【読書感想文】浅井健二郎『経験体の時間:カフカ・ベンヤミン・ベルリン』高科書店、1994年
大学院時代にお世話になった先生の主著である。私が学生時代にはもう上梓されていたのに、不勉強のため、これまで手に取ったことがなかった。しかし、人生ももう半分を過ぎた今、これだけは読んでおきたいと思い、本当は入手したかったのだが、高価だったため、市立図書館で借りてきて読んだ。難しかった。師といってもよい方のご著書であるが、謹厳なご表情が思い出されて、冷や汗が出た。ただ、文体は熱く、大変読み応えのある、一気に引き込まれるものであった。カフカを扱った前編は、カフカの作品を前にしながら読んだわけではなかったので、理解しづらかったが、ご専門であられたベンヤミンについての部分は、特に、私の専門であったゲーテともかかわる、「ゲーテの親和力」も扱われていて、実際に講義を受けたこともあったので、懐かしいとともに、わずかながらも理解はできたと思う。自らを神話的オリュンポス神に祭り上げてしまうゲーテの、『親和力』のオッティーリエの形象に表れた、倫理的なものを欠いたただただ無制限の神話的な自然の相貌、これを批判するときのベンヤミンの筆致を浅井先生は綿密に捉えられている。ゲーテに対する批判と親和性、これは浅井先生もベンヤミンに負けず劣らずお持ちのものであったと私は思う。私の専門であったゲーテの『色彩論』の引用が何度も出てきたのも懐かしく、嬉しかった。後半のベルリンに関する部分は、特に室内空間と、<夜>に関する記述が面白かった。啓蒙理性の比喩である<昼>に比べた時の<夜>の魅力が、遺憾なく述べられていた。そういえば、浅井先生は、学生と夜出かけられるのがお好きであったなと、懐かしく思った次第である。本当に一気に読ませられる文筆力は、作家顔負けであると思った。私は病気になったために、先生から関係を絶たれてしまったので、長い間先生に対して複雑な思いを抱いていたのだが、少し心が晴れた思いである。