読書記録:お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件 (GA文庫) 著 佐伯さん
【天使のような君と歩む、暖かくて愛おしい日常】
自堕落な一人暮らしをする周は、同じマンションに住む美少女、真昼をひょんな事から救う事で甘くて焦れったい距離を縮めていく物語。
降りしきる雨の中で、儚げに佇む真昼に傘を差し出す事で始まった不思議な交流。
学校では愛らしい天使だと騒がれる彼女の等身大の人間らしい姿を知って。
荒んだ一人暮らしを送っていた周の生活を立て直してくれる。
恋愛感情の無い居心地の良い関係。
大切なイベントを共に過ごし、贈り物を交換しあった。
友人である樹と千歳が、恋仲である自分達の立場を活かして、二人の関係が進展するように気の効いたサポートをしてくれる。
自己評価の低い周が、真昼を生粋の美人と認めていても、恋愛感情にまで発展せず、他人と深く関わる事に怯えている理由。
学園一の完璧美少女という理想像を背負った真昼が、処世術として、隙のない完璧を装っている理由。
それはどちらも家族との関わり方に由来する物であった。
そして、それは二人が高校生という身の上で、一人暮らしをしている理由でもあった。
家族に対して、憧れを抱けど、他人に過度な期待をしない二人。
熱量の低い二人が、互いの深入りしない姿勢に惹かれあい、淡々と閉じられた心を開いていく。
互いに口では興味がないと、つれない無関心を装いながらも。
根底にあるのは、相手に対する眩い好印象だからこそ、態度や立ち振る舞いの節々に、気遣いと仄かな愛が滲み出る。
関係を急かす事はなく、互いの存在が隣にいる事が当たり前になっていく日常。
適切な交流から始まる、相手に何かを求めないパーソナルスペースを確保していく。
建前や取り繕ったよそゆきの顔ではない普段着のままの自分を見せる事に、忌避感を覚えなくなる。
そこから、学校での様子と家での様子のギャップを知っていき、自分だけが本当の相手を知っているという、独占欲という名の共犯関係が築かれていく。
日常生活をそんな風に過ごしていけば、知らない間に相手の事を考えて、意識してしまうのも無理はない。
ごく自然に、二人だけの世界が構築されていき、ラブとライクの中間に違和感なく収まっていく。
家事を徹底的にサポートしてくれる真昼のおかげで、壊滅的だった周の生活が彩りを帯びていく。
ただ、彼女に頼りっぱなしではなく、家事の教えを請いながら、自分でも出来る家事スキル向上も目指していく。
部屋が綺麗になっていけば、考え方も整理出来て、山積みになった問題に取り組む余裕も生まれる。
友達以上恋人未満な二人の好意の矢印はまだ、いまだに交わる事はない。
それでも、何気ない日常を共に過ごす中で、降り積もっていく想いが、素直な気持ちを引き出していく。
出会って触れあい、その人柄に惹かれ合う。
あの日の出会いから始まった、二人だけの運命。
不器用に少しずつ近付きつつある心の距離。
それは、転がり落ちるような劇的な恋ではない。
二人で暖め合いながら、ゆっくりと熟成させるように紡いでいく優しい恋。
ちょっとずつ心境が変化してく周と、家庭に複雑な事情を抱えていそうな真昼。
そんな二人はもどかしくも、甘酸っぱい恋模様と日常を経る中で。
真昼のお陰で、生活水準が上がった周は第二の家族のような関係を築けるのだろうか?