読書記録:VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた6 (ファンタジア文庫) 著七斗 七
【憧れの伝説は終焉していき、その想いを引き継ぎ、新たな舞台へ】
VTuberの黎明期を支えた星乃マナの引退により、若い世代の淡雪達にスポットがあたる物語。
ライブオン黎明期に、VTuberの礎を作ったマナ。
光輝くその才能に魅せられ、淡雪達は尊敬の念を持ちながら、その背中を追ってひた走った。
コアなネタを繰り広げながら、既存のリスナーも大切にする精神。
それらを教えてくれたマナから託されたある依頼。それは、新たな家族を大切にするという事。
これから時代に爪痕を残し、数多の人々に愛されていく為に。
伝説VTuberの「引退」をきっかけにもう一度、自分と向き合うことになった淡雪。
自分のルーツとなる「家族」という存在。
今まで、淡雪の家族の影も形も見えない現実だった。
それは、無意識に淡雪が避けていた話題。
期せずして、有素の家族と関わる中で、自分の逃げていた物に向き合う事となる。
伝説の退場によって、いつになく空気が湿っぽくなる中で、淡雪は本日も配信に励んでいく。
ライブオンのメンツが集うワルクラの配信をしたら。
家の前で聖と晴がSMプレイをしていたというカオスな状況から始まって、ネコマの闇の職業を目撃したり、シオンの仄暗い一面を垣間見てしまったり。
そんな中、雑談配信で何気なく読んだお便りに、「家族」いうワードがあり、無意識に避けていた嫌な記憶が蘇る。
更には、星乃マナサイドからの卒業配信へのお誘いが届いてくる。
困惑しつつもひとまずは、飲み込んで。
ライブオン全員でのコラボ配信に挑戦する中で。
淡雪は悪夢のような家族にまつわる過去を思い出していく。
それは自分という存在が家族の形を歪ませていた事。
実の両親から目の敵にされて、疎まれていた。
そして、自分なりにその状況を何とかしようと離れてみたら、改善の兆しが見られる。
ようやく、家族と和解して仲直りしようとした束の間、大切な家族を不運にも事故で亡くしてしまう。
普段の淡雪の明るさからは想像も出来ないシリアスでヘヴィーな過去。
失って哀しい想いをするくらいならば、もう家族なんて望まない、その筈だった。
しかし、呼び覚ました呪いは淡雪の心に絡みついていく。
「家族」とは一体、何なのか?
そんな自問自答の中で、星乃マナとの配信の最中で。
淡雪のファンだと言ってくれたマナが、淡雪を推してくれたのかという理由に触れていく。
それはそこに、独特のおおらかな温かさがあったから。
まるで家族のような慈しみと、和気藹々とした賑やかさの中で、どんな自分でも肯定してくれるような愛を感じられたから。
家族とは、いざ思い返した時に、その大切さをしみじみと気付く物。
振り返る、皆との笑いと涙の想い出の日々。
チャットを通して届く皆の等身大の声。
それに気付いた時、自分の身体を縛る茨には大輪の花が咲き乱れる。
そう、気付かなかっただけで淡雪はもう手に入れていたのだ。
深い絆で繋がった、自分だけの家族の形を。
そして、時代は常に変化し続ける。
どんな輝かしい世代もいつか終わりを迎える。
ライブオンを「終点にして底辺」と揶揄しながらも、数々の奇行を否定せずに受け入れてくれた懐の深い土壌で。
リアルでは不甲斐ない淡雪もこの場所では、如何なく輝けた。
生きる伝説のマナさえも、褒め称えた淡雪の長所。
自分を曝け出しながら、誰とでも分け隔てなく繋がる事が出来る力。
配信者として相変わらずぶっとんだ配信を続けながらも、中の人が抱えた重い過去と向き合う淡雪。
しんどくて面倒くさい過去は、ずっと自分の肩にのしかかる。
それでも、ライブオンで配信をしている時だけは辛い過去を忘れる事が出来た。
何かに打ち込める事が、今の淡雪にとっては必要だった。
それは、仲間達も同じ。
普段は突拍子も無い馬鹿げた行動を配信して、道化を演じているが、それぞれがリアルに対してやりきれない不満や苛立ちを抱えていた。
そんな仲間達と苦悩を分かち合って、一つに繋がれた。
目標に向かって、一致団結して進む事が出来た。
現実は世知辛いが、淡雪にとってはこのヴァーチャル世界こそが、かけがえのない青春で。
普段の何気ない行動や自然な発言が巡り巡って、ようやく身を結ぶ。
ライブオンによって、淡雪は重たい過去から救われた。
伝説がいなくなった今、今度は自分がライブオンを救っていきたい。
今後のライブオンの機運は全て、自分達次第。
しがらみから解き放たれて、新しい自分になれるVtuberという役割を噛み締めて。
積み上げてきた絆は、第二の家族でもある。
今ようやく、気づいたのは、とっくに傍に居てくれた愛すべき存在達。
マナから生まれた光を淡雪が引き継いで、そして新たな世代はまっさらな舞台へと駆け上がる。
もう、過去には囚われない。
振り返る事はあっても、全部背負って進んでいく。そんな彼女の見据える先で。
ライブオンの次なる世代が産声を上げていく。
果たして新たに5期生を迎えるライブオンはどうなるのか?