経済学101

経済学101は経済学に基づいた分析や論説をオンラインで無料提供することを目的として設立された一般社団法人です。 主に海外の経済学者、研究機関と提携し、英語・フランス語の論説の翻訳も提供しています。 本サイトURL:https://econ101.jp/

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最近の記事

ノア・スミス「高学歴専門職階級はアメリカの現実から遊離してる」(2024年11月10日)

「俺が,現実離れ?」 「いや,現実離れしてんのは,大学院も出てない連中の方だろ」 トランプ勝利から得られる教訓その三先週の共和党大勝利選挙から民主党が学ぶべき教訓について書いてきた.一本目では,アイデンティティ政治ではヒスパニック系有権者に訴求できていない件をとりあげ〔日本語記事〕,二本目では,民主党が雇用ばかりを気にしすぎてインフレへの注意がおろそかだったことを語った〔日本語記事〕.そして三つ目は,アメリカの階級についての教訓だ.高学歴専門職階級は,他の同胞たちから遊離し

    • ノア・スミス「アメリカ人は失業を嫌がる以上にインフレを嫌っている」(2024年11月8日)

      トランプ勝利から得られる教訓その二ご心配なく.ドナルド・トランプの大統領選勝利からうまれる帰結については,いずれたっぷり書くつもりだ.いまは,今回の結果から民主党が――そしてみんなが――学べる教訓に集中したい.すぐさま思いつくのは,次の3点だ: アイデンティティ政治(帰属集団本位の政治)では,人種集団を同質の「共同体(コミュニティ)」ととらえて,集団としての苦情に訴えるべく照準を合わせる.でも,アイデンティティ政治は,ヒスパニック有権者を勝ち取るのに効果的な方法ではない(お

      • ノア・スミス「この大統領選から学べること:アイデンティティ政治は機能していない」(2024年11月7日)

        トランプ勝利からえられる教訓その一まあ,ご存じの通り,ぼくが好むような結果にはならなかった. 前々からあけすけに語っていたように,「トランプはアメリカにとってロクでもない選択肢だ」とぼくは考えているけれど,アメリカ人がこういう選択を下したのは否定しようもない.目下,トランプは,激戦州(スイングステート)すべてを勝ち取る見込みだ.全米のあらゆる郡で,2020年の実績を上回る結果を見せている.一般投票でも過半数を獲得すると見られている――共和党にとって,2004年から実に20年

        • ノア・スミス「雑居ビル:商業地区をつくるもっと優れたやり方」(2024年10月21日)

          そろそろ,“zakkyo” を学ぶ頃合いだね今回の記事は,もともと X での連続投稿だった.ところが,これを気に入る人たちがたくさんいたので,ブログ用にまとめ直した方がいいなって考えた.主題は,日本の都市だ――とりわけ,大半の他国にはない日本ならではの小売りスペースの形態について語る. ぼくは大勢の都市計画専門家たちとつきあいがある.だいたい都市計画の人たちは,複合用途の都市開発が大のお気に入りだ――戸建て住宅や集合住宅とお店やレストランが共存しているあり方を,彼らは好んで

        • ノア・スミス「高学歴専門職階級はアメリカの現実から遊離してる」(2024年11月10日)

        • ノア・スミス「アメリカ人は失業を嫌がる以上にインフレを嫌っている」(2024年11月8日)

        • ノア・スミス「この大統領選から学べること:アイデンティティ政治は機能していない」(2024年11月7日)

        • ノア・スミス「雑居ビル:商業地区をつくるもっと優れたやり方」(2024年10月21日)

          ノア・スミス「でっかい問いにノーベル賞:アセモグル・ジョンソン・ロビンソンについて」(2024年10月15日)

          アセモグル・ジョンソン・ロビンソンの3人が,経済発展の大統一理論で受賞毎年,ノーベル経済学賞が発表されるたびに,このブログで記事を書いてる.ここ3年だと,2023年のゴールディン,2022年のバーナンキ・ダイアモンド・ディブヴィグ,2021年のカード・アングリスト・インベンスについて,記事を書いた.でも,今年は書かずにすませようかとも思った.なぜって,実は今年の賞についてぼくはあんまり面白く思ってなくて,それでみんなをしらけさせるのはイヤだったからだ.とはいえ,かつては主流マ

          ノア・スミス「でっかい問いにノーベル賞:アセモグル・ジョンソン・ロビンソンについて」(2024年10月15日)

          ノア・スミス「習近平 vs. マクロ経済学」(2024年9月15日)

