読書記録:迷子になっていた幼女を助けたら、お隣に住む美少女留学生が家に遊びに来るようになった件について (ダッシュエックス文庫) 著ネコクロ
【迷い猫のような君を拾ったら、家族のような温もりをくれた】
異国の姉妹と擬似家族を築く物語。
異国の地で、頼る物が無い状態というのは、暗闇の中で微かな道標も無い、暗中模索な状態だ。
明人の学級に留学生として来たシャーロットに、断絶された壁を感じる中で。
彼女の妹であるエマを助けた事で、壁を越えた不思議な縁に恵まれる。
エマも甘やかしてばかりではいけない。
育てる立場として、彼女のこれからを思って敢えて叱らなければならない場面もある。
それでも、子は鎹だからこそ、のびのびと天真爛漫に育って欲しいとも願っていて。
幼き頃の自分とはどんな物であったか、覚えておいていられる人は少ないであろう。
しかし、我々にも純朴な幼少期があって、世間の擦れを知るまでは無邪気でいられたのである。
彼女達と関わる中で、何故異国の地にやってきたのか、両親などはどうしたかなど、暗い過去が仄めかされる。
そんな後ろ暗い過去さえも。擬似家族のような関係を築く事で。
様々な縁が絡み合った事で深まる交流。
この温かな居心地の良い関係を育まれる奇跡を忘れる事なく紡いでいって欲しい。
しかし、平凡で温かい関係を見守る中で明人は、自分さえ我慢すれば良いという自己犠牲の境地に至っていた。
過去に抱えた「とある事情」から、親しき一部の者にしか本心を明かさず、まるで自己犠牲のようにクラスで嫌われ者として振る舞う。
そんな、学校一の秀才であり同時に問題児でもある彼のクラスに留学してきたシャーロット。
清楚で上品、可愛らしい彼女に感じるのは断絶。だからこそ彼は、自分から関わろうとせず一歩引いた態度を見せていた。
明人が積極的に悪役を買って出る事情は伺い知れないが確かな信念を持って、正義感を元に彼女達を心のない言葉から守っていく。
しかし、エマがめったに人に懐かない所や、シャーロットが普通の姉妹以上にエマに特別な感情を抱いている所に、何か深いバックボーンがある事が感じられる。
今まであまり見知らぬ人に懐かなかった筈のエマ。しかし、彼女は何故か明人にまるで実兄のように懐き、無邪気に彼の家を何気なく訪問して。
そんな彼女の保護者として、シャーロットもついてきた事で、エマを鎹にした二人の交流はぎこちなく始まっていく。
何気ない、けれど確かに温もりに満ちた日々。
それはまるで本物の兄妹のよう、家族のように。
けれど、無邪気さは時に毒となる。
無邪気に明人に接するエマを見つめるシャーロットの中に芽生える、言い知れぬ悶々。
それを発露させてしまい、すれ違ってしまう二人。
そんな二人を、今度はお返しとばかりに明人が繋いでいく。
エマと向き合い、シャーロットと向き合って。
向き合ったからこその先の方法で解決へと導いていく。
そんな彼女達の力になれるのなら嬉しい。
それはきっと、「嫌われ者」だった明人の切実な心から去来する物。
今はまだ名のなき花だけれど、きっといつか「恋」いつか花開き、エマを絆の架け橋として、小さな幸せを集めて、彼らならではの未来を導いていく。
互いの秘めた過去と、知られざる家庭環境を交流する中で、相互理解を深めていく。
互いの寂しい生い立ちを、アットホームのような第二の住処で、抱えた欠落を深めていく。
仲睦まじい関係もいつまでも続かない。
なせ、ベネット姉妹のご両親は彼女達を異郷の地に
飛ばして、肝心の自分達は何をやっているのか?
これからハートウォーミングな生活を送る上でこの問題は切っても切り離せない。
いつの日か、明人のトラウマの過去に触れる時、シャーロットの複雑な事情に踏み込む時、そこからどんな絆を結んで、如何様な物語が始まっていくのだろうか?