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それ、出来ない人じゃなくて、教え方が合ってないのかもしれないよ、という話



はじめに

こんにちは。看護師歴17年のecoです。今回は私がある程度キャリアを積んでから全くの別分野である手術室へ異動した時のお話です。長いので何回に分けて投稿していきます。

私は集中治療室で教育担当者でした。指導者としてのキャリアも積み、教育者研修をうけ、指導に対してもある程度自信を持っていました。そんな私がいきなり右も左もわからない状況に置かれ、暴言を吐かれたり、理不尽な扱いを受け、苦しみました。今までのキャリアが全く活かされない経験をし、あぁ、その人を活かすも殺すも教育者や環境次第なのだな、と心の底から感じました。そして、今まで自分が関わってきて嫌な思いをさせてきた看護師たちに申し訳ない気持ちになりました。分かってあげられなくて、自分の中で彼女や彼らに対しての理解が少なかったから結果が出なかったのだと痛感しました。自分の立場が弱くなって初めて新人看護師や、中途採用者の気持ちを理解することができました。

以前何かの本で読んだことば

「部下が出来が悪いと話している人は自ら能力がないことを他人にさらしているようなものだ」と。

つまり、その人を活かしきれていない、あなたの能力が低いのですよ。その人に合った方法で教育が出来ていないのですよ、ということです。

今ならその意味がひしひしとわかります。

人はそれぞれ違います。確かに指導を受ける看護師の中にもどれだけ教育方法を変えてもなかなか良い方向に改善しないことがあります。でもそんなときにも、少なくとも一方的に指導を受ける側のせいにしないでください。「出来ない」ではなく、そのやり方が「合っていない」だけです。

これを読んでくださった方が、少しでも自分の教育方法や関わり方がその人に合っていなくて、その人を活かしきれていないのかも…と思ってくれたら、私はこの記事を書いた価値があると思っています。そして、今指導を受けて苦しみの真っただ中にいる方たち、あなたたちは決して出来ない人ではありません。やり方が合っていないだけです。

どうかこの記事を読んで何かのヒントになれば幸いです。


看護師16年目のある日、手術室へ異動。

看護師16年目のある日、師長さんから手術室への異動を言い渡された。え、無理でしょう。今更手術室…。でも、興味はある。手術できるようになったらキャリアも上がるし、かっこいい。でも不安…

そこは今までの経験がほぼ生かされないといっても過言ではないところだった。

異動日初日、とってもベテランのスタッフAさんが私の教育係だとご挨拶をしてくださった。手術室看護師歴20年以上。良い人そうでよかった。なんて思ったのは束の間。手術室というのは仕事中は人格が変わるらしい。


仕事を教えてもらえない。自分でいっぱいいっぱいなAさん。

そのベテランスタッフAさん、見て覚えろタイプなのか、全く教えてくれない。…いやいや、わたし、手術室の一日ようわからんて。今から何をするんじゃい。仕方ないから聞く。どうやら今からAさんに引っ付いて、整形外科手術を担当するらしい。だったら少なくとも今から自分に付いてこい、とか、みとけ、とか言ってほしい。なんも言わずに一人で準備している…。私完全な放置プレイ。今日初日ですよ?一緒に異動してきた同期は他の先輩に丁寧に教えてもらっている。う~ん、私、はずれか??


手術室での看護師の役割は、直接医師に器械を渡す(メス…とかドラマで見るアレですね)器械出し(直接介助)と、外回りを担当する間接介助の2名で行います。

Aさんは今日は外回りなので、私はこの人の動きを1日学べばいいのだな。そんな感じで自分なりに学習目標を無理やり妄想していると患者さんが手術室玄関に入ってきました。

「おはようございます。お名前をお願いします」手首に巻いているリストバンドとともに患者本人に名乗ってもらう。確認がとれると、長い廊下をストレッチャーで移送。どこの部屋で手術をするのかは不明だ。(それすら教えてもらってないし、それをどこで確認したらいいかもわからなかった。今思えばほんとひどいわ~)

患者さんも緊張しているので、お話ししながら手術室の中へ。手術をする部屋まで麻酔科、看護師らが付き添い移送する。Aさんもストレッチャーを押している。

するといきなりAさんが「もう!早よ扉開けて!!!!」

わお、いきなりヒステリック!!!

