読書記録:じょっぱれアオモリの星 おらこんな都会いやだ (角川スニーカー文庫) 著佐々木 鏡石
【度が外れた個性も、理解を得れば唯一無二の輝きを放つ】
辺境に住む青年が才覚を現す物語。
地元の方言とはどこか気恥ずかしい物である。
しかし、それは自分を形作るアイデンティティで。本来は恥ずべき物で無く、誇って良い物なのかもしれない。
津軽弁が強すぎて、誰にも理解されず追放されたオーリンは、言い知れぬ哀しみを抱えていた。
そこで、翻訳スキルを持つ理解者、レジーナと出逢う事で、厄介だった個性はむしろ誇るべき才能に変わる。
魔法詠唱で才能を開花させたオーリンは、そのスキルを存分に活かしていく。
魔物や冒険者、ギルドが存在する王道の異世界と言った感じのとある世界で。
かの世界のとある国の王都に存在するギルド。
そのギルドに長年所属していた中堅魔導士のオーリンは、ギルド長であるマティルダから無情にも追放を宣告された。
しかし、それは彼が悪事を働いたからでなく、冤罪を押し付けられたからという訳でもない。
むしろ、彼は性格的にもごく普通、悪い人間ではない。
それでは一体、何故か?
それは所属していた長年の間、どうしても訛りの強すぎる方言が直らなかったからで。
この国の辺境に存在する地方、アオモリ。
その方言である、つまりは津軽弁。
それが存分に発揮された結果、文章にするとどう見ても東北の人しか分からなくないかとツッコミたくなるような文面となる。
無論コミュニケーションが難しく、連携も取れないという理由で、苦渋の決断で追放になってしまったのである。
しかし、彼には叶えたい野望があった。
アオモリにギルドを作りたい。
そんな願いの為に諦めず頑張れど、身につけている方言を捨てる事は出来ない。
それを捨て去る事は自らのアイディンティティを捨てる事と同義だから。
だが、そうやって悪戦苦闘しながら、前に進み続けた事で。
「捨てる神あれば拾う神あり」とでも言えば良いのか。
オーリンの事が気にかかり、彼の事を追いかけてきた新米冒険者、レジーナ。
生まれも育ちも都会に染まった彼女が身に着けていた用途不明のスキル、『通訳』。
そのスキルを通じて、発揮されるのはオーリンの真価。
日常生活で禁呪を使うような魔境で育った彼は、言葉が通じないと言うハンディーキャップを乗り越えて、Sランク冒険者を軽々と一蹴する程の力を見せる。
そんな二人はコンビを組み、共に依頼へと向かっていく事となる。
彼らの前に立ち塞がるのは、呪術で操られたフェンリルや、暴走する街の守護竜である飛竜。
次々と襲い掛かる脅威の中で。
三大強情の一角とも呼ばれる津軽じょっぱりを披露するオーリンに、時に置いて行かれそうになりながら、負けないと言わんばかりに江戸っ子ぶりを見せつけて、少しずつ運命共同体となりながら、脅威に立ち向かっていく。
そして有力貴族ズンダー大公家の邂逅によって、彼らに齎される確かな変化。
恥ずかしい方言を多様するのも、ひとえに故郷に対する愛があってこその物。
慣れ親しんだイントネーションを正義とする世界に対しての弾圧。
相手とまともにコミュニケーションが取れなくて、白い目で見られても、自分の今まで培ったポリシーは変えたくない。
東北地方の強い思い入れが、オーリンを頑なに強情にさせていく。
自分を分かってくれる人だけ、大切に繋がれれば良い。
それは開放的な都会では得られない。
田舎の閉塞感で鍛えられたそんなメンタリティを貫く事で、思いもよらぬ化学反応を起こし、魔法の詠唱と津軽弁の相性の良さに気付いていく。
訛りがキツすぎてコミュニケーションに難があるオーリンと、『翻訳』のスキルを持つレジーナは唯一無二の相棒となり。
独立して個の才能を遺憾なく発揮していく彼を、健気にフォローする事で、これ以上ない程に上手く噛み合う事に成功する。
理解されるからこそ、分かる物がある。
真価が理解を得られる時、最強の力が目覚める。
それは、唯一無二同士が融合して、生まれる無限の力。
干渉してくる全ての障壁を乗り越えて、オーリンは叶えたい野望に辿り着けるのか?
二人三脚で、迫りくる困難を乗り越えて、東北の地を縦横無尽に駆け巡るのだ。
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