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令和3年度 文部科学白書 GIGA スクール構想の実現による教育の現在地

文部科学省は、令和4年7月19日に令和3年度の文部科学白書を公表した。文部科学白書が、各年度における所管事業等に関する現状の分析と将来の展望をまとめた実状報告書である。令和3年度版は、第一部として東京オリンピック・パラリンピック競技大会並びに新型コロナウイルス感染症禍における文部科学省の取組の特集、第二部に、文教・科学技術施策の動向と展開の2部構成でまとめられている。

本記事では、第二部に報告されている項目の第11 章「 ICT の活用の推進」第一節「教育の情報化」に記載されている、学校ICT環境整備の動向や GIGA スクール構想の展開における新たな問題点とその対策について確認していきたい。

「教育の情報化」の中ではじめに取り上げられている内容は「情報活用能力の育成」である。「情報活用能力」は、現行学習指導要領において、言語能力などと同様に「学習の基盤となる資質・能力」と位置づけられ、各学校におけるカリキュラム・マネジメントを通じて、教育課程全体で育成するものと位置づけられている。

報告によれば、児童生徒の「情報活用能力」の現状を把握するため、令和3年度に児童生徒の情報活用能力の定量的測定のための調査を実施し、令和4年度中に調査結果を公表するとしている。また、分析結果及び一部の問題の公表とともに、各教科において求められる具体的な能力・目安やその育成に必要な指導例等、児童生徒が身に付けるべき情報活用能力を提示するための準備を進めているとしている。


続いて報告されている内容は「プログラミング教育」である。「プログラミング教育」については、平成29年改訂学習指導要領によって小学校段階で導入されることで注目されてきた。小学校の「プログラミング教育」のねらいは、プログラミング技能の習得ではなく、論理的思考力を育むとともに身近な問題の解決に主体的に取り組む姿勢やコンピュータ等を上手に活用してよりよい社会を築いていこうとする姿勢を身につけてほしいことが改めて記されている。

今後、小学校段階での「プログラミング教育」の充実を図るため、文部科学省では「小学校プログラミング教育の手引(第三版)」を公開している。また、文部科学省、総務省、経済産業省の省庁が連携し、民間企業・団体等とともに設立した「未来の学びコンソーシアム」が提供するプログラミング教育ポータルは、「プログラミング教育」の円滑な実施に向けた支援となっている。

引用元:プログラミング教育ポータル


教育の情報化を実現するための教育環境整備は、「教育のICT化に向けた環境整備 5 か年計画(2018~2022年度)」(以下、計画)に基づき、国からの財政措置とともに各自治体で取り組まれてきた。しかし、「令和元年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査」では、計画に示された目標に達することができていないこと、また、こうした状況が、教育におけるICT活用に大きく影響を与えていることも、2018年に実施されたOECD/PISA調査によって明らかとなった。こうした状況がきっかけとなり、令和5年までの義務教育段階における 1 人 1 台端末整備等の「GIGAスクール構想」が示され、1 人 1 台端末整備等の学校環境の充実に向けた取組がスタートした。報告では、当初の計画とは異なり、新型コロナウイルス感染症によって前倒しとなり、令和3年3月末時点で全国の公立小中学校で環境整備が概ね整う見込みであるとしている。

また、令和4年度予算において、実際に端末の活用を始め、見えてきたボトルネックの解消や、ICT 支援人材の育成・確保等を担う「 GIGA スクール運営支援センター」を全国的に整備する費用を計上していることを明らかにした。一方、整備が遅れていた高等学校においては令和4年度内に全ての都道府県で新 1 年生の 1 人 1 台端末環境整備が完了する予定だという。

出典:『教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)』文部科学省


学校には児童生徒1人1台端末をはじめとするICT機器が整備され、ICTの強みを活かした教育活動を実践する環境が整いつつある。こうした状況において、これからの教員に求められるICT 活用指導力の現状はどうだろうか。文部科学省が毎年度実施している調査では、教員の ICT 活用指導力は年々向 上しているものの、「 ICT を活用して指導する力に自信を持っていない」と回答する教員が一定数存在している状況にある。文部科学省では、このような状況を踏まえつつ、教員の教科指導力も含めたICT活用指導力の向上を図るため教育の情報化に関する手引の公表や、教職員支援機構における学校教育の情報化指導者養成研修の実施などに取り組んでいることを報告している。

引用元:「教育の情報化に関する手引き」第4章 教科等の指導におけるICTの活用 P3


新型コロナウイルス感染症は、学校教育の学びを大きく変えることを余儀なくされた。これまで対面を前提としてきた学校教育が実践できない状況において、児童生徒の学びを止めない教育活動「遠隔教育」が中心となり、新たな学習指導要領への移行とは異なる、ある種の教育の大転換が図られた。「遠隔教育」を実践する際の課題は、児童生徒が一堂に会する状況にない中での教育活動としての取り扱いである。報告書では「遠隔教育」を次のように取り扱うとしている。

・(中学校等)生徒の教育上適切な配慮がなされているものとして、一定の基準を満たしていると文部科学大臣が認める場合、受信側の教員が当該免許状を有していない状況でも、遠隔にて授業を行うことを可能とする遠隔教育特例校制度を公布・施行

・(高等学校)全日制・定時制課程における遠隔授業を正規の授業として制度化し、対面により行う授業と同等の教育効果を有するとき、受信側に当該教科の免許状を持った教員がいなくても、同時双方向型の遠隔授業を行うことができる

