2019年7月10日 文科省と経産省が「新時代の学び」「未来の教室」に関して提言 各ガイドラインに見る令和時代の教育とは?
文部科学省は2019年6月、新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)を発表した。同時に経済産業省でも、令和の教育改革に向けた「未来の教室ビジョン」がとりまとめられた。これらの動きを受け、令和時代の教育は、どのように進化していくのだろうか。
文科省による新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)
文科省では新時代の学びを支える先端技術のフル活用に向け、2019年11月に「柴山・学びの革新プラン」を、2019年3月にはこれを踏まえた中間まとめを公表してきた。今回発表された新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)では、中間まとめの内容を更に深掘りし、「誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」を実現すべく、新時代に求められる教育の在り方や、教育現場でICT環境を基盤とした先端技術や教育ビッグデータを活用する意義と課題について整理するとともに、今後の取組方策について具体的に取りまとめている。
出典:文部科学省ホームページ(http://www.mext.go.jp/)
今回発表された最終まとめによると、新時代の教育にはSociety5.0時代の到来に対応できる人材を育成することと同時に、子供達の多用化に対応することが求められている。これらを実現するためには、教師・子供・教育委員会・保護者・国や大学等の研究機関それぞれの視点において、ICT環境を基盤とした先端技術や教育ビッグデータを活用する必要がある。
現在の学校をめぐる状況には、これらの実現を阻んでいる課題が多数存在する。まずハード上の課題として、教育用コンピュータの配置や無線LANをはじめとした通信ネットワークは脆弱でICT環境の整備が不十分であり地域格差も大きいこと、教育現場におけるパソコン機器等が市場と比較して高額であることが挙げられる。さらに、利用面においても課題がある。たとえ設備環境が整ったとしても、どのような場面でどのような機器を利用することが効果的なのか、実証的な研究等が少なく明らかではないのだ。データを収集してもそのデータが教育の質の向上に十分に活用されていない、セキュリティの確保やプライバシー保護を重視しすぎるためデータの利活用が進んでいないという問題もある。
これらの状況を踏まえ、現在の学校をめぐる状況と課題を解決し、目指すべき次世代の学校・教育現場を実現するにはどうすればいいのだろうか。今回の最終まとめによると、新時代に求められる教育の実現には「遠隔教育をはじめICTを基盤とした先端技術の効果的な活用の在り方と教育ビッグデータの効果的な活用の在り方」「基盤となるICT環境の整備」を着実に推奨していく必要があるとしている。そのために、先端技術・教育ビッグデータ・学校ICT環境それぞれに対して具体的な方策を立て取り組んでいく。まず先端技術に関しては、「学校現場における先端技術ガイドライン」を策定する。教育ビッグデータの分野では教育データの標準化と学習履歴(スタディ・ログ)等の利用活用の具体的な検討を進めていく。そして、学校ICT環境においては、世界最先端のICT環境に向けた世界最高速級の学術通信ネットワーク「SINET」との接続や安価な環境整備に向けた具体的なモデルの提示、クラウド活用の積極的推進などに取り組んでいく。
このように新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)では、今後の取組方策がより具体的に示された。この提言を踏まえ、新時代の学校、子供の学びを実現するための取組は今後加速していくだろう。
経産省による「未来の教室」とEdTech研究会 第2次提言
経産省では、2018年1月から「未来の教室」とEdTech研究会を立ち上げ、デジタル技術を活用した教育技法EdTech(エドテック)を用いて、創造性や課題解決力を育む個別最適化された新しい教育をいかに作り上げるかについて議論してきた。その結果を受け、対象を初等中等教育分野に絞り、「未来の教室」ビジョン(第2次提言)をとりまとめた。この提言では、「未来の教室」に向けた改革の柱として「学びのSTEAM化」「学びの自立化、個別最適化」「新しい学習基盤づくり」の3点に整理し、実現に向けて乗り越えるべき9つの課題とそれに対応するアクションについて具体的に示している。
出典:経済産業省ホームページ(https://www.meti.go.jp/index.html)
具体的に見ていこう。「学びの STEAM 化」とは、1990年代から2000年代にかけて教育改革のキーワードとなったSTEM(Science:科学、Technology:技術、Engineering:工学Mathematics:数学)に、A(Arts: サイエンスに含まれないもの)を加えた造語で、米国、中国はじめ世界の様々な国で進む第4次産業革命等の潮流を意識した教育改革において、非常に重視されている概念である。具体的には、一人ひとりのワクワクを核に、「知る」と「創る」が循環する文理融合の学びの実現を目指す。「学びの自立化、個別最適化」とは、個性や特徴、興味関心や学習の到達度は異なることを前提に、一人ひとりにとって最適で自立的な学習機会を提供していくことである。そして「新しい学習基盤づくり」で、前述2点を実現するためのインフラを整える。
では、どのように「未来の教室」を実現するのか。それには EdTechの活用が不可欠である。まずは子供が1人1台のパソコンを持ち、5G時代に相応しい高速大容量通信を活用した常時インタ-ネットに繋がる学習環境を整備する必要がある。そのために、政府として「1人1台パソコン、高速大容量通信、クラウド活用」の環境を実現するためのロードマップを至急策定すべきとしている。加えて、BYOD(家庭用情報端末の学校での利用)や寄付といった他の手段との組合せも推進されるべきである。通信環境に関しては、各地域固有の通信事情等に応じて5Gを視野に入れた高速大容量通信の環境を実現する必要がある。
「未来の教室」とEdTech研究会 第2次提言では、これらを実現するためのアクションが、超短期・短期(3年程度)・長期に分けて具体的に示されている。アクションを着実に実行し課題を解決することで、これまでの「教室」のイメージを払拭し、インターネットで世界に繋がる、社会に広く開かれた「未来の教室」が実現するだろう。
各ガイドラインを見てもわかるように、新時代の教育を実現するためには学校教育における情報機器充実、クラウド利用等のICT環境整備が重要であると、政府として提言している。2つを比較すると経産省の「未来の教室ビジョン」はより抜本的な改革であると言えるだろう。
これらのガイドラインを踏まえ、各自治体で新時代の教育実現に向けた環境整備が加速することを期待したい。
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参考:
「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」について
http://www.mext.go.jp/a_menu/other/1411332.htm
「未来の教室」とEdTech研究会 第2次提言
https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190625002/20190625002.html
「未来の教室」ビジョン
https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190625002/20190625002_01.pdf