私に向かって怒鳴っています。

え、扉?あ、あれのことか、あれの奥に今から行くから走って行って開けろということだな。

とにかくびっくりしたけど、後ろからストレッチャーが迫っているし、足でコツンとやって開くタイプですぐ開けた。

間に合った。ふぅ。にしても何なんだあの人。人に仕事も教えない割には言い方は雑だし、ましてやあなたと私は今日が初対面なんですけど。それに、そんなに焦るような状況でもないのに、その言い方は失礼では?はい、正直腹立ちました。


いよいよ手術室の中へ

そのあと患者さんはストレッチャーのまま手術室の中へ、いよいよ準備が始まります。右手は血圧測定、左手は点滴を留置。それを一人の看護師が介助し、もう一人の看護師は気管内挿管の準備と、おしっこの管を入れる準備をします。(担当が決まっているらしい。これもすべてあらかじめ説明もないので、全部見てメモしました)この時の動きが本当に速かったです。それが終わると麻酔科が「麻酔かけますね」と患者の口元にマスクをあて、それから麻酔薬を点滴から投与。すると数秒であっというまに麻酔がかかり、気管内挿管、尿道カテーテル挿入。その後患者さんを皆で手術台によいしょと、「ごろりんこ」します。さっきまで仰向けだった患者さんをうつぶせの状態にするのです。背中から手術するのでそんな体位です。

自分も一応手を出しながらすんげ~。と思っていると今度はベッドから体が落ちないよう、神経障害が起きないような体位で固定します。それが終わったら医師が手洗いに行きます。その間に器械類を開き、消毒、生理食塩水、医師の滅菌手袋など準備、そうこうしているうちに手洗いが終わった医師達が入ってきます。ガウンを着せ、終わった医師から術野の消毒です。まだこっちが他の医師のガウンを着せていて、バタバタですが、足元にゴミ箱がない場合は床に容赦なく消毒後の綿球をぼとぼと落とし、消毒用の鉗子も落とします。全て医師のペースです。それが嫌ならはじめっから近くにゴミ箱を寄せて置けということです。私は最初、これが理解できなくて、なんだか自分は医師のしもべ(言葉悪くてすみません)になったような気持ちがしてしばらく受け入れられませんでした。とにかく今までの医師と看護師の関係とあからさまに違って戸惑いました。

計5人の医師のガウンを着せ、直接介助の看護師のガウンを着せ、間髪入れず消毒後ガーゼを床に這いつくばって広い、すべてのガーゼをカウントします。それが終わったらやっとタイムアウト(事故防止の為、手を止めてチームで今回の手術について確認する作業。患者氏名や手術名の確認や手術予定時間を確認する)もうここまでほんとにバタバタ。もう、吸った息が吐けないほど。「ではお願いします」手術開始のボタンを押す。それが終わって、やっと「はーーーー」と息が吐ける感じ。いや、間接看護師の仕事量と速さが半端ない!

やっぱり余裕のないAさん

Aさん、そりゃ説明しとる時間はないが、わからん私に対して「早く、体位固定して。違う、そうじゃない!こう!」とか、めっちゃ怒ってた。いや、知らんし。事前にオリエンテーションなしてここに関わらせるのは無理だって。せめて初回はまるまる見学にしないと仕事も覚えられんと思う。(いや、ほんとはその予定だったはずらしいですが、Aさんがそれを守っていなかったということが後で判明)

手術が始まってからはAさん無言。無言でひたすら事務作業している。あなた、全く教える気がないのね!

初日にしてかなり、嫌な気分になったけれど、横目で何やっているのかを盗み見ながらメモをとる。さっきの手術前の一連の動きも今のうちにメモする私。ううう…。


被害をうけるのは常に弱い立場の人

そもそも、異動は初めてじゃないし、こうなることぐらい予測は出来た。どこの部署だって看護師は忙しい。自分の仕事も回らないのに、新しい看護師に教えながら仕事をするのは困難だ。だから、まずは手術室の本を買った。自己学習だ。新人さんが読むやつ。異動する前に、勉強しておいた方がいいことを手術室の主任さん(管理職で役職は師長の次)に確認をとると「そんなことする必要ないってー。来てから学べばいいから」笑いながらそんなこと言われて信じた私が悪かった。この主任さん、この後も相談してもいつもあしらわれていた。

現実はこうである。

いくら部署のトップがそういっても、実際に患者さんや新人看護師に接するのは現場の看護師である。

一体ここの手術室の教育スケジュールはどうなってんだ??そもそもあるのか?異動してきた看護師に対しての関わり方なんてないんじゃないの?

初日から暗雲が立ち込めていたが、それは序章に過ぎなかった。


片付けの方法がわからない

無事に手術が終わり、患者さんを送り出した。何の説明もないため、流れは全てメモする私。終わってから何をしたらよいかもわからず、Aさんは自分の書類を片付けており、私は常に放置プレイ。周りの人はそんな私には目も止めず、自分の仕事を黙々としている。えっと、今日は何をする日だったんだろう?