          マクロ嘲るべからず,でございます閣下 ここしばらく,中国経済について書いてなかった.〔アメリカの〕選挙ネタばかりひっきりなしに書きつづけるのをいったん中断して,そっちの話もしようか. このところ,英語圏メディアで中国経済に関して議論されてることは,たいてい,《第二次中国ショック》の話だ――中国製製品の輸入が洪水のようにおしよせてる件が,もっぱら議論の的になってる.でも,中国国内では,それとまるっきりちがう話がさかんになってる――長引く不況の議論だ.中国のオンライン応援団た

          ノア・スミス「習近平 vs. マクロ経済学」(2024年9月15日)

          ノア・スミス「反ネオリベラリズムじゃ足りない」(2024年8月29日)

          悪者叩きは,ものになる新しい政策プログラムの代替にはならないよマット・イグレシアスが「ネオリベラリズムとその敵たち」について記事を連載している.ぜんぶ通して読むのをぜひおすすめしたい.その第1部で,イグレシアスはこう論じている――1980年代に「ネオリベラリズム」への劇的な転換が起きたと広く信じられているものの,実態ははるかに限定的で,反経済成長の NIMBY志向〔「うんうんゴミ処理場は必要だよね,でもうちの地域には作っちゃダメだよ」〕の台頭の方がよほど影響が大きかった.第2

          ノア・スミス「反ネオリベラリズムじゃ足りない」(2024年8月29日)

          ノア・スミス「マドゥロとチャベスはいかにしてベネズエラ経済を難破させたか」(2024年8月1日)

          一国を担う身としてしちゃいけないことつい先日,ベネズエラで選挙があった.ベネズエラで長期にわたって大統領の座にあるニコラス・マドゥロが勝利宣言をしたものの,投票結果を不正操作したと広く信じられている.また,野党は,実際の得票数では決定的過半数を自分たちが獲得したと主張している.マドゥロ勝利を承認した国はごく一握りしかないし,その面々も心強くはない――中国,ロシア,イラン,北朝鮮,シリア,キューバ,ニカラグア,ボリビアという国々だ [n.1].ラテンアメリカ諸国の大半では――政

          ノア・スミス「マドゥロとチャベスはいかにしてベネズエラ経済を難破させたか」(2024年8月1日)

          アダム・トゥーズ「ドイツにおける右派の揺れ動きを分析する:極右政党AfD(ドイツのための選択肢)躍進の背景にあるものとは何なのか」(2024年9月1日)

          旧東ドイツのテューリンゲン州とザクセン州の地方選挙で右傾化が進むことは、以前から予測されていたことだ。これは、旧東ドイツと西ドイツの間での格差が拡大していることを裏付けるものであり、すでに今年の夏の欧州議会選挙で露骨なまでに顕になっている。 ドイツで9月1日に行われた地方選挙で、テューリンゲン州、ザクセン州での投票率は74%近くに達した。これは、旧東ドイツの有権者が既存政党に不満を持っているとしても、民主主義を見限っていないことを示している。 テューリンゲン州では、急進右

          アダム・トゥーズ「ドイツにおける右派の揺れ動きを分析する:極右政党AfD(ドイツのための選択肢)躍進の背景にあるものとは何なのか」(2024年9月1日)

          アダム・トゥーズ「アメリカの移民危機」(2024年7月11日)

          アメリカ合衆国の選挙に影響を与える実質的な争点はそう多くないが、その中でトップが移民問題だ。「国境の危機」は選挙での主要なテーマとなっている。これは、合衆国の国境沿いで国境警備員と移民との軋轢が劇的に増加している事実の反映でもある。2023年12月19日の1日間だけで、過去最多の12,000人の移民が許可なく合衆国・メキシコ国境に到着している。 2024年の世界移民報告書でも確認されているように、合衆国・メキシコ国境は、国家をまたいで移民が移動する単一回廊としては世界最大だ

          アダム・トゥーズ「アメリカの移民危機」(2024年7月11日)

          ジョセフ・ヒース「ジョン・ロールズと西洋マルクス主義の死」(2024年8月25日)

          その昔,まだ私が学部生だった冷戦末期に,政治哲学で最高に熱い事態が起きていた.それは,英語圏でのマルクス主義の力強い再興だ.その仕事の大半は,「分析マルクス主義」という旗の下で進められていた(別名「たわごと無用のマルクス主義」ともいう).その発端となったのは,ジェラルド・コーエン『カール・マルクスの歴史理論:その擁護』の出版だ(あと,同書出版後にコーエンがオックスフォード社会政治哲学のチェリ講座教授に就任したこと).一方,ドイツでは,ユルゲン・ハーバマースの素晴らしく小さくま

