読書記録:高嶺の花には逆らえない (2) (ガガガ文庫) 著 冬条一
【恋の花火に彩られて、少女は夏と共にベールを脱ぐ】
特別な夏にすべく葉はファミレスでバイトを始める中、あいりが暗躍して千鶴がダイエットの集大成を見せる物語。
夏は、いい意味でも悪い意味でも人を変えていく。
人の心は変わっていく、それが普通な事であり、悪い事ではない。
気温が上昇すると共に鼓動が高鳴って、一念発起して何か挑戦してみたくなる。
特に、夏休み明けの同級生が一気に垢抜けてイメチェンを果たしていると、驚く事だってある。
そうやって、夏は人を変えるきっかけを与えるのだが。
葉は心のどこかで気がかりを抱えていた。
それは、あいりと新が付き合っている誤情報を鵜呑みにした事。
その、はっきりとしない情報が足枷になっていた。
しかし、葉が足踏みしている間にも時は過ぎていく。
迎える夏休み、新からの宣戦布告とあいりの態度の豹変に驚かされる葉。
意を決して彼女をデートに誘う為に、文也の提案でバイトをする事を決める。
学生である彼に、唯一、条件が合うファミレスに面接に行ったものの、セクハラ店長に杜撰な対応をされて、にべもなく追い返されてしまう。
だが落ち込んでいた後日、採用通知が届いて待っていたのは、懲戒解雇された店長に代わる新たな規律正しい店長と、先にバイトとして入っていたあいりの姿。
新への餌代という名の食費を稼ぐ為に、先にバイトとして入っていたあいりが手を回してくれて、無事に採用されたのだった。
圧迫面接を何とか耐えきって、収入先を確保する事が出来た葉。
想い人に告白すべく、バイトで貯めたお金でおしゃれに着飾って、デートに誘う計画を立てたり。
バイトではあいりや柊さん、自宅には千鶴がいて。
葉が憂いでいた夏休みにはならなくて、なんだかんだ、充実しまくった夏休みを過ごす。
長期的な休みは学生の時にしかない。
だからこそ、何よりもかけがえがなくて、それを無駄にしない為に、今までにしてこなかった事に挑戦してみる。
その目標の為に、葉は齷齪と働きながら仕事を覚える中で、あいりは黒い復讐に囚われていく。
徐々にファミレスでの仕事のマニュアルを覚えて、先輩である美鈴に女心を教えてもらう葉にあいりが嫉妬する様子を見せたりする。
客足が途絶えず、忙しいが穏やかでほのぼのと進むバイトの時間。
その充実した時間の裏で、あいりがバイトしていると知った新は同じバイト先に応募してくるが。
SNSで自らの悪行を赤裸々に暴露されて焦燥感を募らせて、心の余裕を無くしていく。
だが、これも全てが彼が蒔いた種であり、はっきり言えば自業自得である。
しかし、矮小なプライドを持つ彼はそれを認める事が出来ない。
前回の終わりで、葉にあんな風に救われたのに屈辱感と敵愾心を募らせている。
彼の自尊心が、憎むべき敵に救われた事実を認められないのである。
そのちっぽけな器しか持たない彼氏に失望するあいり。
付き合っている筈なのにこれでもかと、新を毛嫌いして、まるで豚か何かのように接するかと思えば、葉に対してまだ秘めているけれど、これでもかと愛に溺れている。
彼女にとって、今一番重要な事は、新の心を完膚なきまでに叩き潰して、金輪際、縁を切ってやる事であり。
それが、彼女が黒い復讐に身をやつす本当の理由。
その為ならば、せっかく葉がしてくれた告白をにべもなく断ってしまう。
あいりは復讐を遂げた後に、何を望むのか?
新に敵愾心を持つあいりは、葉が自分に向けてくれている本当の気持ちに気付けない。
たとえ、将来の葉の為だとしても、今現在の葉は確かに、それに対して傷付けてしまっている。
あいりの黒い復讐は順調に進んでいく。
バイトで稼いだ餌代で、ジャンクフードを片っ端から彼に食べさせて。
道行く女子が振り返るようなイケメンだった新は、醜いデブへと成り下がる。
どんどんと落ちぶれていく新を見て、暗い笑みとほのかな達成感を浮かべたあいりは、最後にはしごを外すように、彼に決別の言葉を投げかける。
何故、ここまで新を貶める事を望むのか。
二人の間にはどんな過去があったのか、葉はそれを探っていく。
二人の過去を調べる葉を振り向かせるべく、行動や積み重ねがまったく対象的だったヒロイン二人。
片や一緒にバイトをしたり、腹黒い暗躍っぷりが凄いあいりと、葉の自宅で懸命にダイエットをして、将を射んと欲すれば先ず馬を射よの精神である千鶴。
辛いダイエットに励みながらも、葉とあいりの関係性に入り込めないと落ち込む千鶴は、美紀の優しくも、的確なアドバイスで自分の行動を肯定出来て、自信を取り戻し、一心不乱に減量に励んでいく。
そうやって夏休みはめくるめく過ぎていき、遂に訪れる決戦の日、夏祭り。
祭囃子に屋台に、神輿に浴衣、いつもと違う非日常で浮足立った空気感の中で。
葉は繊細な乙女心を察してあいりを連れ出して、いざ決定的な言葉を投げかけようとした途端に。
横やりを入れてきた新の毒のある言葉を、あいりは何故か肯定してしまい、葉の勝負は最低最悪な苦い記憶へと刻まれてしまう。
しかし、そこへ現れたのは、大胆にイメチェンを果たした千鶴。
元々、太っていたが一つ一つのパーツは整っていた彼女は、誰もが振り返るような絶妙なプロポーションを持つ美少女へと変貌していた。
しかも、見た目が変わっただけではない。
辛いダイエットを乗り越えた事で、人間性もかなり成長していた。
無自覚な優しさを振りまいて、それが新の心を傷つけていた事に落ち込む葉を、柔らかく受け止めて、三つの願い事を宣言する。
彼女の素朴だが飾らない優しさが、葉の心に落ちた影に、忘れられない温もりを残していく。
そんなハートウォーミングな一幕の間で、あいりが新に告げていたのは、過去に彼が自分に対して、してきた行為。
新が過去に起こした悪行の数々の、被害者の一人である彼女は、言うべき言葉を告げて、新の背筋を凍らせる、悪魔の三文字をせめてもの手向けに、贈ってやる。
その三文字には一体どんな意味が込められているのか。
その三文字は葉の知らないところで着実に動き回り、清楚可憐だけども恐ろしい裏側をも宿す乙女心の機微を見せる。
バイト先で新たな人間関係が広がったり、あいりと距離が物理的にも接近したりする中で。
新が更に追いつめられて、千鶴の頑張りは一定の成果を上げていく。
恋模様は、ますます混沌とする中で、真実の一端を目撃した葉。
果たして、葉とあいりの間にある過去とは一体何なのか。
そして、対照的であった、あいりと千鶴がそれぞれ違うベクトルで積み上げてきた成果。
夏休みも明けた先で、それぞれ対照的に変貌した千鶴とあいりは、葉の心にどのようにアプローチしていくのか。
努力を積み重ねて、生まれ変わった千鶴に対して、葉が正しく評価してあげて欲しいと願うのだ。
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