さすがに口がありますので、聞いてみた。何をしたらいいですか。手伝えることを教えてください。そしたらAさん、「片付けして」

片付け…。見ると真ん中には汚染した器械類…それを直接介助の看護師がカウントしている。ベッドの上には汚れた紙シーツとクッションと、周りにはゴミ箱がいっぱい。麻酔器の所には使用済みの薬剤がそのまま。机の上には書類なのか、ゴミなのかわからんけど紙が置いてある。

うーむ。片付けるにも方法があるのだな、と実感した日だった。何したらいいか全くわからん。分からないからこそ、迷惑になるといけないから怖くて手が出せない。

今までの新人さんや中途採用者さんはきっとこういう気持ちになっていたんだろうな。それなのに、なんでわからないなりにやろうとしないの?とか思っていたことが恥ずかしい。

とりあえず、ゴミ箱に入っているのは捨てていいやつだろうから…と片付けようとしたら、専門の清掃業者さんがいるようで、その方たちが持ち去っていった。

ガーン、あたしゃもう、何やったらいいかわかんないよ。(というか、そんなAさんに対して関わる事がストレスで話しかけるのも嫌気がさしていた。)

もっと具体的に指示してください。困ります。

何やら自分の仕事が終わったAさんが来て、片付けを教えてもらった。(正確には何も教えてくれないから全て自分が質問した)


翌日は呼吸器外科で肺がん手術の外回りを担当するため、今から準備をする、とAさん。「私が準備するからみといて」珍しく指示が入った。そうか、この人は自分が何かやっているときはキャパがないから指示が出来ないのか。まぁいいや。多分次は私が準備することになるんだろうから、しっかりメモしておこう。しかし物が多いな!しかもいろんなところからかき集めて。こんなん覚えられるか!セット化しないの??

準備が終わったので、今日の事を確認したいです、と声をかけると「ごめん、用事あるからさ、また今度ね」と言われAさん帰宅。いや、そりゃわかるけどさ、それすらないの?あんた私の教育担当でしょ。休憩室では同期が丁寧に先輩から今日の事のフィードバックを受けていた。

やっぱ私ハズレだ。


理不尽な扱いについにキレてしまった

初日にして散々な扱いをうけたけど、こっちも大人です。自分が中心で世界は回っていないことも分かっています。が、大人に対する言葉遣いではないのはずっと気になってはいました。怒鳴っている人が多すぎ。「違う、早くやって!そうじゃなくて!」など失礼な言葉遣いで言ってくる人が周りに多かった。それでも新人として迷惑がかかる存在なので、耐えていました。しょうがいない、と思って。でも、一応自分も元教育担当者として自負があったし、彼女らの私に対する扱いが良くないことは解っていた。ただ、だいぶストレスは溜まっていた。

そんな中。事件は起きました…。

今日は呼吸器外科手術の担当。前日、Aさんに「当日の朝一緒に準備しようね」と言われ早めに出勤する。すると既にAさんが出勤しており、手術物品の準備をほぼ行っていた。

私を見るなり、はぁとため息。「あんたさぁ、準備するって言ったんだから、もうちょっと早くこんと」はぁ、そりゃもうしわけないけど、何時に来いと具体的に指示してくださいよ、と思った。一応「すみません」と言ってから「私もそう思ってこのくらいの時間に来たんですが甘かったです、すみませんでした」とちゃんと考えを言った。言わないとこっちの事を理解されないので、言い訳に捉えられようが、自分の考えはきちんと言った。それぐらい、言いたくなるような扱いをたくさん受けていて、私も我慢の限界に近かった。そういうときも、全てこちらのせいになる。指導者は具体的に指示してほしい。相手は全く状況の読めない新人です。


準備は他にもある。全身麻酔の場合、気管内挿管物品の準備や、A-ライン(動脈に直接カテーテルを挿入して、数値化したものがモニターに表示され術中の血圧のモニタリングに使用するライン)の準備を行う。これらをここの手術室では「全麻(ぜんま)の準備」というらしい。そんなものも説明を受けていないので知らなかった。

ほぼAさんが全て手術に必要な物品を用意し、本日の手術部屋に入って室内の準備に取り掛かる。すでにもう一人、今日直接介助役の看護師Bが中にいた。Aさんが準備を進めているとどうやらある物品が足りないようで、Bが私に「全麻の用意して」すごい低い声で押さえつけるように言ってきた。(全身麻酔の用意はわかるけど、何を準備したらいいのかなんて説明受けてないからわからん。しかも何であんたに吐き捨てるようにため口で言われないかんの。正直腹立つ。)