          ジョセフ・ヒース「ジョン・ロールズと西洋マルクス主義の死」(2024年8月25日)

          ノア・スミス「新しい進歩派の経済学: 建設的な批判を少々」(2024年7月29日)

          総需要不足に頼らない経済学への進歩的アプローチが必要だ「ネオリベラリズム」とこれを変えたがっているアメリカの進歩派たちについて,マット・イグレシアスが一連のとても興味を引く記事を書いている.最初の記事で,イグレシアスはこう論じている――ネオリベラル政策革命は,圧倒的で広範囲に及んだと多くの進歩派たちは考えているようだけれど,実際にはそれよりずっと限定されていた(イグレシアスの主張は正しい).2つ目の記事での主張はこういうものだ――アメリカの旧来の対中国貿易政策にあった最大の問

          ノア・スミス「新しい進歩派の経済学: 建設的な批判を少々」(2024年7月29日)

          ノア・スミス「ベーシックインカムとAI失業: うん,ぼくらはまだまだ働かないといけないみたい」(2024年7月25日)

          自動化の進んだ優雅な楽園は,いまだに SF でしかない今週のニュースまとめ記事では,ベーシックインカムの実験から得られたがっかりな結果に注目した〔日本語記事〕.〔3年間にわたって〕1ヶ月ごとに 1,000ドルを受け取ると,その人たちの 2% は働くのをやめてしまう.これは顕著な数字だ.だって,一月に1,000ドルでは自立した暮らしを成り立たせるのに足りないからね.この研究結果から,もっと大規模な国民皆ベーシックインカム (UBI) を実施したらさらに大きな割合の人たちが働かな

          ノア・スミス「ベーシックインカムとAI失業: うん,ぼくらはまだまだ働かないといけないみたい」(2024年7月25日)

          アダム・トゥーズ「ガザ: ネタニヤフの《経済的平和》という夢想のような経済地理構想の現実的な役割」(2024年5月23日)

          正直に白状すると,はじめて上記の画像を見たときには,「なにかのでっち上げ画像だろうか」と思った. 天を突く高層ビル,太陽光発電所,コンテナ船,洋上の石油採掘施設――生成 AI で出力した都市・地方集住地の理想像で,集中管理された豊かな都市国家が描かれている.シンガポールかアブダビのような様相を見せるこの図像には,しかし,具体的にどことわかる見知った感覚はあまりわいてこない. だが,これはインチキ画像ではなかった.これは,2035年のガザ地区の図像だ.イスラエルのネタニヤフ

          アダム・トゥーズ「ガザ: ネタニヤフの《経済的平和》という夢想のような経済地理構想の現実的な役割」(2024年5月23日)

          サイモン・レンルイス「量的緩和が質的に重要であって量的にさほど重要でない理由」(2024年5月21日)

          最近,量的緩和 (QE) がどんなところで重要な役割を果たしたかについて2つほど記事を書いた.たとえば,こちらの記事では,量的緩和が政府財政に大きな穴を開けることになりうる理由について書いた.また,政府がその気になれば国債を売るのではなく貨幣創出によって容易に財政赤字のお金を調達できることが量的緩和からどうわかるのか,という点についても書いた.今回の記事では,量的緩和が質的に重要である理由を解説する. この10年のあいだに書いた記事のひとつも,類似の主題に関わっていた.緊縮

          サイモン・レンルイス「量的緩和が質的に重要であって量的にさほど重要でない理由」(2024年5月21日)

          ノア・スミス「書評:ブラッドフォード・デロング『20世紀経済史――ユートピアへの緩慢な歩み』」(2022年6月12日)

          出版前の本の書評を書くのは,これがはじめてかも! ありがたいことに,ポッドキャストのホスト役をいっしょにやっているブラッド・デロングの近刊を一冊確保できた.出版予定日は9月6日だ.それまでの場つなぎとして,高まってるみんなの期待をこの書評で支えられたらいいなと思う. ブラッド・デロングは現在経済史に関して百科事典のように通暁してる.それでいて,読者をおじけづかせない文体の書き手でもある――かく言うぼくが経済学ブロガーになりたいと思った最初のきっかけは,2000年代中盤に彼の

          ノア・スミス「書評:ブラッドフォード・デロング『20世紀経済史――ユートピアへの緩慢な歩み』」(2022年6月12日)