・(高等学校)遠隔授業を活用して修得する単位のうち、主として対面により授業を実施するものは、36単位までとされる単位数の算定に含める必要はない

ICTで学習環境が変わり、教育活動も「遠隔教育」なども含めた新たな学びの実現が求められている。こうした学びの改革に向けた取組以外でも、学校には高度化・ 複雑化する諸課題が山積しており、教員の業務負担の軽減や働き方改革への対応のひとつである「校務の情報化」が急務である。

「校務の情報化」の進展に向けては、統合型校務支援ステムの導入が必要とされる中で、「令和 2 年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査」によると令和3年3月1日時点での統合型校務支援システムの整備率は 全国平均で73.5 %であることが報告されている。都道府県別の結果は以下のとおりである。

出典:『文部科学白書 第11章 ICTの活用の推進 』P5 文部科学省

整備率が前年度から10%弱増加した結果を受け、統合型校務支援システムの整備を含めた校務の情報化がより積極的に進んでいるものと推察できる。

今後GIGAスクール構想が進展し、1 人 1 台端末の活用が促進されていく中で、学校における働き方 改革を進めていくための校務の情報化のあり方や、校務系システムのデータと他のシステム との連携の可能性等に関する方向性を示すため、 GIGA スクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議(以下、専門家会議)を立ち上げ検討を進めているという。今後、専門家会議における議論・検討事項について注視していきたい。


GIGAスクール構想によって、児童生徒の学びが時間や空間を限定せずに、児童生徒個々が自由に学ぶことができる状況となった。こうした児童生徒の学びをデータ連携し、児童生徒個々の学習進度に適した学習支援「個別最適な学び」を実現するためには、あらゆる教育データが紐づき、関連付けられていくことが必要となる。「教育データの利活用に関する有識者会議」は、教育データを効果的に利活用するために必要となる様々な論点について議論する場である。報告では、令和3年3月に公表された論点整理(中間まとめ)の内容に触れており、、教育データを個に応じた学習支援や分析に利用するためには、教育データの意味や定義を揃える「標準化」が必要であり、標準化により様々なデジタルコンテンツの連携が可能になるなどメリットがあることを強調している。

文部科学省は、この論点整理(中間まとめ)に先駆け、教育データの利活用の円滑な促進に向け、令和2年度に、に「文部科学省教育データ標準」(第 1 版)として、学習指導要領の各内容にコードを付す「学習指導要領コード」、全国の学校に番号を付す「学校コード」を公表している。またその翌年は、児童生徒、教職員、学校等のそれぞ れの属性等の基本情報(主体情報)等にコードを付した「文部科学省教育データ標準」(第 2 版)を公表、さらには、学習ソフトウェア間のデータの相互運用性を確保する観点
から「学習eポータル標準モデル」の策定など文部科学省は教育データの標準化に向けた取り組みに力を入れている。

出典:『教育データの標準化 』P8 文部科学省

GIGAスクール構想によって学校教育のデジタル化が進み、教育におけるDXの推進も加速している。令和2年から開発を進めている文部科学省 CBT システム「 MEXCBT(メクビット)」は、全国の学校等で共通利用できる基盤なる仕組みとして既に運用がスタートしており、令和4年7月時点で約 1万校、約315万人が登録し、授業や家庭学習において活用されている。また、これまで様々な調査方法で実施されてきたアンケート調査の統一化を図る調査システム「EduSurvey」の試行的な導入がスタートしている。「EduSurve」は学校等が回答したアンケート調査結果の自動集約を可能とするものであり、調査負担の一層の軽減及び効率的な調査を実施できる仕組みとして期待される。

出典:『文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)について』P16 文部科学省

インターネットをめぐるトラブルに関しては、児童生徒へのスマートフォンや SNSが急速に普及し、トラブルや犯罪に巻き込まれる事例が発生していることを踏まえ、学校における情報モラル教育の推進が求められている。教育現場では、インターネット利用に伴う犯罪被害の防止の必要性や、児童生徒の発達の段階に応じて情報や情報技術の特性についての理解に基づく情報モラルを身に付けさせるよう学習指導要領に定められている。文部科学省は子供たちが情報モラルについて学習できる情報モラル学習サイトを作成、教員等にはセミナーを実施することにより、情報モラル教育の一層の充実を図ることとしている。

引用元:情報モラル学習サイト

GIGAスクール構想によって学校の教育環境は大きく変化し、これからの社会を担う児童生徒に必要な学びの実現に向けて先生方は試行錯誤を繰り返している。また、新型コロナウイルス感染症を起因とする様々な社会課題がある中で、学校教育における課題も多様化・複雑化している。令和3年度文部科学白書からは、教育における諸課題の解決策や、更なる教育の充実に向けた対応策等、文部科学省としての施策や取組などを読み取ることが確認できた。今後の各自治体、学校における教育の進展・推進に向け参考としていただきたい。

株式会社エデュテクノロジーでは、学校教育における学習用端末を含めたICT機器の環境デザインやICT機器の有効な活用マニュアル等のハード設計から、ICTの強みを活かした授業デザイン等のソフトウエア設計までトータルに支援する ICT コンサルティング事業を提供している。株式会社エデュテクノロジーは、長年培った経験とノウハウで、これからも「 ICT や情報・教育データの利活用」に向けた学校、教育委員会へのサポートを行っていきたいと考えている。

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