分からないため、「全麻の準備って気管挿管の準備でいいですか」と聞いたらBが「全麻は全麻でしょ!!」と食って掛かってきた。むかついたので、しれっと冷静に「その内容についてはまだ説明を受けていないので確認で聞きました。わからないので、教えてもらえますか」と言った。「え!」と驚きAの方をみるB。そうなんだろうな、それって多分他の人たちはもう教えてもらっている事なんだろうな。Aさんに対して怒りを覚えた。

全麻セットの内容を説明してもらうとすぐにもってこれた。「Aライン準備して」Bに言われ準備はすんなりできた。当たり前だ。集中治療室で毎日行っていたから問題なかった。それを専用のホルダーにつけ、モニターと接続し、大気圧開放(ゼロ校正)という操作をして完了。ただ、機械が集中治療室のものと少し違って、ゼロ校正の方法が違ったので一応「これでいいでしょうか」とBに確認した。

するとBが「え?ゼロ校正の方法も分からないの?!やってたんじゃないの?」と大きな声で言い始めた。もうすぐ患者さんの入室時間。そこにはもう、ちらほら麻酔科の先生やら集まり始めていた。私たちが大きな声を出してワーワー言ってるのに、普段の事なのか、対して気にしている様子がなかった。

「こうやって、蓋を開けて…!」とBが説明し始めたのと同時に私の中の怒りのバロメーターが崩壊した。(さっきからこっちが下手に出てりゃ調子に乗りやがって、な感じである。)

「あの!!!!!Aラインのゼロ校正の方法は毎日やっていたのでわかります!ただ、ここの機械を操作するのが初めてで、正しい方法が分からないから、確認をしているだけなのに、なんでそんな言い方をされなければいけないんですか!」体はわなわなと怒りに震え、冷静に伝えたが声もものすごく震えていた。気が付いたら大粒の涙が流れていた。多分、すごい怖い顔していたと思う。

言い方や態度が気に入らなかった。どうして、そんなにも知らない相手に失礼な態度がとれるのか。人間性を疑った。そんなにグダグダ言うならきちんと教えろ!

そんな私をみて、AさんもBも驚いた顔をしていた。その場がシーンっと一瞬なった。Bは「それでいいです…」と敬語になった。(ちなみにその後もずっと敬語になった)そのあとAさんが「じゃあ一緒にこっち来て。今から入室だから」という声で私たちは玄関ホールで患者さんがくるのを待ち構えた。

初めて怒りで涙が出た。それぐらい屈辱的な扱いを受けた。


Aさんの態度が豹変

そのあとのことはあんまり覚えていない。ただ、1つ覚えているのは休憩に入るとき、廊下でAさんが私に話しかけてきた。「ごめんな、あんたがあんな思いしてたなんて」は?と思ったけど「私はここにきて何をしたらいいのかが分かりません、だから教えてください。やれるようになりたいんです。経験はあっても初めての部署でここでの正しいやり方がわからないんです!だから確認しているだけなのに、あんな言い方されたら腹が立ちます!」はっきりと言った。そしたら「わかった。ごめんな。教えるから。今からごはん一緒に食べよう」そう言われたけど、感情的になっている自分を到底受け入れてくれるスタッフなんて一人も思い浮かびませんでした。「いいです、あんなところでみんなと一緒に食べたくないです!」とはっきり言って自分は食堂に食べに行った。もう限界でした。

普段人に対してキレる事のなかった私がこんなことになるなんて。自分が一番びっくりした。そこまで追い詰められたのだ。

この事件があってからは何かとAさんが私を気にかけるようになり、指示を具体的に示してくれるようになった。やっとスタートラインに立てた気がした。

がっかり

どうやらBが師長や補佐にこの事件を報告したらしい。心配した補佐が面談をしてくれたが、そこでの内容は「ま~Aさんはそういう人だからね~」と言われた。どうやらAさんは教育担当としてはあまり頼りにならない人材で、トップの二人や、他のスタッフも手を焼いているらしい。「私も言ってるんだけどね~」っていやいや…あんたの苦労話を私に聞かせてどうすんねーーーん!補佐が教育担当の責任者であるのに、いちスタッフに対して指導をせず、「しょうがないからうまくやっっちゃって(我慢して)」みたいなことを私に言ってきたのだ。

うーーーん。私って、かなりやばい部署に異動しちゃったんだな。こんなんがトップなんて…ダメだこりゃ。





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