」を知ったうえで相性を考えてみる

 
ミキ え~、もう少し詳しくお願いします。

エイミ たとえば婚活の場合、「イケメンで高収入」とか「美人で料理上手」な人を紹介したからといって、全員がうまくいくわけじゃないでしょ? 一緒にキャンプできるとか、夜型じゃない人がいいとか、転勤が多いのを理解してくれるとか、人それぞれのスタイルや将来のビジョンによっても合う、合わないがあるよね。

ミキ わかる。私もある時期から「もう医者や弁護士じゃなくてもいいや」って思うようになった。
エイミ 心の声、漏れてますよ。
ミキ 一緒にテレビ観て笑ってくれる人がいいです。

エイミ 自分が何を求めているかを知ってるかどうか、だよね。この小説で出てきたビジョンっていうのは結婚によってどんな暮らしを得たいのか、将来的にどんな人生を歩みたいかって意味だと思うけど、つまり自分はどういう人間か、ということにもつながる。

ミキ なるほど・・・選書にもビジョンを持ったほうがいいってこと?

エイミ いや、さすがに婚活じゃないからそこまで大げさな話じゃないけど、たとえば本に詳しい人に「こういうタイプのミステリーを読みたいんですけどお勧めありますか?」って具体的に聞けるだけでも違うじゃない? ネットで検索するにしても、具体的なキーワードで探せるよね。

ミキ 確かにそうだね。婚活もそのほうが話が早そう(笑)。

エイミ 自分はどんな謎ならワクワクできる人間なのかを知っている人は、選書で失敗しづらいと思う。もっと言うと、読み終わってどんな気持ちになりたいかっていうのもある。

ミキ どんな気持ちになりたいか?

エイミ 簡単に言うと読後感にこだわるならハッピーエンドの小説を選ぼうとか、謎が解けて救われたいのか、それとも社会的な知識を得たいのかとか、それによっても選書は変わってくるってこと。

ミキ あぁ・・・私は謎解きを楽しんだあとは、癒されたり救われたりしたいかな。

エイミ それにさっきも言ったけど、読書ってけっこう労力がいる主体的な行為だから、「読む人にとって魅力的な謎」でなければ、300ページや500ページのものを読み進めるは大変なんだ。特に、あまり読書慣れしていない人にとっては・・・。

ミキ 私・・・なのかも。

エイミ ミステリーっていうジャンルが広くて、特殊っていうのもあると思う。たとえば「本格」と言われる論理的な謎解きにそこまで興味のない人もいるよね。

ミキ 本格・・・。

エイミ わかりやすく言うと意外な犯人とか密室とか、探偵による関係者全員を集めた謎解き、みたいなのが出てくるやつだけど。

ミキ ・・・言われたら私もそこまで興味ないかも。
エイミ 『十角館の殺人』はバリバリの本格だからね。

ミキ そっか・・・なんか勢いと興味本位だけで「どうなの?」って前のめりになってたけど、そう言われれば私、論理的な謎解きってそこまで興味ない気がしてきた。

エイミ 「本格」の面白さについてはまた今度改めて話すけど、「本格以外」から選んだとしても、魅力的な小説に溢れてるのがミステリーっていうジャンルの懐の深さでもあるから。

ミキ たとえば、婚約者はなぜ行方不明になったのか・・・みたいなね。わかってきたぞ。

エイミ ちなみに『傲慢と善良』作者の辻村深月は綾辻行人、特に『十角館の殺人』が大好きなんだって。
ミキ え~! そことそこ、つながるんだ。

エイミ うん。これはけっこう有名な話で、辻村深月は子どもの頃からミステリーをたくさん読んでいたみたい。だから彼女の作品は、どっぷりミステリーじゃない青春小説とか人間ドラマであっても、謎解き要素がちりばめられているものが多くて、読みごたえがあるんだよね。

ミキ そういえば、有名な『かがみの孤城』はアニメ映画にもなってたけど、あれはどうなの? まだ観ても読んでもいないんだけど・・・。

エイミ あれは中学生が主人公の、青春の痛みを描いたファンタジーと見せかけて、伏線の貼り方と謎解きの面白さが尋常じゃないミステリーだよ。
ミキ えっそうなの!?

エイミ 途中まで自分がミステリー読んでるって気づかなかった・・・。内容的にはミキも好きだと思うし、中高生にもぜひ読んでほしい。『かがみの孤城』の話をすると長くなるからまた別の機会にするけど。

ミキ 子どもにも勧めてみようかな?
エイミ いいと思う!

エイミ 話を戻して、『傲慢と善良』はミステリーという観点から見れば謎解きは弱めだし、どちらかというとミステリー風の恋愛小説かもしれないけど、一筋縄ではいかない「人の心」を、謎として深く掘り下げてる作品だと思うよ。

ミキ 興味湧いてきたわ~。
 
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(7)傑作・名作を人に紹介して何度も失敗


 エイミ 私、前まで人に「自分が思う傑作・名作」「一般的な評価の高い作品」をお勧めしてたの。でもその後の反応がイマイチだったことが多々あって。

ミキ たとえばどんな反応?

エイミ 「登場人物が多くて覚えきれなかった」とか「全体的には良かったんだけど、あのシーンが残虐でキツかった」とか「犯人は意外で面白かったけど、あんなことで人を殺すかな?」とか。

ミキ ははぁ、私が言ってたらごめん。

エイミ そんなわけで、絶対面白いはずなのに、っていう自信は見事に打ち砕かれてきたよね(笑)。

ミキ どんなものでも「人による」っていうのは当たり前な気もするけどね。

エイミ そうなんだけどミステリーの場合、はずした場合の「これじゃない感」が大きいのかも。なにしろ作品数が多いし、作家による作風もいろいろだから。

ミキ 素朴な疑問だけど、同じミステリーでも作風ってそんなに違うもの?
エイミ ピカソとラッセンくらい違うよ。ゴッホとラッセンでもいいけど。
ミキ なんかごめん。

エイミ というわけで最近私は、「お勧めある?」と聞かれた場合、最低限、次の質問をするようにしてるんだ。ミキは付き合いが長いからなんとなく好みがわかるけど、そうじゃない場合は、相手の読書歴すらわからないからね。

ミキ どんなの? 質問されたい!

エイミ そうだね、今日のところは「選書のコツ」の詳細まではいけなかったけど、続きは第二夜で。ミキが自分で選んでピンとこなかった、っていうミステリーのタイトルも知りたいし。

ミキ ドキ・・・。
 エイミ 第二夜につづきます!

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ミキ ・・・あれ。そういえば結局『十角館の殺人』はどうして実写化不可能って言われてきたの? そしてどうやってドラマ化したの?

エイミ それは秘密です。
ミキ 結局言えないんだ・・・。

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【今日のポイント】

・自分はどんな謎なら楽しめる人間か、を考えてみる

・話題の一冊や、業界で名作とされるものも、ミステリー初心者や読書慣れしていない人には読破が厳しい場合もある(だからといって、自分は読書に向かない・・・と思わないで!)
 
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【第二夜予告】
「脱・選書迷子~ミステリー初心者に最低限したいこれだけの質問」
「本格か、本格以外か」

第二夜はこちらから↓↓↓


【今夜の本リスト】
『十角館の殺人 〈新装改訂版〉』(著者 綾辻行人/講談社文庫/税別695円)
『傲慢と善良』(著者 辻村深月/朝日文庫/税別810円)
『かがみの孤城』(著者 辻村深月/ポプラ社/税別1800円)

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一口にミステリー(推理小説)と言っても本当にいろいろ


最後まで読んでくださってありがとうございます!



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